2007年07月29日(日) |
さあ、どうするオシム監督 |
アジア杯は、イラクがサウジアラビアをくだして初優勝。この結果を予想したサッカー評論家は、おそらく、少数だろう。観客席の“Peace for Iraq”の看板がまぶしい。イラクチームの団結力、選手の精神力の賜物だ。イラク代表に最大の敬意を払おう。
優勝候補ナンバーワンの日本は韓国にPK戦で敗れて、4位に終わった。この試合、準々決勝のオーストラリア戦と同様、相手が退場で1人少なくなったにもかかわらず、日本は勝ちきれなかった。イラク選手の爪の垢でも・・・と言いたくなるような、ふがいない試合だった。日本代表の弱点は、精神力の弱さだ。選手に勝つ気力がみなぎっていない。もう一つは、選手が萎縮していることだ。シュートをためらうのは、監督に怒られるからだろう。決定的とはいわないまでも、シュートを打てばボックス内で何が起こるかわからなくなることもある。それでもパスにこだわるのは、形にこだわって、点をとるというサッカーの本質を忘れているからではないか。
準決勝の相手・今回の韓国チームは、ベストメンバーではなかった。韓国の海外組はケガ等を理由に大会に参加しなかった。韓国のFW及び中盤の攻撃陣の中心は、現役JリーガーもしくはJリーグ経験者。一方、守備陣はW杯ドイツ大会に出ていない若手で構成されている。若手守備陣が安定した守りで失点せず、あまり強力でないベテラン攻撃陣の得点力不足を補ってきた。この試合はその典型で、1人多い日本の攻撃陣を完封した。
今回のアジア杯では、主要国の代表メンバーの方向性が見えていないことが共通事項(イラクはわからないが)だった。W杯ドイツ大会のメンバーのまま参加したオーストラリアしかり。また、日韓は似た状況にあり、新旧の交代に窮している。イランも同じだ。ただ一国、W杯メンバーと新戦力のバランスがとれているのがサウジアラビア。選手の資質とチームの方向性が同調している。ここから3年間かけてこのチームが新戦力を加え、チームを仕上げていくに違いない。
さて、日本4位の結果を受けて、日本のスポーツジャーナリズムの風向きが変わってきた。これまでのオシム神格化が後退して、オシム采配のミスを批判する論調が支配的になってきた。筆者はアジア杯を通じて、“オシムジャパン”に疑問を投げかけてきたが、その立脚点は日本のスポーツジャーナリズムと異なる。筆者は日本代表がアジア杯で4位に終わった責任を、オシム監督に負わせようとは思っていない。アジア杯の覇者は一国に限られるが、W杯出場は4カ国まで許される。アジア杯はW杯に至るステップなのだから、3年後を見越した総括が必要なのだ。
直前の当コラムの記述と重なるが、アジア杯終了時点における最重要課題は、代表チームの今後の顔ぶれだ。W杯ドイツ大会の代表メンバーのFW高原、MF中村俊、DF駒野、加地、中澤、GK川口を南アフリカ大会までの中軸とするのか、今回で見切るのか・・・
アジア杯3位決定戦の直前、オシム監督は控え組の起用をほのめかしながら、結局はそうしなかった。韓国戦の先発メンバーが意味するものをどのように解読するかによって、この先の日本代表のイメージも変わってくる。
解釈は以下、3つある。第一は、韓国戦に起用したメンバーがこの先も日本代表の中心なのだというもの。勝っても負けても関係ない。第二は、主力メンバーで韓国に勝ったら、日本代表チームに改造を加えないが、韓国に負けたらいまの主力を見切り、アジア杯以降、代表メンバーを一新する。第三は、勝っても負けても、代表メンバーを一新する。
筆者の希望としては、ここで主力を入れ替え大幅な若返りを果たすべく、大改造を行ってほしい。まず、チームの中心を中村俊から阿部に切り替える。同時に阿部をCBではなく、中盤に上げる。FWは高原依存を脱し、巻、佐藤、矢野に限らず、Jリーグで活躍するFWを逐次抜擢する。中盤では、中村俊輔、山岸、遠藤、スーパーサブの羽生を一度代表から外し、U20、U22、五輪代表候補を含め、3年後、力のピークに達するであろう若手をチームの中核に据える。現在の主軸で残るのは、ボランチの鈴木、CBからボランチにまわる阿部以外は白紙に戻す。もちろん、今回のアジア杯代表メンバーでまったく試合に出なかった――太田、水野、伊野波は代表に最も近い選手であることは間違いないが。それだけではない。中盤にはウインガータイプのレフティーを新戦力として加えるべきだろう。
DFはトゥーリオ(=ケガで欠場)、中澤、駒野、加地を残し、伊野波、今野を最有力候補としながら、Jリーガーから新しい才能を育てる。新しい才能の具体的なメンバーの名をあげるのは、もう少し時間がかかる。
流行語の1つとなっている“再チャレンジ”でいえば、鹿島のMF小笠原、FW柳沢、ザルツブルクに移籍したMF三都主、DF中田浩、フランスリーグで活躍するMF松井、トルコからドイツに移籍した稲本・・・らを思い出すが、彼らはおそらく代表に呼ばれることはあるまい。
いずれにしても、アジア杯でわかったことは、日本の実力はアジアで10位以内であること。必死で代表強化に努めなければ、W杯アジア地区予選で敗北する可能性の方が高いくらいだ。強敵のサウジアラビア、イラン、そして困難な国情を背景にもちながら、潜在能力の高さを見せつけた優勝国・イラク、しぶとい韓国、個人技で日本を上回るオーストラリアが当面のライバルだけれど、北京五輪強化で弾みをつけるであろう中国、オイルマネーを使って、選手帰化による超法規的強化を図るカタール・・・が、日本といずれ肩を並べるだろう。日本がアジア予選を勝ち抜ける保証はなにもない。
さあ、どうする、オシム監督。
2007年07月26日(木) |
混沌のアジアに埋没か |
●サウジアラビアのほうが実力は上
直前の当コラム「アジアから聞こえる警鐘」に書いたとおり、サウジアラビアは強かった。2-3の結果からは惜敗のように思えるが、サッカーの質、選手の才能を比較すると、サウジアラビアの方が日本をはるかに上回っている。僅差の得点差は、サウジアラビアの伸び白の多さを表象している。このままならば、サウジアラビアはもっと力を伸ばし、日本との差を広げていくに違いない。日本はアジアの混沌の渦に巻き込まれ、その湿潤した風土に埋没する可能性が高まった。
●筆者の反省点―日本のDF陣はNG
アジア杯に係る筆者の記述について、反省すべき点が多くあった。それらについては、虚心坦懐、改めなければならない。
