口をつぐんで眠るはずの夜、 知らず知らずのうちに言葉はあふれる、
自分を客観的に見ることなんか、 絶対にできないと思う、 今は、 特別な今は、 たぶん特別であるはずでも特別視したくない今は。
雨の音が耳元でぱたぱたとざわめいている、 夜の雨を、 その闇を安堵のように思う日が来るなんて考えもしなかった、 怖れは、 僕がずっと抱いていた怖れは感情だ、 だから僕は今それを否定する、 僕は今、 たぶん生きていてはいけない、 精神を揺らしてはいけない。
僕は訴えたくはない、 己の惨状を、 己の見る悲劇を、 この僕に同情せよと世界を動かしたくはない、 そしてこのあえかなかなしみを、 あのひとに向けて吐き出したくはない、 何よりもまだ僕が、 己を理解しようと努めて果たせないだけなのだ。
類推を僕は拒む、 憶測を僕は排する、 たとえどんな真摯な同情も僕は嫌悪する、 遠くへ、 遠くへ、 どこかあきれるほど遠くまで、 そんな勝手な慰めなど消えていってしまえ。
知っていたよ、 ずっと前から、 ずっと前から。
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