【5】くだらない出来心

 シャワーを浴び、身支度をはじめたのが16日の午後。光ちゃんと1泊2日で私の故郷へ向かうはずでした。

 烏が光ちゃんに言ったそうです。
「どこへ行くって?」
「日本海側の君達の生まれ故郷さ」
「そこは今行く所じゃないだろう?下手すると命を落とすぞ」
「命を落とす?」
「下手するとだ。たまには心の赴くままに車を走らせてみたらどうだ?どうせお前は観光名所くらいしか知らんのだろう?」

 かくして私の意志は阻害され、気付けば東西逆方向の地点に立っていたと言うわけです。

 あのまま西へ向かっていれば、私はさらにさらに西へと突き進んでいたことでしょう。いえ、そのつもりでした。
 17日の午後に光ちゃんと別れ、瀬戸内海の橋を渡る手前で一泊し、18日の朝にはとある小島にあると言う父君の墓を確認。さらに西へ…。
 目的地の手前の街で一泊し、19日には目標が達成されるだろうと踏んでいました。

 心の均衡が崩れることは覚悟の上です。均衡が崩れていたからこその選択かもしれませんが、それ以外に何も見えませんでした。何を望んでいたかは謎です。

 眠たげな大女が話しかけてきます。
「死を望むって?」
 無粋な顔つきに変わります。
「馬鹿げたことを言うのも大概にせいや!」
 腹の底に響くような大声で私を笑い飛ばします。そんなに笑わなくてもいいのに。

 地震に遭う遭わないが問題ではなく、足止めをくらうことが問題なのです。そこはあまりにも引き止めるものが多すぎて、引き止められるものも多すぎるのです。
 ごめんね。血を分けた縁だと言うのに、私は何もしてあげられません。何もしようとは思いません。
2005年03月27日(日)

寝言日記 / 杏