ジョージ北峰の日記
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2003年03月31日(月) |
雪女”クローンA"の愛と哀しみー4 |
私はほとんどの遺伝病は劣性で親には発現しないで子供に発現する、殊にX染色体(性染色体)に劣性の遺伝子異常がある場合、X染色体が2本ある女性(染色体構成XX)では、他のX染色体が正常であることが多いので、異常形質はほとんど発現されないが、X染色体が1本しかない男性(性染色体構成XY)では100%発現される(伴性劣性遺伝)、例えば色盲、血友病などがその例だ、一方優性遺伝は子供より成人に発現することが多い、ハッチンソン舞踏病が有名だ、等説明していた時、彼女はコーヒーを飲みながら何気ない風に、クローン人間の場合は如何なのかと尋ねた。 クローン人間の場合は人の体細胞を使って発生させるから、異常遺伝子のない人の細胞から核を採取すれば出来たクローン人間に異常はないだろう、と理論的には言えるだろうね。 だとすれば、子供を作る時体細胞を使うほうが遺伝的には安全なのですか? いや、しかし別の問題があるのだ、と答えた。 何が問題なのですか? とあくまで何気ない様子で尋ねる。 ああーー今思い起こせばこの時私が彼女の真実、質問の本当の意味を理解していたらーーそうすればもう少し、慎重に配慮した話をしていたはずだった。 しかしこの時、私は不注意にも日頃から先端医学に対し自分が抱いていた疑問、批判的な考え方をかなり強い調子で話してしまったのだ。 動物、人間の発生、老化の機構はほとんど何も分かっていない。しかし体細胞を使った動物の発生実験(クローン動物)はこの機構を解明するのに極めて重要な情報を提供してくれるだろう。例えば、受精細胞と体細胞の遺伝子構成が同じか、異なるのか。人間が受精卵から、胎児、新生児、子供、大人、老人へと発生、成長して行く過程で細胞の遺伝子が全く変化しないのか、それとも変化するのか等。 しかし細胞の老化については面白い実験がある。例えば、人間の胎児細胞は、試験管内では約50回分裂すると老化・死滅する、しかし成人の細胞は採取される年齢に応じて、残された細胞分裂回数に影響が現れ、年を取るに連れて、その回数は減少する、即ち老化した細胞は細胞核内にプログラムされている老化遺伝子が逐次発動、細胞の老化が進行すると考えられている。生体の老化も細胞の老化と一緒で生まれた時からプログラム通り進行する、と考える。この理論を支持する証拠として、最近幾つか老化の遺伝子が見つかっている。 もう一方の老化の考え方は、体細胞は人の生存中、色々な環境変化に遭遇する。その過程で様々な突然変異が発生、遺伝子に損傷が蓄積する、その結果として老化が進行すると考える。 どちらが正しいかは今後の研究で明らかになるだろうが、真実はどちらか一方だけが正しいと言うわけではなく、両者が複雑に絡み合って生体に作用、老化が進行すると考えるのが妥当だろう、いずれにしても、生物の生長・老化の過程で遺伝子が変化すると言うことでは両者とも違いがなく、そういう意味で体細胞と受精直後の細胞とは根本的に異なっていると考えたほうが良い。 体細胞は老化するのですか? 彼女は窓の外に目をやりながら質問した。 つづく
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