まず、最大の反省点は、日本のDF、とりわけ、CBの中澤、阿部に合格点をつけたことだ。日本はグループリーグから準決勝のサウジアラビア戦まで、無失点試合がなかった。サッカー評論家諸氏は、日本のDFの不安を指摘していたが、筆者はPK戦勝利のオーストラリア戦までを総括して、無失点試合はないものの、よくやっていると書いてしまった。
ところが実際には、サウジアラビアのスピードをもったFWに簡単に振り切られた。CB同士の連携もドタバタだった。その一方、サウジアラビア戦における日本の2得点は、CBの中澤、阿部が上げたもの。とりわけ、阿部のシュートは、これがDFのしかもCBの選手のものかというくらい、すばらしかった。阿部のポリバレント性は証明されたけれど、DFが相手の個人技にやられっぱなしで3点も取られてしまったら、勝てない。
●阿部のCBはオシム采配のミス
筆者は、阿部のあのシュートを見て、得点力のない日本が阿部をCBで使うのはもったいないと思えた。阿部をボランチに上げ、鈴木と組ませたほうがいい。中村憲が控えだ。阿部はJリーグ(浦和)では、左SBに入ることが多くなった。CBは代表戦しかやっていない。今回のアジア杯では、トゥーリオが欠場したため、阿部をCBで起用せざるを得なかったが、新しいチームをつくるのならば、CBはスペシャリストに任せ、阿部を前に出し攻守の中心に据えたほうがいい。
●日本のアキレス腱ー左SBをだれにするか
それだけではない。問題は左SBだ。筆者は、いまの日本代表に中村俊以外にレフティーがいないことを指摘してきたが、レフティーのサイドプレイヤーがほしい。駒野はいい選手なので彼を貶めるつもりはない。あくまでも、戦力的に見ての判断だ。
●ガソリン切れの原因究明を
サウジアラビア戦で筆者を最も驚かせたのは、日本選手の疲労感だった。ハノイに居座り、高温多湿の気候に慣れ、決勝トーナメントで調子はさらに上向くと思うのが常識的な見方だろう。ところが、肝心のサウジアラビア戦で、日本の選手はまったく走れなかった。とりわけ、鈴木、遠藤、駒野の3選手が精彩を欠いた。一方のサウジアラビアは、準々決勝のウズベキスタン戦で走り続けて勝った。そのうえで、インドネシアからベトナムに移動、休みは日本より1日少ないのだ。日本代表がなぜ、ガソリン切れになったのか。徹底した原因究明を行ってほしい。なお、当コラムで、筆者は開催国間のフライト時間を概ね2時間と書いたが、ジャカルタ~ハノイに直行便はなく、乗り継ぎで8時間かかることを後で知った。これは筆者の完全なミス。訂正します。
●益々難しくなった代表チームづくり
アジア杯ベスト4の日本だけれど、W杯南アフリカ大会に向けた代表チームづくりについては、むしろ混沌の度を増した。アジア杯ではっきりしたのは、W杯ドイツ大会の主力組(=中村俊、高原、中澤、駒野、川口、さらに当時控えの遠藤を含めて)はここで「お役ごめん」だろう。今後も彼らに依存したままならば、日本は退歩する。ところが、彼らに代わる新戦力がまったく見出せない。アジア杯で強豪相手に得点を上げたのは高原とDF陣だけと言っても過言ではないくらい。もちろん、遠藤、中村俊、巻も得点者だけれど、力の劣るベトナム戦とUAE戦のみ。つまり、高原以外の攻撃の選手は、アジアレベルで点をとれなかったことになる。さらに言えば、新戦力として、彗星のように現れてほしい、若手も不在だった。オシム監督は、グループリーグ初戦に起用された山岸、スーパーサブで起用され続けた羽生、佐藤、パワープレー要員の矢野にチャンスを与えたが、目だった結果はでなかった。
●オシムの次の一手は 常識的な見方だけれど、シード権をかけた韓国との3位決定戦に先発出場する選手たちが、そのヒントになるだろう。もちろん、筆者としてはボランチ阿部を見てみたいのだが。
2007年07月23日(月) |
アジアから聞こえる警鐘 |
●日本と豪州―ドイツ大会当時もいまも実力は互角―
アジア杯決勝トーナメントの初戦、日本はオーストラリアを破ってベスト4に進出した。(※ただし、90分間では1-1のイーブン。しかも、オーストラリアに退場者が出て、日本のほうが1人多かった。試合結果は日本のPK戦での勝利)
オーストラリアといえば、およそ1年前、W杯ドイツ大会の予選リーグにおいて、日本が1-3で負けた相手。当時、日本国中がその衝撃的な敗戦に驚き、嘆き悲しんだものだった。
当時の代表監督ジーコは、日本の敗因を、①体力差・体格差、②日本向けテレビ放送の時間の都合による、30℃近くの日中開催という悪条件によるもの――と総括した。このようなジーコの粗雑な敗北の総括に対し、日本中から知的反論が沸き起こったことは、記憶に新しい。そして、ジーコ路線に真っ向から対立するサッカー理論の持ち主であるオシム氏が代表監督に就任。このたびのアジア杯という公式戦で、オーストラリアと再戦を果たしたというわけだ。
筆者は当時、ドイツ大会の対オーストラリア戦の結果を、引分と当コラムで予想した。もちろん、この引分で、日本はクロアチア、ブラジルに負け、予選敗退することは当然という認識だった(結果は、クロアチアと引分、ブラジルに敗戦で予選敗退)。
筆者が引分とした根拠を大雑把に言えば、〔個〕の力でオーストラリアが日本より上である一方、〔組織・技術・経験〕で日本のほうが上であるから、0-0もしくは1-1で終わるというものだった。
オーストラリア代表は、当時もいまも変わらない。選手の大部分が欧州、とりわけ、英国プレミアリーグで活躍している。一方の日本代表(当時)は、稲本がプレミアで控え、中田英がプレミア失格、川口がプレミアの下のイングランド一部リーグ(ポーツマス)失格といった状況だった。個の力量ではオーストラリアが圧倒的、ただし、オーストラリアはW杯は初出場だし、オセアニア地区という地理上のハンディキャップがあり、代表チームとしての国際経験は少ない。南米とのプレーオフでウルグアイをくだしたのはラッキーだったのではないか――というのが筆者の考え方だった。
●両者のこの1年―日本は進歩し豪州は退歩した―
さて、このたびの再戦結果をどう評価するか――オーストラリアは退歩し、日本は若干進歩を見せた、と筆者は考えている。チーム構成→オーストラリアはドイツ大会とほぼ同じ、日本→現在、イングランドプレミアに在籍する日本人選手は一人もいないので退歩。監督の力量→オーストラリアはヒディングからアーノルドで退歩、日本はジーコからオシムで進歩、コンディション→ドイツも暑かったらしいが、ベトナムはもっと暑いのでほぼ同じ・・・ということで、日本がドイツ大会より上回っているのは、代表監督(ジーコとオシムの能力差)くらい。
