僕のサヨウナラ
正しくは、ないから 冷暖房のきいた部屋の中で、 布団でバリケード作って、 僕は安楽に縮んでいる。
「僕のせいじゃない」って思うのも、 「僕のせいだ」って思うのも、 なんだか人間小さくてやだ。 何だろう、そんなに理由を求めないでも、 少しずつ地軸は傾いていき、 少しずつ北極星は真北からずれていく。 僕の手が痺れているあいだにも、明日が少しずつ近付いてくる。
あぁ、風邪だと自覚する一歩手前の悪寒未満がする。
僕の手のひらの上であのひとの幻影が縮んでいく 太陽よりもずっと強い光線で焦がされているような、 無駄な言葉を少しずつ忘れていくような、 罪悪感に裏打ちされたままの微妙な幸福感 触れてはいけないガラスに指紋を残しておくような、 寝乱れたままの髪で教壇に立つような、 背徳だと見透かされるまでの緊張を 舌先で 甘く甘く煮詰めている。
あぁあれは 恋人の声だ。
この、 あやうい均衡の保ちかたを、 一体誰に教えられたのだったかを 僕はいつかぼんやりと思い返している。 いつも僕は 少しだけ左に傾いているので 右肩を下ろすように注意される。 それと同時に、 もともと傾いている胸の水槽から液体が少しずつこぼれて 僕の明日が少しだけ短くなる これでもか これでもかと あのひとが少しずつ僕を押し潰していく。
いつも僕は上手くさようならを云えないでいる
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