あのひとのものでない哀しみを あのひとが恋うるように
いつもあのひとは一歩遅れて立って 拾えなかった花が水の中へ沈んでいくのを哀しんでいるのだ 本当は 自分のその手のひらで 花を 散らしたかっただけだと 私にはもう わかっているけれど。
あのひとの眼は背を向けるものだけを追って
摘まれたつぼみには もう 咲く資格はないのです ふっくらと ほころぶ権利はないのです ただこの手の中で しおれるだけ 花びらの奥を 暴かれるだけ
あのひとは 花が咲くのを見たいわけではなく 花が散るのを見たいわけでもなく つぼみなり花なりが その手からばらばらになってこぼれるのが見たいだけで そのためだけに枝を手折り 花を摘むのです 花盗人とは 違って
散り落ちた花は もう 花ではないのです いくら美しくても 花ではないのです 散らされるためにある 花こそが
うるわしく
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