現に、日本はオーストラリアの主砲・ヴィドゥーカを完璧に押さえ込んだが、これはオシム監督が日本のDFに正しい指示をだした結果である。また、オーストラリアがドイツ大会で同点となるきっかけとなったロングスローも完璧に押さえ込んだ。これも、オシム監督の指示の的確さである。数え上げればきりがないが、いずれも、ドイツ大会当時、ジーコ監督がオーストラリアチームを緻密に分析していれば、なし得たものばかりなのだ。つまり、当時のジーコ監督は、相手を正確に分析する力量をもっていなかった。もちろん参謀役の実兄・エドゥーしかりである。
それだけではない。最も重要なのは、ジーコが日本の敗因として挙げた日本とオーストラリアの体格差、体力差をアジア杯ではいささかも感じなかったことだ。オシムが言うように、サッカーはレスリングではないのだから、体格差・体力差が勝敗の絶対的な基準にはならない、つまり、体格が相手に上回っているという現実は、プラスにもマイナスにも作用する。
オーストラリアの主砲・ヴィドゥーカは、Jリーグ浦和のFW・ワシントンに似たタイプ。ペナルティーエリア内やその近くでは、重量で相手DFを跳ね飛ばし、優位な位置取りをしてシュートを放つ。ところが、アジア杯で日本のDFは中澤がマンツーマンでつき、さらに、危ない場面では複数でヴィドゥーカを挟み込んだ。さらに、ボックスから遠ざけるように遠ざけるように、圧力をかけ続けた。かくして、ヴィドゥーカは力を出し切れず、途中交代を余儀なくされたわけだ。しかも、日本が遂行したヴィドゥーカ対策は、オーストラリア戦の直前、オシム監督が報道陣に公開したとおりのものだった。体格・体力で劣る日本選手でも、正しい対処方法を身につければ、一対一で負けない。オシム監督のヴィドゥーカ対策に、その典型を見た思いだ。Jリーグで浦和と対戦する各チームは、オシム監督のヴィドゥーカ対策を、ワシントン対策として取り入れていただきたい。
●サウジアラビアは手強い相手―いまの日本はアジア10位以内―
ベスト4を決めた日本だが、次戦のサウジアラビアには相当苦戦する、と見ている。筆者は、サウジアラビアチームこそが、本大会ナンバーワンだと確信している。もちろん勝負だから結果はわからないが、日本の苦戦はまず間違いない。スピード、スタミナ、選手の身体能力(走力、ジャンプ力)、アイデア・・・ブラジル人のヘリオ・ドス・アンゴス監督はいいチームをつくってきた。
弱点はGK。サウジアラビア代表チームでは、アジアナンバーワンの座を長らくキープしてきた伝説のGK・モハメド・アル・デアイエが長らくそのゴールを守ってきたが、既に代表を引退している。その後を受けたのがアル・ムサイレムだが、彼はモハメド・アル・デアイエより安定性に欠ける。
日本が本大会で優勝するのか、ベスト4で終わるのかはわからない。けれど、現時点では、日本は、サウジアラビア、オーストラリア、韓国、イラン、イラク、ウズベキスタンとほぼ、同列に並んでいるように思える。サウジアラビアはこのグループの中で一歩リード。韓国は欧州組が不参加でベスト4に入っているから、ベストメンバーの日本と比較すると、選手層の厚さという点で日本より実力が上か。
ベスト8外だが、予選で日本を苦しめたカタール、同じく韓国に勝ったオマーン、今回はチーム作りに失敗した中国、躍進著しい東南アジア勢もあなどれない。本大会に来られなかったクェート、北朝鮮等を含めると、“混沌とするアジア”という表現こそが相応しい。
日本がW杯予選で4席のうちの1席を定席としていた時代は終わった。日本がW杯予選で常勝という時代は過去となりつつある。そのことをはっきりとさせるためには、本大会で日本はサウジアラビアに負けたほうがいいのかもしれない。
日本ほどの資力、情報力をもつ国ならば、サッカーでアジアに埋もれるわけにはいかない。そのためには、Jリーグをいかに強化するかしかない。アジア(杯)が日本サッカーに対して、警鐘を鳴らしている。日本のサッカー関係者にその音が聞こえているのだろうか。
当コラムで書いたとおり、いまのオーストラリアのサッカーには、見るべきものがなにもない。そんなチームに日本は負けなくてよかった。
日本は反省すべき点が多い。退場で1人少なくなった相手に対して、パスまわしからの崩しが成功しなかった。そういう状況ならば、相手の裏をとれるFW・佐藤の投入は、もう少し早くてもよかった。この試合に限らず、アジア杯を通じて、オシム采配に切れ味がない。相手が1人少ないゲームなのだから、カウンター警戒よりも、勝ち切る意欲がほしい。
PK戦で勝てたのは、運がよかったからにすぎない。移動でコンディションの整わない相手、ドイツ大会から進歩のない相手、主力が故障の相手、しかも、構築力、組織的のない相手、パワーにまかせた個人頼みの攻撃しかない相手――なのだから、日本は負けてはいけない。こんな相手に延長戦でも勝てず、PK戦の辛勝では、世界はあまりにも遠い。日本の実力は、やはり、ランキング50位程度だろう。ここから、残り3年弱でどこまでレベルアップできるのだろうか。
2007年07月20日(金) |
松坂の危険度はレベル4 |
久々に野球について書く。日本プロ野球では、ちょうどオールスター戦の第一戦目が終わったところ。かつては「夢の球宴」とまで言われたオールスター戦だけれど、セパ交流戦が公式化されたいま、新鮮な驚きはない。
米国MLBでは日本より早くインターリーグ(交流戦)を取り入れており、異なったリーグのスター同士の対決はシーズン中に堪能できる。MLBでは、そんなこともあり、オールスターは1試合しか開催しない。とは言え、交流戦があるのだからオールスターゲームをやめたらどうか、という議論がMLBで起きたためしもない。
オールスターゲームの意義は、異なったリーグのスター選手同士の対決ではなく、シーズン折り返し点までのところで活躍した選手、実績のある選手を選び出すことにある。オールスターゲームは、MLBの2つのリーグから、米国代表チームを2つ編成する作業のようなものだ。選手にとっては、選ばれることが名誉である。選ばれたということで、リーグのベストメンバーの一人となったことが確認される。試合は確認の儀式にすぎない。だから1試合で十分なのだ。
オールスターに選出されたということは、いま時点で最高のプレーヤーの一人となったことの象徴なのだから、当然、契約金に影響する。
オールスターを指標とするならば、日本人大リーガーの中では、松坂よりも岡島のほうが評価が高いことがわかる。岡島の方が、チーム貢献度が高いというわけだ。現時点における、米国野球界の判断としては、岡島のほうが松坂より高いし、ファンもそう受け止めている。
