短いのはお好き?
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「ほう。これはこれはどういったご趣向ですか?」
名を呼ばれたあゆむは、ぼろんと前を出した格好のまま、医師に向いあって座っていた。
「社会に適応しなければなりません」 「なるほど。で? つづけてください」
「そのためには、先ず自分をさらけ出すことが肝要です。自分の殻のなかに閉じ籠っていたのでは、いつまでたっても社会に適応することなどおぼつきません。 先ずは、自分の心を開くことです。すべてをさらけ出す。それにより社会にまっすぐ向き合うのです。背を向けてはなりません」
「その点についてはまったく同感です。……しかし、そのこととソレをさらけ出すこととはちょっと意味合いが違うのではないのですか?」
「いえ、そうではないのです。心と身体は密接不離の関係にあります。つまり、心を開くこと即ち、ジッパーを下げ最も恥ずかしい部分を白日の下にさらけ出すことは、まったくの同義なのです。 心を開いて己の醜悪な何者かに蝕まれた病巣とでもいうべき部分を世間にさらけ出す、そのことは、つまり身体の恥部をさらけ出すことにまったく重なっているのです」
「そうなのですか、そういったお考えあってのソレなのですね。よくわかりました。 ……しかし、ここでちょっとお聞きしなくてはならないのですが、……あなたは先程ご自分の心は醜悪であると言われましたが、実のところ無垢なるものとお考えになっておられるのでは? つまり、社会こそ害悪に充ち充ちた世界であり、己の無垢なる魂をその罪穢によって汚したくはないと……」
「いえ、そうでもないのです。そうでもないというのは、つまりそうでもあり、そうでもないということなのですが……。これは、ちょっと微妙なところです。 先生のおっしゃる通り、私は自分の魂を無垢なるものとも考えております。ただ、それと同時に……というか、それに等しく醜悪なるものとの思いも強烈に共存しているのです。ここは、いわく言いがたいところなのですが、わかっていただけましょうか?」
「……なるほど。ご自分の心は無垢であると同時に醜悪である、ということですか」
「そういうことになります。……そして、そのことにより私は、これまで…それから、これからも悩み苦しみぬいていかなければならないのです。 それが、わたしの『生』というものなのです」
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