夜半、雨漏りの音がする、と思って目が覚める。 ぴつぴつと、したたる雫のような炭酸の泡のはじけるような音。 原因は久しぶりに点けた暖房器具の作動音のようだったけど。
枕元のらいおんを抱き寄せる。 ほのかに、とてもほのかにあのひとの匂いがする。 そこにあるだけで、 部屋にあのひとの気配が満ちる。
まるで、 あのひとがそこにいるよう
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この、心が もし詩にならなければあのひとは何と言うだろう。 だけどそれでいいのじゃないかしら。 それくらいしか、 僕があのひとにできる復讐はないのだもの。
だけど僕にはわかっている。
たとえ僕が、あなたのために詩を捨てる、と そう言ったとしても、
あのひとは一瞬その罪業の甘さに打たれて言葉を失くすのだ。
どんなにその後の否定が激しくとも、 その一瞬が雄弁に物語る。 皮肉なのは僕も同じ類の人間だということ。
生きていくのに必要なのは幸福ではなくて罪の意識だ。
つまりは原罪を謳うことが人をようやく生かしめているという事実。
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