そのような観点からながめれば、日本のオールスターゲームが2試合ある根拠がない。「夢の対決」をうたっても、「夢」はすでに「現実」に乗り越えられている。日本野球界もMLBに倣い、オールスターを1試合にすることだ。
そればかりではない。優秀な選手を真剣に選出するシステムを、MLBに先んじて、日本プロ野球機構が創出すべきだろう。たとえば、ファン投票をポイント制にして、選出に占める比重を落とすことが考えられるし、監督推薦、スポーツ記者推薦等の枠を新設することも考えられる。あるいは、ファン投票、監督推薦、記者推薦をそれぞれポイント制にして、総合得点評価で選手を選ぶ方法もある。選手が選ばれたことで誇りとなるような合理的な選出方法をつくり、1試合集中で開催すれば、オールスターの価値が高まる。オールスターに選ばれながら試合に出場できなかった選手には、新たなモチベーションが与えられることになる。“来年は絶対に先発出場してみせる・・・”と。
さて、岡島に先を越された松坂だが、ここ2試合、いやな負け方が続いた。筆者がテレビ画面から得た感触では、松坂には疲労が蓄積している。きょう(20日)のホワイトソックス戦では、6回井口に与えた四球から連続3四球と制球を乱した。試合序盤に全力投球のストレートを投げすぎて、6回もたなかったわけだ。この乱調は、肩の疲労によるものだ。
松坂はMLB移籍直後、自分流と称して、コーチの指示を無視し、無理な練習をした。試合でも、先発の制限球数を無視するような態度をとってきた。中4日、広い米国で投げ続けるスタミナは、いまの(ルーキーの)松坂にはないにもかかわらずだ。
松坂には、明らかに驕りがあった。このまま、松坂が試合前の投げ込みや走り込みを続ければ、彼は肘、肩等を傷める。しかも、投球フォームにおいて、左足に重心を乗せることを意識しすぎるあまり肘が下がり、投球中に肘を無理に上げようとして、“かついで”いる。この“かつぐ”という表現は、MLB移籍後の松坂を辛口評価した評論家H氏が使用したもの。H氏の指摘を、当コラムで紹介したことがある。
松坂がこのフォームで投げ続ければ、肩よりも肘を悪くする。かりに今シーズン乗り切れたとしても、来季の成績は期待できない。松坂こそ、伊良部の二の舞となる。
アジア杯はグループリーグが終了。グループCでは、ウズベキスタンが中国との直接対決(2位争い)で3-0の完勝。1位イラン、2位ウズベキスタンとなった。グループDは最下位韓国が、開催国のインドネシアに土壇場で勝利して、2位に滑り込んだ。
決勝トーナメント進出国を改めてみておこう。 (A組)1位イラク・2位オーストラリア、(B組)1位日本・2位ベトナム、(C組)1位イラン・2位ウズベキスタン、(D組)1位サウジアラビア、2位韓国
地域的に見ると、8枠中=中東3、極東2、オセアニア1、東南アジア1、中央アジア1と分散、バランスがいい。東南アジア4カ国の開催国中、グループリーグを突破したのは結局のところベトナム1カ国に終わった。タイ(A組)は勝点でオーストラリアに並ぶ健闘を見せたものの、当該国対決に破れて3位に終わった。D組のインドネシアも最終戦の韓国に引分以上で突破できたにもかかわらず、惜敗した。
筆者の予想は、(A組)1位オーストラリア、2位タイ。(B組)1位日本、2位カタール、(C組)1位イラン、2位中国、(D組)1位韓国、2位サウジアラビアだったので、すべてのグループで外れた。サッカーの予想は難しい。懲りずに、改めて、決勝トーナメントの予想をしてみるつもり。
2007年07月17日(火) |
オーストラリアに負けるわけにはいかない |
●日本は1位通過
グループB最終戦は、日本がベトナムに4-1で圧勝、カタールがUAEに敗れて、日本が1位通過、ベトナムが2位通過をそれぞれ決めた。日本を苦しめたカタールは予選最下位で敗退。筆者の予想(日本1位、カタール2位)は外れた。ホームの利を生かしたベトナムの健闘を讃えておこう。
加えて、最後の意地を見せたUAEのファイティングスピリットも立派なものだ。Bグループから中東勢2国が消えるとは、筆者の予想を越える結果となった。UAEが無気力試合をするのではないか――と失礼なことを書いてしまった。反省しています。
●羽生のイエローカードは最悪
日本は初戦のカタール戦、いやな引分けで心配をさせたが、実力どおりグループリーグを終えた。過酷なコンディションの中、選手の頑張りは賞賛に値する。ただし、オシム采配には、昨日の当コラムで書いたとおり、疑問が残る。ベトナム戦では、終盤、中村俊に代わって起用された羽生が、イエローカードをもらった。4-1で負けているベトナムが引いている試合、なかば相手が試合を捨てた状況に近い場面で、不用意に相手にボールを渡してしまう羽生のセンスを筆者は理解できない。しかも、それを取り返そうとラフプレーで相手を止めて、イエローをもらった。羽生は、代表選手に相応しいセンスを持ちあわせていない。中村俊の交代で右サイドに入れるのならば、攻撃力・走力のある太田(磐田)のほうがいい。4-1のリードなら、新戦力を試す機会ではないか。
●引分(勝点1)の重さ
準々決勝で日本とあたるグループAについては、筆者は1位オーストラリア、2位タイと予想したのだが、結果は1位イラク、2位オーストラリアとなり外れた。筆者は、オーストラリアについて、第1試合、第2試合の限りで不調と見立てたのだが、グループリーグを突破してきた。オーストラリアは、1勝1敗1分け(オマーンと引分、イラクに負けタイに勝つ)の勝点4。タイも勝点4で同じだが、直接対決でオーストラリアがタイに勝ったのでどうしようもない。オーストラリアにしてみれば、初戦のオマーン戦に土壇場で追いついて勝点1を獲得したことがグループリーグ突破の決め手となったわけだ。勝点1の重さ・・・しぶといというか、幸運というか、サッカーというのは、本当に何が起こるかわからないものだ。
●エレガントさのないオージーサッカー
日本とオーストラリアの対決は楽しみだ。日本がオーストラリアに勝って、筆者の見立てが正しかったことを証明してほしい。オーストラリアのサッカーには戦略・戦術がない、しっかりとした構築力もない、スペクタクル性、美しさがない。新戦力の台頭もなければ、次世代を育てようという計画性もない、パワー依存のまま、漫然とW杯ドイツ大会の代表をそろえてきた――そんなオージー・サッカーに日本は負けるわけにはいかない。がんばれ、オシムジャパン!
