『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年04月14日(日) 行列に並べずに少しうたってた。

朝5時の電車に乗って、あなたの顔を見にいきました。


いくらこわくても
たぶん
そのときにやらなければならないことが
たぶん
あるんだと思いながら。



マイクロバスに乗せられてやってきた火葬場の庭で、
わたしはブランコにのりました。
水色に塗られたブランコでした。

おどることは大好きだけど運動がおそろしくきらいなわたしには
学校の校庭にある遊具という遊具はだいたいが恐怖の対象でした。
だけど、そのなかで、ぶらんこだけは別で
そのぐらんぐらん不安定にニ本の鎖で空とつながっている板に乗っかって
いつまででも日が暮れても揺らしていられた。十年以上も。
揺らしすぎた鎖がはずれても、頭から落っこちて体をすりむいても
やっぱりあたしはぶらんこに乗りました。

ぐぐぐっと上がる最後の数瞬がものすごく好きだった。


それを長いことあたしはすっかり忘れていたけど
その水色のぶらんこは、あたしをおぼえていてくれたようでした。


十年前、おじいちゃんが死んだとき
あたしがやっぱり
マイクロバスに乗せられて、この火葬場にやってきたことも
親族控室の大人の話に飽きて、この水色のぶらんこに乗って
おじいちゃんがすっかり骨になってしまうのを待っていたことも
それから
そんな退屈したあたしと、この「今はもういない」サトくんが、遊んでくれていたことを。

ぶらんこが揺れててっぺんに近づくとき。
ぐぐっぐぐっと迫ってくる、その薄ぼやけた水色の春の空と
もしゃもしゃの雑木林の境目の景色が、そんな十年もまえの
行き場に困った制服の女の子と大学生の、
途方にくれたぶらんこ漕ぎをきちんとおぼえていて、
あたしに教えてくれました。


そういえばあのときも春だった。
いまとは、ひとつき違いの春で、
桃の花の季節で。




十年。

制服を着られなくなってしまったあたしは、
ひとりで、
おろしたての喪服で、黒のタイツで、
こっこの「Raining」を大声で歌いながら
水色のぶらんこから、サトくんと、サトくんと一緒に入れた菜の花と、
あたしのなみだが煙になるのをみていました。


菜の花。

朝、どうしてもどうしても花をあげたくて、しかも菜の花をあげたくて
ここらへんには花なんてないよという親戚中のひとの声を背中に
控室にあったはさみを喪服のポケットにつっこんで
着いていこうかという従兄やおじさんの申し出も断ってあたしは葬儀場の外に出ていきました。
それは唯一、あたしがひとりでやらなくちゃいけないことだった。
女の子の感傷だねと笑いますか?
でも、あたしは、あたしのかけらを一緒に焼いてもらいたかった。

菜の花。

笑うとほわほわしてたよりなくて、ちっとも店屋で売っている花みたいじゃなくて
もっとずっとありふれた春のひだまりみたいだったサトくんだから。
走って5分、道ばたに菜の花はありました。
ごめんね、一緒に焼かれてあげてねとお願いしながら菜の花をむしって
それから空き地に群れていたむらさきだいこんの花を切って
走って帰りながら
心の中ですこしだけ泣きました。


水色のぶらんこと、
菜の花にむらさきだいこんの、ちゃちな花束。


たぶんそれがあたしのお葬式でした。



まっしろなほねはもうだれのものにも見えなくて
ぶらんこに乗ったあたしの背中をふざけてぐんぐんと押してくれた腕の骨は、
どこにもなくて
ざらざらと鳴るキナリ色のかけらと仰々しい紫の覆いばかりで
あたしはすっかりあなたを失いました。


ぴかぴかに磨かれた葬儀場のガラスにうつったあたしには、
腹立たしいほど喪服が似合っていました。




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 遊びに行ったうちで、あなたを探さなくていい日が
 そのうち来るのでしょうか。


 わたしには、よく、わかりません。

 ただ、この今日のうすらかなしいような青い空を、おぼえていようと思います。


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 お知らせ

 名前を変えました。
 ねこ、あらため、まなほ、です。
 とくに理由はありませんが
 そんな名前らしきものをじぶんにつけた日があったことを
 思い出したので。
 ノンフィクションなわたしを知っているひとにとっては
 ほかの発言といろいろズレが出ることになると思うけど
 元来きまぐれな「ねこ」のことです。
 笑ってご容赦くだれば、幸いです。(笑)

 甘えたわたしを許してくれてありがとう。


 2002年4月16日



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