恋文
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寝返りのたびに 重く湿っているわたし
手をやる首筋に 纏いつく髪に
胸をすべり お腹の上にのせた手に
もう 朝が近い
ずっと忘れている 静かに ひそかに 受ける愛撫
自分の指を そっと 肌にすべらせてみる
穏やかな昼下がりに わたしは世界から隔たっている
風はいつものように過ぎて 葉擦れの音も 揺れる影も あたりまえのように感じるのに
人々はいつものように会話をしていて 誰もかわらないのに
声が震えてしまう あぁ、細い声でわたしはうなづく こうして生きていくために わたしはありったけの勇気がいるんだ こんな些細な瞬間に
誰もが気にも留めてないだろう ただの日常のこと
わたしって ここにいるけれど
わたしって どこにいたらいいの?
わたし ここにいていいの?
わたしの場所って どこなのかしら
なんでもないよ、と 言いつづけていたら もう、後戻りはできなくなった
なんでもないこと ないのに
とても疲れちゃった
まだ何重もの壁が立ち塞がっていて
もう壁なんてどうでもいいから
まんまるく眠ってしまいたいよ
どんなことにも煩わされず なにに囚われるのでもなく ただ静かに生きていければいいのに
こんなに風が吹く 枝はたわむ 花もいっしょに 葉っぱもいっしょに
それなのに 花びらは散ってゆく 葉はちぎれてゆく
みんな同じところにはいられないんだ
かたちは 見る人の心持でかわるのだろうか
見えかけたと思えば 見失ってしまう
次に見えるときには もう以前のかたちではない
まだはっきりとは見えないかたちを ひりひりと待っている
あぁ、今日も終ってしまう 少しでも前に進めたかな なんだか頼りないけれど もつれそうな足取りで まだ歩いている
足跡など、なくても良かったのだし 記憶は色褪せてしまえばいい
そこにあったはずの思いでも 日に焼け 雨に濡れ 風に引きちぎられて いつか、もとの姿すら留めないだろう
誰が嘆くのだろうか ただ時が経っただけなのに
うまくいくとは限らない いつもうまくいかないかもしれない うまくいくことなんかないかもしれない
でも、生きて行くしかない
まず一息をつくこと 心を静めること
それが簡単じゃないときがあるけれど
真っ暗な夜のなか 周りはみんな壁のように ひとりでいる
床に額を押し付けると ひんやりと冷たい
このままじっと動かないで 床の固さを確かめている
足元がおぼつかない 階段を降りていても 足を踏み外しそうな予感がする
地面は確かな固さをもっているのだろうか
倒れている自分が見えるようだ それはそれで きっと心地よいのかもしれない
木の枝や葉が シェードに陰を描いている 風が通り過ぎる 昼下がりは静かに過ぎてゆく
ずっとこんなに穏やかならいいのに ずっとこんな心持でいよう
わたしを、かわいいとか 言ってくれたら きっと、ついていってしまうだろう
わたしは固くなってて なんだか、わたしじゃないのよ
わたしを、かわいいと言ってくれる人がいたら きっと、わたしのことを想ってくれるよね
だから、抱いてくださいな
わたし 夢を見れるかしら
夜の底を なぞってみよう 暖かい手のひらで
草地のように 湿ってざらついている ここなのに
ふたり並んで眠ってみよう 手をとりあって
少し開いた窓から見えるのは ただの空のかけら
かけらを集めよう 想いだけは空に飛ばそう きっと、かけらをひろってくるように
いつ戻ってくるのかしら かけらは、ずっとかけらのままなのに 本当につながるなんて 誰が信じるのだろう
風に葉が重なり 光は瞬くように透ってくる この木の下で
ここでもない 残してきたところでもない どこかを夢見ながら まどろむだろう
始まると終らない いつまでも
こんなはずではなかったのに
始まりの始まりが なぜできたのか
リボンばかりを売お店がある 毎日、通り過ぎるトラムの窓から見ている
いつでも行けるのに いつまでも行けない
くるりとまるまって ちいさくなって すみのかげにいよう
きづいてね きづかないでね
ちゃんと また でていくのよ
きづかないでね きづいてね
真っ直ぐ自分を見ることができない 窓に映っている顔は 前を見たくないからだ
外の風景とぼやけてしまって なんだか表情もなくなってしまった
昼下がりの街は 光が溢れて 不思議なほど静か
誰もが自分のことを知っているんだろう そうして、自分の生活を静かに送っている
わたしは、まだ探している
取り戻してみよう きっと思ったより簡単かもしれない
あなたも、わたしも 違った道を歩むのだけれど
自分の道を 自分の手の中に
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