2007年07月16日(月) |
オシム采配に疑問あり |
アジア杯・グループCでは、中国とイランが引き分け。イランはマレーシアとの最終戦を残しているので、勝点3が固いところ。同グループを1位で通過する可能性が高まった。中国はウズベキスタンと2位通過をかけて戦う(可能性が高い)。この試合はおもしろそう。どちらも大型チーム同士、力と力の激戦が期待できる。お見逃しなく。筆者の大会前の予想では、イラン(1位)、中国(2位)だった。
Dグループは混戦模様というよりも、韓国がバーレーンに負けて予想外の最下位に転落。これで、グループリーグ進出が厳しくなった。残り3チームのうち勝点1差で首位のサウジアラビアが、韓国を破って勢いに乗るバーレーンと戦う。バーレーンが予選通過をかけ、死に物狂いで闘いを挑んでくるにちがいない。その一方、ホームのインドネシアは、最下位の韓国と最終戦を戦う。この試合もグループリーグ突破をかけた熾烈な戦いになるだろう。インドネシアがホームの応援を背景に、韓国から勝点3を奪う可能性が高い。ということは、インドネシア(1位)、サウジアラビア(2位)もあり得る。筆者の大会前の予想は韓国(1位)、サウジアラビア(2位)だった。
さて、アジア杯のグループリーグ2戦を見た限りで、日本代表(オシムジャパン)の課題と成果を検証してみたい。たった2試合でわかるのか――という意見もあろうが、筆者には、中東勢の2試合で日本代表の全容――現状の課題が明らかになった。
筆者の問題意識は以下のとおり。①海外組の実力(中村俊・高原)、②オシムチルドレン(山岸、羽生、巻、水野)の実力、③SB(左SB=駒野、紺野、右SB=加地)の評価、④CB(中澤、阿部、坪井)の実力
①:結果から見れば高原を合格、中村俊を評価保留としたいところだが、高原の最終的な評価は難しい。昨年のドイツW杯のころ、当コラムで書いたことがあるが、高原は調子の波が激しい選手だ。W杯ドイツ大会では、親善試合のドイツ戦で最高の動きをしながら、本戦のグループリーグで調子を落とし、まったく仕事をしなかった。アジア杯では2試合連続ゴールの3得点と好調を維持しているが、高原の特性から判断すると、日本が高原依存の得点パターンから脱しないと危ない。高原に限らず、FWは調子の波が激しいポジションだが、高原がだめなとき、日本がなんらかの形で得点を上げなければ、アジア杯はもとより、W杯アジア予選でも勝ちきれない。いまのところ、高原を凌ぐFWがいないという現実をどうとらえるか。高原(FW)抜きで、点を取るかたちを学ぶ必要がある。たとえば、高原不在の場合、巻のワントップ、2シャドー(俊輔・山岸)の飛び出しによる得点機会の追求だ。この形は初戦のシステムだが、機能したとは言い難い。
中村俊はドイツ大会より積極的で、得点に絡んでいる。FKについても代表選手中最高の技術をもっていることが証明された。その点では合格に近いのだが、一方、初戦のカタール戦では、2シャドーの一角としてまったく機能しなかった。ゴール前への飛び出しという面では、山岸の動きのほうが良かった。ミドルシュートもない。
②:オシムチルドレンから阿部を除外したのは、阿部はオシムチルドレンという枠組みに納まらない逸材だからだ。というわけで、一般に評価の低い山岸から始めよう。千葉時代、そして現在も、オシム監督が山岸に対して高い評価をくだしていることは、よく知られている。ところが、部外者にはJリーグを含めて、山岸の実力を測りかねている。オシムが高い評価をくだすということは、山岸の潜在能力が相当高いことを意味するのであろうが、少なくとも代表及びJで結果が出ていない。オシムの評価が正しいか正しくないかは、山岸が結果を出すしかない状況にある。
オシム監督は、羽生を相手の足が止まった後半の時間帯、彼のもつ豊富な運動量と俊敏な動きが得点シーンを生み出す、もしくは、相手を守勢にまわらせる、というイメージの下、起用していると思うのだが、いまの代表チームでは、羽生が動いてつくりだしたスペースを生かせる選手がいない。羽生の動きに連動できる選手とセットでなければ、彼の良さは生かされない。羽生がジョーカーになるほど、彼の個人技は高くない。つまり、羽生の投入は結果として成功していないということだ。羽生がいまの日本代表に必要かそうでないか――の結論としては、不要論のほうが勝っている。
第2戦で先発した巻は、得点シーンにからまなかった。巻は付与された役割を最低限果たしたという意味で合格なのだろうが、相手が1人少なくなった試合で得点できなければ、FWとしては信頼しにくい。UAE戦、3-0でリードし、しかもUAEに退場者を出した段階で、体調の悪い高原を外して、FW佐藤の投入もあり得た。佐藤だって、前線から守備をする。オシムは水野を起用したのだが。
筆者は、オシムチルドレンに対して低い評価をつけたい。オシムの意図が実現していないという意味で、彼らは期待にこたえていない。問題はむしろ、オシムが教え子の千葉の選手しか信頼していないかのような、あからさまな千葉偏重の選手起用を続けることのほうだ。選手交代の選択肢を広めなければ、近い将来、苦境を招くだろう。
③:筆者が前から疑問に思っていたのは、いまの日本代表には中村俊以外、レフティーがいないことだ。世界のサッカー界では、左利きを右サイドに、右利きを左サイドに起用する傾向にある、ということは心得ているつもりだが、サイド攻撃の基本は、ライン沿いに駆け上がり、速いクロスボールを放り込んで、中の選手がそれに合わせて得点するというものだ。オシムジャパンでは、加地の右サイドからの攻撃からしか、そのパターンが見られない。とりわけ、左サイドの攻撃は、ライン沿いに駆け上がった選手が中に切り込んでシュートを打つか、「よいしょ」と右にボールを持ち替えて。クロスボールを上げるシーンばかりだ。左サイドにも、ウインガータイプのレフティーが一枚ほしい。たとえば、FC東京の鈴木規も選択肢の1つだ。いまの代表の左サイド(の駒野、今野に実力がないということではなく)には、そういう意味で不満が残る。 ④:CBの中澤、阿部は合格だ。阿部は第1戦ドローの戦犯にされたけれど、確かにミスには違いないが、あのシーンを除けば合格だ。トゥーリオの復帰、坪井の復調もあるだろうから、代表のCBは人材面で安定してきている。中澤の復帰が大きい。
結論をいえば、2試合を通じて、オシムの選手起用及び采配には疑問が多い。とりわけ、勝っている試合をコントロールする、もしくは、クローズする方法論を選手はもちろん、監督自身が描けていない。チームとして試合を制御できていないのだ。
羽生、水野といった運動量をもった選手を後半起用するという意図は間違っていない。彼らが愚直に前から守備をするというのも、終盤の試合運びの選択肢の1つとして正しい。ただし、それは選択肢の1つにすぎない。アジア杯のような公式戦真剣勝負では相手も必死だから、試合の終盤を捌ききることは最も難しいことの1つだ。しかし、チームに落ち着きを与え、相手を押さえ込むようなパワーを持たなければ、今後のW杯アジア予選で勝ちきることもまた難しい。
