まよなか、 月のない日、 冷蔵庫のうなりごえ 蛍光灯のてらす腕
すばらしいシチューが煮込まれた 鍋と、それをかきまぜていた腕 この胴体からたしかにつづいていたの 真夜中、ひとり、欠けて落とした 空気をそっくりとりかえた
宵、わたしはシチューをもぎとられ たとえば林檎をきざもう 深紅の皮のしろい果物、 こまかくこまかくどこまでも 色の区別のなくなるまでに
口にはこんだ銀色スプン とりとめない食物を山盛りに わたしの目の先、うかびながら はらはらとそらなみだをこぼしたの
林檎をきざみ、林檎をすくう 痛いも苦しいもすべて不安げな肢体も くるおしさはすべてこの手で撹拌された みえるのは、ほら ただ、うっすらいろづいた 濁った白の果実だけ
わたしはみつめる わたしはうろつく わたしは泣いて そうして忘れて
林檎はぜんぶをたべたから 深紅の色をスプンの下に ひそませながらじっと待って すべてをみて
早朝
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