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実際には一度も訪ねたことのない場所を、まるで自分にとって思い出深い場所であるかのように記憶していることが、たまにあります。
それも、ドラマや映画のように映像として見せられた場合よりも、小説の中に描かれていた場所(つまりは、自分が想像しているイメージのようなもの)のほうが、不思議と強く印象に残っているような気がします。 この作品の舞台は、ばななさんが子供のころから慣れ親しみ、「もうひとつのふるさと」と呼ぶほどに愛してらっしゃる西伊豆のある町。 私はその町を旅したことすらないのに、読み終えたときにはまるで遠い親戚が住んでいる場所であるかのような親しみを抱いていました。
主人公の、他の登場人物…あるいは事柄に対する距離の置き方―。私がばななさんの作品を好きな理由のひとつが、これです。 そしてそれは、主人公たちと読み手の距離の心地よさでもあるように思えます。 何か大きな事件が起こったことによって、人が変わるわけではない。 自分が大切に思う誰かが今日も健やかであると知ることだけで幸せになれるし、自分もまたずっと健やかでありたいと願う。 日々なんて、きっとそんなことの繰り返しに過ぎないんだ…。 ばななさんの作品に触れるたび、私は日々の雑事によってブレてしまった自分の芯が、きゅきゅっと真ん中に戻ってくるのを実感します。 |
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