安定した守備(ボールを相手に渡さない)のできる守備的MFの起用、二列目で暴れまわれる攻撃的MFの起用、疲労した相手DFの裏をとれるFWの起用・・・相手と状況に合わせて、選手交代の幅を広げる必要がある。
オシム監督でなくとも、一枚のジョーカーに依存したい気持ちがわからないわけではない。ただし、その一枚が羽生でいいのかかどうか・・・筆者は、サッカーというゲームに絶対的ジョーカーがいるはずがないと確信している。羽生はプライオリティーの高い一枚ではあるが、彼を絶対化・固定化してはいけない。オシムには、千葉以外の選手も信頼しろ、と言いたい。
2007年07月15日(日) |
オーストラリアの悲劇 |
日本が属するBグループ、ベトナムvsカタールが引き分けに終わったことで、日本にとって好もしい展開となった。ベトナムが勝てば勝点6で予選通過が決定的になる。カタールが勝てば、カタールが勝点4となり、当然同グループで日本より優位に立つ。日本にとっていやらしい存在のカタールがこの引分で勝点2にとどまったため、日本に余裕が出た。
そんな中、日本がUAEに3-1で勝ち、勝点4でベトナムに並んだ。UAEの予選敗退が決まり、このチームが、最終戦であるカタール戦をどのような気持ちで臨むのか興味が残る。最後に意地を見せるのか、それとも、アラブの湾岸同士、カタールを助けるのか。つまり、八百長とは言わないが、UAEの無気力試合によって、日本がベトナムに勝たなければ、1位通過できない可能性も残されている。
準々決勝で当たる相手となるグループAは、筆者が2位通過と予想した開催国タイがオマーンを破り、ベスト8に進出しそう。筆者が1位通過はもちろん、決勝で日本と対戦すると予想したオーストラリアがイラクに破れたため、最終試合がホームのタイだけに、苦しい立場に追い込まれた。オーストラリアの予選敗退が濃厚となった。日本のベスト8を賭けた相手方は、イラクかタイということになる。日本にとっては、タイの方がありがたい。
さて、当コラムで書いたとおり、初戦のオマーン戦、オーストラリアの調子はおもわしくなかった。不調の要因として、東南アジアの気候に順応できていないこと、欧州リーグに渡った各選手に疲れが残っていること、監督の指導力不足、ドイツW杯以降の新戦力が育っていないこと・・・を筆者は挙げた。
いまのオーストラリア代表は、日本が日韓大会終了後、当時のジーコ代表監督が新戦力の発掘と登用をためらい、代表チームを弱体化させた現象と酷似している。スポーツに限らず、成績が良かったため、そのチーム(組織)を受け継ぎ、必要な改造をためらいがちになる傾向がある。日韓大会後の日本、ドイツ大会後のいまのオーストラリアが、まさにそれにあたる。
日本代表の場合、危険なシグナルを察知した一部のサポーターとジャーナリストがジーコ更迭を主張したが、前回のアジア杯で日本が優勝したため、ジーコ監督更迭の主張がかき消されてしまった。もちろん、Kキャプテン、A新聞等のジーコ支持派にとって都合の良い結果となったわけだが、結果的には、日本はドイツ大会で予選リーグでの未勝利敗退の憂き目を見た。組織論の常識として、小さな勝利や成功が、大きな成功や最終目標の達成に対して、マイナスに作用することもあることを心得ておこう。
アジア杯の2試合で、サッカーの面白さにしびれっぱなしの筆者だが、その過酷さにも驚いている。
●こんな豪州になぜ負けた アジア杯Aグループでは本大会優勝候補の1つ豪州がオマーンに苦戦し、どうにか引き分けにもちこんだ。豪州といえば、日本が昨年のW杯ドイツ大会グループリーグの初戦で負けた相手。オセアニア地区からアジアの仲間入りをして、本大会は初参加となる。W杯ドイツ大会では、日本に勝った後、ベスト16入りを果たしたことは記憶に新しい。
豪州はドイツ大会と概ね同じメンバーでアジア杯に臨んでいる。就任以来常に更迭が囁かれるアーノルド監督が冒険よりも結果を求めようとしたためなのか、W杯メンバーを越える新しい才能が育っていないためなのか・・・外部者には定かではないのだが、初戦を見た限りでは、豪州チームは機能していなかった。最後はパワープレーからゴール前の混戦にもちこみ、決定的シュートの機会を得て得点をしたものの、戦術的成果(=得点)ではない。日本代表がドイツで豪州に同点ゴールを許したシーンと似ていないこともない。オマーンが守りきれなかったという見方と、豪州が底力を発揮したという見方の両方があるけれど、先制したオマーンが再三の決定機を外して2点目を取れず、豪州の息の根を止められなかったことが引分となった主因だ。
豪州が初戦で調子が上がらなかった理由はいくつか考えられる。①欧州各国に散った豪州代表メンバーは、所属するリーグの終了時点で、心身ともにアジア杯のモチベーションを失ってしまったこと、②バンコクの気候に適応し切れていないこと、③新監督のアーノルドに求心力がないこと――などが考えられる。いずれも推測に過ぎないのだが、初戦の戦い振りから判断すると、これらが重なり合った複合的要因からだと思う。
筆者は豪州を本大会優勝候補の一角だと考えていた。ところが、オマーン戦に限れば期待を裏切る内容だった。この試合では、ドイツ大会以降の進歩が見られない。代表選手に新戦力がいないうえ、主力選手の体力・気力が、ともに後退しているように思える。豪州の主力は故障上がりばかりだし、キューウェルのように大手術直後の者もいる。このままならば、A組のライバル2チームに相当苦戦する。その2チームとは、ホームのタイ、オマーンより体力で上回るイラクだ。両方とも、オマーンより手強い。
豪州にとっての幸いは、前日イラクとタイが引き分けて、第1戦、4チームが勝点1で横一線に並んだことだ。これで全チームが2戦目以降に等しく戦いの場を移した。オマーンがタイに勝ち、豪州がホームのタイに引き分けると、豪州の予選敗退という結果にもなりかねない。アジア杯初参戦の豪州は、アジアの(気候風土を含めた)厚い壁に行く手を阻まれることになる。そうなれば、アーノルド代表監督の更迭は間違いない。
それにしても、重ね重ね残念なのは、ドイツ大会で豪州代表のようなチームに日本代表が負けたことだ。技術力、組織力、戦略戦術において、豪州代表には見るべきものが何もない。とりわけ、オマーン戦の豪州の戦い方は稚拙だった。こんな豪州になぜ、負けた♪
●オシムは辞任する 筆者の直感では、日本がグループリーグを突破できなかった場合、オシム監督は辞任する。ここのところ、オシム監督の態度はエキセントリックすぎる。焦りすぎているとも言える。たとえば、自分が育てた千葉以外の選手を信頼していない、日本のマスコミに対して過剰に反応しすぎる、カタール戦では、交代選手の人選を誤った・・・等々尋常でない振る舞いが見受けられる。
