【3】烏のみちしるべ

 思いのほか疲れてしまったので故郷へ帰りたくなりました。桃源郷を想うように、故郷に、帰郷に恋焦がれています。
 けれど行く手は分厚い暗雲に阻まれていて、希望の気配すら感じとることができません。

「絶望なんてできないんだよ」
 やけにギトついた視線の女の子が言いました。
「そう言う風にできているんだよ」
 その子には近づいてもらいたくないと、密やかに、そして強く強く願ってしまいます。
「忘れていた方がいいの」
 私の気持ちを知ってか知らずか、一定の距離を慎重に保ちつつ、彼女は永遠とも思えるような話をしました。泡のように消えてしまう不思議な話です。
 そして、話の終わりに「シー」と、指でくちびるを押さえました。それはやたらと響く悲鳴のようで、私は耳を押さえてあえぎました。

 ほとぼりが冷めた頃、深い眠りに落ちそうな倦怠の渦中、烏がまっすぐに鳴くのを聞きました。
「そっちじゃない。道を間違えると高くつくぞ」
 高く?
「料金がかかると言っているんだ」
 つややかな羽が誇らしげです。

 もう、どうでもいいやと思いました。
2005年03月21日(月)

寝言日記 / 杏