| 2003年02月19日(水) |
炎の15人の兄弟日本列島 |
バスが走り出してすぐ 雨は雪に変わった それでも私はその場の誰よりも冷静で その場の誰よりも情熱的であろうとしている ブレーキを踏む運転手の斜め後ろで 私はアクセルを踏み続ける 無残に踏み殺してゆく雪のしゃりしゃり言う音を脳裡におぼえながら 私は全く確かな 華やかな雪の血液を思っている
炎の15人の兄弟は 北から日本列島を縦断するにあたって たくさんの火事を巻き起こし 警察から探偵からマスコミからヤクザから追われて いつも夜行バスで眠り 時々は北に戻りながら 行く先々で火事を広げ 火をかけながら 少しずつ暖かな南へ どこか遠いユートピアを目指していたようだったと目撃者は語った そんな恐ろしいことをしそうな人間には見えなかったけどねぇ
バスの視界をさえぎる 白い粒の花びらは 時折思い出したように窓にびたりと貼りついて バスの中身を覗き込む あれは 監視員です 指名手配犯を探しているのです 振り返ると バスの乗客は もう既に言葉もなく 首をすくめて眠りにつこうとしている
炎の15人の兄弟 とマスコミから警察から名付けられた彼ら15人が 本当に兄弟だったのかを知る者はなく 何故に火事を巻き起こしたのかも 今となっては謎で 理由を欲する多くの人によって研究されつつあるけれども 未だにその生態は謎に満ちたままだ 山にあっては落ち葉に枯草に 海にあっては油を流して 火を 炎を 点けた彼らは何が望みだったのかは 誰も知らない
静まるバスの内部において 冷えていく空気に雪が積もっていく さら さらと 運転手は苛立たしげにワイパーを動かして速度を維持する 振り向くと きっとバスの中は冷たい寝息に満ちているので 伸びていく道だけを見つめてひた走る 凍りつかないうちに次の駅へ着かねばならない
炎の15人の兄弟 バスの中で会った子供には飴玉をやった彼らの 真実の姿を知る者はいない けれど追われ続け逃げ続けて彼らは常に無口だったという 本当に15人いたのか 実はもっと多かったのか少なかったのか 最後に 眠りながら自分たちの乗る夜行バスに火をつけた彼らは 運転手ほか乗客を窓から放り出し 桜島の火口へバスもろともダイブした だから彼らが本当にはどうなったのかを知る者は居ないと言っていい
炎の15人の兄弟 と呼ばれた15人の放火魔を私は思い出す 最後まで捕まらなかった彼らの 黒っぽい指名手配の写真 雪国へ バスはひた走る 彼らの故郷は恐らく北の方だと皆は思っている けれど 私がもらった飴玉は沖縄の黒飴で 彼らの浅黒い肌は太陽の匂いがした それは とりあえず私だけのひみつ 私だけの ひみつ
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