オシムがユーゴスラビア(当時)の代表監督だったころ、彼が引き受けた困難さはこの国(=日本)のそれとは異質だった。オシムが抱え込んだのは、かの国(=ユーゴスラビア)のおかれた政治的、民族的困難さの延長であって、ことサッカーに関しては、当時のユーゴスラビアには才能あふれる選手が有り余っていた。オシムはその豪腕をもって、政治的、民族的圧迫を跳ね返し、ユーゴスラビアチームをまとめあげた。
翻って、この国のW杯ドイツ大会終了後のサッカー界を見てみよう。サッカー評論家のU氏の表現を借りれば、それはまさしく「焦土」だった。ジーコ前監督が荒らしまわった後の――偉大なる空虚だった。
この国には、政治・民族の対立を代表サッカーに持ち込むような困難さはない。だが、その代わりに、才能のあるサッカー選手の不在という困難さが充満している。さらに、扇情的スポーツマスコミの雑音という困難さがある。この国のスポーツ報道は一過性で未成熟で感情的だ。その国に限らず、代表サッカーに対する風当たりは強い。が、大陸レベルの大会で一国が三連覇を果たすことは簡単ではないことくらいは理解している。さらに言えば、この国のマスコミは、アジア制覇を至上命令としたならば、W杯に向けた最良の準備が不可能となることを理解しない。
アジア杯絶対優勝説という観念よりも、世界の現実を知ろう。まず、欧州選手権の覇者を見てみると、ソ連(60)、スペイン(64)、イタリア(68)、西ドイツ(72)、チェコスロバキア(76)、西ドイツ(80)、フランス(84)、オランダ(88)、デンマーク(92)、ドイツ(96)、フランス(00)、ギリシャ(02)。※( )内は開催年。
南米選手権は、ボリビア(63)、ウルグアイ(67)、ペルー(75)、パラグアイ(79)、ウルグアイ(83)、ウルグアイ(87)、ブラジル(87)、アルゼンチン(91)、アルゼンチン(93)、ウルグアイ(95)、ブラジル(97)、ブラジル(99)、コロンビア(01)、ブラジル(04)。
欧州大会で連続優勝した国すらない。南米大会でも、ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジルの3カ国が2連覇で終わっており、3回連続優勝の例がない。2連覇がかかる今年のブラジルが、グループリーグの初戦を落としている。初戦を落としたドゥンガ代表監督に対する批判は日本の比ではないらしいが、それでも、ブラジル国民は、敗戦を受け入れる成熟さを持ち合わせている。ドゥンガ目指すものが理解できれば、騒ぐけれど、見守る。ブラジル国民に代表の行く末が見えなくなったとき、代表監督は代わっているはずだ。
さて、オシム監督の今後はどうなるのだろうか。筆者の直感では、アジア杯で予選敗退ならば、オシムは代表監督を辞す。それが日本のサッカー界にとって良いか悪いかはわからない。わからないけれども、オシムが目指すサッカーを日本の選手、国民が共有できなかったという事実が残る。もちろん、筆者の直感が外れることのほうが望ましい。
アジア杯、日本の初戦は引分。勝点1である。試合を見た限り、日本の調子は悪くない。暑さ・高湿度対策も万全だった。試合のほとんどを日本が支配し、残り5分まで1点リード。TV観戦したほとんどの日本人が勝点3を確信した瞬間、事故が起きた。カタールのFWセバスチャンに中央を割られ、慌ててディフェンスに入った阿部が押し倒してファウルをとられた。この判定は正当なもので、日本のDF陣が油断した結果だ。
カタールのエース・セバスチャンがフリーキックを決めた。セバスチャンのFKは、日本の壁を突き抜けるようにゴールに吸い込まれたように見えたが、実際には日本のDFに当たってコースが変わったようだ。
これがサッカー。引き分けの主因は、日本が2点目を取れなかったという点につきる。でも、この結末は、昨日のAグループでオーストラリアがオマーンに土壇場で追いついたシーンに似ている。真剣勝負の大会では、ゲームを支配した以上、相手の息の根を完全に止めなければ危ないということか。
Aグループではホームのタイが強豪イラクと引き分け、BグループでもホームのベトナムがUAEを2-0で破った。そして、優勝候補の一角といわれるオーストラリアがオマーンと、日本がカタールと引き分けて、勝点1のスタートとなった。A、Bグループは番狂わせとまでは言えないが、波乱の幕開けだ。
高温多湿のこのたびのアジア杯では、ホーム(開催4カ国)有利は当たり前だが、やはり高温多湿の中東湾岸勢の小国(UAE、カタール、オマーン)も適応性が高いかもしれない。日本、韓国、中国の東アジア勢、オセアニアのオーストラリア、アラブの大国・イラク、イランの調子はどうなのか。
いまのところ、ホーム2カ国が下馬評を覆す善戦をした。グループリーグ2試合目以降、ホーム以外の参加国に疲労が蓄積し、パフォーマンスが低下するのか、それとも、気候風土に適応してコンディションが上がっていくのか・・・過酷な試合が続くアジア杯は、おもしろい。
サッカーのアジア・カップに出場する日本代表で、右太もも裏を痛めて23人のメンバーから外れた播戸(G大阪)が5日、予備登録選手からも外れ、代わりにDF山口(G大阪)が登録された。播戸の代わりに伊野波(F東京)が23人枠に召集されていたので、その結果、 ▽GK:川口(磐田)楢崎(名古屋)川島(川崎)=3人 ▽DF:中沢(横浜M)坪井(浦和)加地(G大阪)駒野(広島)DF伊野波 (F東京)=5人 ▽MF:中村俊輔(セルティック)橋本、遠藤(以上G大阪)羽生、山岸、水野(以上千葉)中村憲剛(川崎)鈴木、阿部(以上浦和)今野(FC東京)太田(磐田)=11人 ▽FW:高原(フランクフルト)巻(千葉)佐藤(広島)矢野(新潟)=4人
となった。FWが4人に落ち着いた。1ポジション2人のセオリーに照合して、播戸を含めたFW5人登録はいかがなものかと思っていた。播戸の負傷(もちろん播戸には気の毒だけれど)は、「禍転じてなんとやら」の感がないわけではない。
筆者が「2バック」と揶揄したように、DF登録4人はあまりにも手薄。伊野波の加入で、CBができる選手として中沢、坪井、伊野波、阿部と4枚そろった。4バックのシステムならば、1ポジション・2人選出のセオリーどおりだ。
3-5-2のシステムなら、DF6人(MF登録の阿部がDFへ)、MF10人(阿部をマイナス)、FW4人、(GK3人)と、まさに当たり前の選考となったわけだが、実際は、中沢、坪井、伊野波、阿部、今野の5人がDF枠となり、中沢、坪井、阿部が先発したとすると、伊野波、今野が控えとなり、DFは極めて手薄だ。
日本代表のシステムは、おそらく4-4-2を基本としつつ、相手に合わせてポジションを入れ替えることになるのではないか。システムは固定したものではなく、相手に合わせて流動性を高くする、というのがオシム(に限らないが)の持論だから、4-4-2か3-5-2の議論は意味がないかもしれないが、代表23人(GK3人を除くと20人)を選ぶという作業は、口で言うほどやさしくはない。
2007年07月03日(火) |
アジア杯は試みの場(その2) |
