【8】見守る子

 群青色の服に身を包んだ、線の細い男の子がいます。

 光ちゃんの話によると、母君が「流産した子の名前を海彦」と言っていたそうです。
 なぜか積木は京都のお寺で彼を供養してしまいました。つまり海彦君は、生きながらに供養されているのです。
 私は昔から海彦君を知っています。「彼が見てる」そんな確信があるからくじけませんでした。足長おじさん?

「海に行きたいんだよね?」
 部屋の隅にうずくまっている彼に声をかけてみました。

「ちがう。見てる」
「いつも見てる」
 両膝の間から上目遣いで、少し恨めしそうに言います。

「そうだったね。いつもいつも見ていたね」

「いやだった?」

「ううん、心強かったよ」

「それはよかった」
「ボクは見るくらいしかできないけれど、きっと忘れない」
 膝に顔をうずめてつぶやくように言いました。

「海の近くに住むといい」

 私はなぜか海に行くと寒くて寒くて凍えてしまいます。例えそれが夏だとしても、寒すぎて具合が悪くなります。

「何故だろう?」

「みんな海に沈んでる時計の所に帰ってくるよ」
「山彦はボクには見えないけれど」

「貝は昔の話をするんだ」
「耳を当てたら話し出す」

「ボクは見る、君は聞くの?ボクの話も?」

「思う存分しゃべったらいいよ」
「私は聞くくらいしかできないけれど、きっと忘れないから」
2005年07月30日(土)

寝言日記 / 杏