思い出を、拭うように何度も唇を合わせ、憂鬱な空が見えないように目蓋を閉じた。
どこへでも行ってしまえばいいどんなにでも壊れてしまえばいいと思うのは僕の悪い癖で、それで切り捨てられるものなんて本当はそう多くない。
それでも暗い予想から心を切り離すように強く、ひとの背をかき寄せた。 これでもう、 本当はイヤだったんだなんて言い訳はできないと思った。
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本当は少しでも、誰かに優しくしたいと思っている。 その優しさが何かになって戻ってきてほしいと思っている。 弱音を吐いても許してくれるひとがいればいいと願っている。
願いは思えば思うだけ、子供じみたわがままにしか聞こえなくなって自分に跳ね返る。
心は透き通るものだと思っていた。 それがどんなに嘘くさくても、自分さえ信じられればそれが真実だと思った。 自分さえ信じ抜くことができれば。 正直さは自分の鎧だと思っている、けれど大義名分がなければ何ひとつ言えない自分はひどくわずらわしい。 誠実さと正直さは違う。 けれど詭弁と嘘はどこが違うのかよくわからない。
たったひとつの願い事すら口に出せない。 それはただ、この世の誰にもそれを否定されたくないからだ。 ただ心を澄まして、願い事として編み出される取り澄ました美しい言葉の下に気付くとき、その執着に何度でも僕は打ちのめされるからだ。
心、こころよ、
その頑迷な響きのことば!
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