ゆるく、霧雨に煙る道を下ってゆくと、 朝が少しずつ翳ってゆくのが見え しらじらと昼が 浸透してゆくのがわかる 実は傘は嫌いなんでした。 少しずつ重くなってゆく前髪と そこに露のように宿る白い水玉を やわらかな視界にゆるしながら僕は小さな駅へ向かう それらはあこがれに似ている。 かばんに はちきれそうに詰めたおみやげもののどことなくしあわせな重みだとか きのう会ったひとの眠そうな眼のやさしさとか ふかく恋をしているひとの無敵な笑顔とか そういう 手に触れればたあいなくほどけてしまいそうないとしさに浅く息を
する
いとしいひと とどかない声はどんなに遠くでもおなじように響くと僕は信じる あなたの眼の奥の疑いを僕は愛する それらが僕をここにとどめる 簡単な僕の嘘を安堵するひとにだけ僕は焦がれる そしてかぎりなく平凡な朝を僕は愛する
だれかひとりのためだけの僕の名前なんか何処にもないのだと知っているあなたにだけ僕は焦がれる
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