雨が降りそうにゆがんでくる空を見ながら、 朝はもう遠い、とわかった。 ひきつったように雲は降りてきて、 あなたが好き、と言った指先がゆっくりと意味を無くして溶けていくのが見えた。
さようなら、 電車に揺られて窓に叩きつけられる雨粒を数えている。 真っ青な空がちらり、と雲間にのぞいて隠れた。 あのひとの髪に這わせた指を、 チョコレートで黒く汚しながら口元に運んで噛みしめる。 舌の上でなめらかに流れるのは凛々とした声とカカオの苦味。
歯列をなぞって舌が言葉を探す。 縛られているのは恋だろうか、 それとも 冷ややかに去っていく夕立とあれが濡らすあのひとだろうか。
ホームに降り立つと雨が濃く香った。 降りそこねた恋が濡れたレールに滑っていく。 頬に名残りの雨が弾けて、 さみしい、と言ったあのひとの目の色に空が濁っていく。
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