この夜の雨はまるで季節のさかさになったように降るから あたしはその音の打ち寄せるたび、天井の下で小さくなる 弱小な、やわないきものは たったこれだけの雨音で じぶんをみうしなえるのね あるいは 見つけられるのね いつもは(たぶん)隠し通せている おびえながらせかいに、つかまっている立ちんぼの存在 どこにいるのかいていいのか 次々、わからなくなっていくから
夜の雨
波のように強弱をかかえながら ふたしかなものを、うちたおしにくる
朝が来る、とて すくわれるわけでなく
となりに誰がいるんだろ いても、いなくても
あたしは雨の音で咽までいっぱいになり こころは心臓とからだの怯えを すきまなく抱えて、聴いていて
きみのキスも あたしをここから出せないって それだけは、もう ずいぶん前から知っている
けど
……ひとりでこわがる、それはとても、こわいよ
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