あの、と
ロッカー室に入ってきた誰かに口を開きかけて、止まる 手の中には1通の封筒がある
誰に 託すわけにもいかなくて 仕方なく指先で細く封を切る。
中には、 ひとに渡さなくてはならない請求書とか 連絡書きだとか そういった事務的な大切な書類が入っている
ほんの 15分ほど前に見たひとのことを思う。
ぐら と 世界が歪む感覚。 あの ひとに 渡さなくては、と 考えて
あぁもうあのひとには会えないんだったと
会わないと決めたんだったと
思い出して不意に視界がぼやけた。
あぁ、会いたいなぁ とか 声を交わしたいなぁとか こまごました すべての感情を押しのけるように
あの偶然のようにすれ違うようにあの ひとの 姿を見たこと を
紛れもなくこの自分は悦んでいた。 何の、作為もなく只の偶然のもとにあのひとの居る場所に居たことを 息もできぬほど
そして 知っていた あのひとも たとえ目を見交わすことすらしなくとも ここに、この自分が居ることを知っていたと。 あのひとを見たことも、 それを今 思っていることも 焦がれるように此処にその 想いがあることも あのひとは知っていると 知っていた
それだけで まだ 死んでもいいくらいにこころがうごく
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そんな、夢を見たのでした。 目を覚ましてなお、現実のような。 夢の方が魅力的なことは多々あります。が、終わらないでほしい夢はやはり、年にたったの2、3度です。
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