アジア杯の大会概要を押さえておこう。今回は、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの東南アジア4カ国による共同開催。予選を勝ち上がった12チームに、開催国の4チームを加えた計16チームが4つのグループに分かれ、各組2位までが決勝トーナメントに進出する。 予選リーグのグループ分けと開催地は以下のとおり。 (グループA/開催地・タイ)オーストラリア、タイ、イラク、オマーン、 (グループB/開催地・ベトナム)日本、カタール、UAE、ベトナム (グループC/開催地・マレーシア)イラン、中国、マレーシア、ウズベキスタン (グループD/開催地・インドネシア)韓国、サウジアラビア、バーレーン、インドネシア、
グループ順位を予想すると、 グループA=1位オーストラリア、2位タイ。 グループB=1位日本、2位カタール、 グループC=1位イラン、2位中国、 グループD=1位韓国、2位サウジアラビア
決勝Tの日程と開催地は以下のとおり。 (準々決勝) B組1位の日本とA組2位のタイとハノイ(ベトナム)で対戦し日本が勝つ。 A組1位のオーストラリアとB組2位のカタールがバンコク(タイ)で対戦しオーストラリアが勝つ。 C組1位のイランとD組2位サウジアラビアがクアラルンプール(マレーシア)で対戦しサウジアラビアが勝つ。 D組1位の韓国とC組2位の中国がジャカルタ(インドネシア)で対戦し韓国が勝つ。 (準決勝) オーストラリアとサウジアラビアがクアラルンプール(マレーシア)で対戦しオーストラリアが勝つ。 日本と韓国がハノイ(ベトナム)で対戦し日本が勝つ。 (3位決定戦) サウジアラビアと韓国がパレンバン(インドネシア)で対戦しサウジアラビアが勝つ=3位。 (決勝) オーストラリアと日本がジャカルタ(インドネシア)で対戦し日本が勝つ=優勝 日本が優勝するためは、予選を1位で通過し、ベトナムに居座り、準決勝で韓国に勝つことが絶対条件。筆者の予想では日本が勝つ。
決勝はドイツで惨敗したオーストラリアだが、韓国に勝った日本は、オーストラリアに勝つ。その根拠は、オーストラリアの監督がヒディングではなく、日本の監督がジーコでないことだ。
さて、大会スケジュールを概観したうえでの筆者の予想では、日本はベトナムで予選を3試合行った後、1位通過ならば準々決勝、準決勝までベトナムに居座れる。もしも日本がグループリーグを2位で通過するとなると、準々決勝でベトナムから急遽タイのバンコクへ移動することになる。この移動はフライト時間で2時間弱だが、体力的にきつい。グループリーグは1位通過が望ましい。
この時期の東南アジア4カ国の平均気温は30℃弱、湿度は80%前後、雨季に当たる。夜間の試合であっても、相当蒸し暑い。さらに、各都市間の移動時間(フライト時間)は概ね2時間だが、待ち時間等を含めれば3~4時間を見なければならない。
今回のアジア杯で勝利するためには、蒸し暑い東南アジアで、90分間以上走り続けることができ、決勝Tの移動に耐えられる体力とガッツのある選手をそろえることだ。技術よりも体力、運動量、スタミナだ。
また、サッカーでは選手のケガ、体調不良、病気を想定しなければならない。W杯ドイツ大会の開催直前、ドイツとの親善試合で加地がドイツ選手の後方からのタックルで大ケガをしたことは記憶に新しい。だから、備えとしては、複数ポジションができる選手を選ぶことが重要だ。
このたびのアジア杯の代表選考は、W杯南アフリカ大会に重なる部分も多い。オシムが選んだ代表選手がどのような結果を出すか楽しみだ。
ただ、繰り返すが、アジア杯がファイナルではない。一国がアジア杯を永遠に制し続けることはできない。日本が3連覇できない可能性も大いにあり得る。もちろん、負けを前提にするのではなく、アジア杯という真剣勝負の場で、いい経験をしてほしい。
アジア杯の代表メンバーが決定した。メンバーは23人。W杯と同数だ。ドイツ大会の前にも書いたけれど、代表23人のうち、GKが3人だから、フィールドプレイヤーは20人だ。各ポジション2人を選出するというのがセオリーなので、仮に3-5-2のシステムならば、DF6人、MF10人、FW4人となるのが一般的だ。4-4-2ならば、DF8人、MF8人、FW4人となる。
さて、今回の代表メンバーを見てみよう。 ▽GK:川口能活(磐田)楢崎正剛(名古屋)川島永嗣(川崎)=3人 ▽DF:中沢佑二(横浜M)坪井慶介(浦和)加地亮(G大阪)駒野友一(広島)=4人 ▽MF:中村俊輔(セルティック)橋本英郎、遠藤保仁(以上G大阪)羽生直剛、山岸智、水野晃樹(以上千葉)中村憲剛(川崎)鈴木啓太、阿部勇樹(以上浦和)今野泰幸(FC東京)太田吉彰(磐田)=11人 ▽FW:高原直泰(フランクフルト)播戸竜二(G大阪)巻誠一郎(千葉)佐藤寿人(広島)矢野貴章(新潟)=5人
GKの3人はセオリーどおりだが、DFの4人は2バックということか。その代わりMFが11人と膨らんでいて、そのうちCBができるのが阿部勇樹、今野泰幸、橋本英郎。
4-4-2を組む場合、CBの中澤佑二、坪井慶介のどちらかが怪我をしたら、MF登録の阿部勇樹、今野泰幸、橋本英郎のだれかがCBにまわることになる。同様にSBは加地亮、駒野友一の右SBだけなので、左SBとしては、山岸智、今野泰幸、阿部勇樹のだれかが先発することになる。
ボランチは遠藤保仁、鈴木啓太、阿部勇樹、中村憲剛、今野泰幸ができる。二列目は、中村俊輔、中村憲剛、羽生直剛、水野晃樹、太田吉彰、遠藤保仁・・・のうちの選択だ。
FWは2トップなので、高原直泰、巻誠一郎・・・の先発となる。
この代表チームの最大の特徴は、俊輔以外レフティーがいないことだ。左サイド(SBもしくはSH)ならば、スピードのあるレフティーからクロスボールというのが常識だが、左利きの本多、家永が落選した。
左サイドのレフティーを落として、オシム監督は何を狙ったのか。今度のアジア杯の開催地はベトナムなど東南アジア4カ国共催だ。7月といえば、この時期、雨季だ。高温多湿、サッカーをやるコンディションは相当悪い。そこから推察するに、代表の選出基準はスタミナ、運動量だろう。この季節のアジア杯を制する第一条件は、テクニックではない。勝てる条件は運動量、消耗戦に勝てる体力だ。この条件を満たす者が選ばれたとみるのが自然だろう。
結果はどう転ぶかわからない。わからないが、アジア杯の環境を考えるならば、選考のコンセプトは正しい。
もう一つの特徴は、ポリバレントという概念だ。ポリバレントとは一昔前ならば、ユーティリティーという表現だった。これも結果はわからないが、新しい試みだ。スペシャリストを切って、ゼネラリストを選ぶことが吉とでるか。アジア杯は最終ゴールではない。
以前にも書いたけれど、アジア杯に負けた韓国の方がW杯において、アジア杯を制した日本よりいいサッカーをした。アジア杯はどうでもいいということではない。W杯にいい結果を残すために、アジア杯を最良の準備の場として活用してほしい。
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