恋文
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昼間からの熱が まだこもっている
鳥たちは去ってしまった 風も行ってしまった
深く青くなってゆく その中に わたしは ただ 佇んでいる
日がな一日 抱き合っていたね
狭い部屋の中に 敷き詰めた布団の上で
抱き合いながら 転げまわったのだった
まだ 一緒にいる わたしたち
まだ 一緒にいるよね
我にかえると いくばくかの時間が 過ぎている 何を考えていたのか 何も考えていなかったのか
ずっといじっていた 髪の先が 胸元で 光っている
わたしから わたしを ぷつりと 切り離すという 痛みと 恍惚を 夢見た
わたしは ひとりなのに ばらばらになって もうひとりを 見つけないのだった
光が降っていて ただ ひとりの 影をうつしている ばらばらな わたし
わたしで いたいと わたしに なりたいと
わがままを言う
小さな子供のように なれない わたしは 泣き叫ぶかわりに
あきらめたり 捨てたり しながら
ずっと わがままでいる
ずっと取り戻せないのだった そこにいるわたし
誰にも見えないのなら いないのだった
もういいからと もぎ取るように 行ってしまうのなら
残ったわたしのままで いるよ
わたしは 裂かれてしまった子かしら
ひとりの わたし でも ふたりじゃない
ひとりの わたしは おんなであるし おとこであるし
ときに 暗い気持ちがわきあがって ぷつりと 切り離したい それは
わたしそのものだった
氷塊が溶けるように いつか なくなってしまう
乾く前に 流れる 幾多の思い出は そのままにある
あなたの心から いなくなったとしても
わたしの心から いなくなったとしても
わたしたちは そこにいたのだから
忘れてしまったことも 覚えていることも 愛しい
パズルを解くように 記憶がつながってゆくと もっと嬉しい
そこにいた わたしたちは そのまま そこに いるんだろうな
その夢から 覚める
ずっと そのわたしで いたかったのに
目を閉じたまま 胸に手をおく
わたしは 現実のわたしなのに
もう少し 夢の中にいよう
2004年07月20日(火) |
今は そうかもしれないけれど |
新しいことは わたしにも怖い それは 隠していても 伝わってしまうのだろう
うなだれていた君だけれど 真っ直ぐに目をあげて 見てくださいね
もどかしい夜には 君が笑っているのを 想像してみる
青い花びらは 床に散らばっている
風が 少し冷たくなる 夕日の色もなく
もう 夜が来ようとしている
人の声も 遠ざかってしまった
どこにいるのかなぁ わたし
悲しくもないけれど 寂しいかな
あなたがいれば うれしいね
ずっと昔も思い出してみて いまのことも思い出してみて
わかんないね わたし 誰なのかしら
あなたがいるから わたしになってるのかしら
あなたが思ってくれるから わたしが いるのかしら
緑は 枯れていって 雨を待つまでもなく 枯れていって
明るい陽射しに 晒されているのね
金色の野原なのね
ひとしずく ふたしずく 欲しかった いっぱい 欲しかった あの雨
風に揺れるよ こんなに金色に
毎日 少しづつ 得たりすることは 嬉しい
そうして 少なからず 失ったりもする
失うことは いつも悲しいのだけれど 時々 それが嬉しかったりする
公園は 水銀灯の光が照らしていた 草むらは まるで 作り物のような緑色だった
暗いブランコを揺らして 大きく揺れた瞬間に 靴を抛る 子供に帰って遊んだ あの夜
靴を拾いに おぶったあなたが 背中に暖かかった
君が弾いていた曲は わたしを思い出に導いてくれた
同じ曲を わたしはフルートで練習したのだった
だから 君が フルートに興味をもってくれたのが 嬉しかった
練習用に横笛を渡して 君は音をだそうとしている
その不安定な音を 心地よく聴いている
突然に葉を打ち始めた その音の前に 確かに感じていた
古い校舎に向っていた あの時と同じように
その一瞬に 還れたように まだ 繋がっていられる
今 ここに聞いている 雨音が届くようにと
やがて雨があがる 陽射しのなかに 輝く草むらや 木々や 見えるものが届くようにと
そこに いなかったけれど あなたが思い描いた わたしを 本当のわたしにしてしまおう
あなたが わたしの聞くものを聞き わたしの見るものを見ることが できるように
思い出になんかに しない
そのとき わたしたちがいた
今も そのままじゃないの
むきだしの 自分の肩を見た
暗い部屋に 小さな灯り
腕も うんと細くなってしまった
床の影だけは ぼんやりと ふくらんで見えた
穏やかに過ぎれば いい 期待や 喜びがあれば嬉しい 不安や 失望も 少しくらい あってもいい
雨が降ったら 少し 濡れてみよう
怖い夢に目覚めると 汗ばんだ肌が冷たい
暗い部屋のなかに 何か潜んでいるようで じっと目を閉じている
毛布の下で 身体をゆっくり伸ばす
落ちついて それは夢だったんだから
雨が連れてきた 冷たい風と一緒に歩く
どこにいていいのか わからなくなる
足音が石畳に響いて そこにだけいる
わたしの中の わたしなのに
とても注意深く わたしを わたしから 測る
この距離は どこからくるのか どんなに 離れているのか
いつも わからない それでも わたしは わたしでいたい
あまりにも明るい 光の中で あからさまな わたしだったから
目を伏せた
でも それがわたしだから じっと自分を見た
ずっとわたしだった いびつになっても わたしなのね
どうして 突然 夢に見たのだろう
海に向って歩いていた 繋いだ手は 湿っていて 通りは乾いていた
雨に晒された船が 並んでいて そこを過ぎて 堤防の切れ目を入ると 小さな港だった
その人と過ごした 最後の夏だった
いつからか風がでて 雨の匂いがする
窓の向こうに 枝は揺れ 微かに聞こえてくる
落ちてくる いくすじもの 鈍いきらめき
わたしは そこから隔たって ひとりで座っている
ふとした瞬間に もうひとりのわたしに なっている
つまづいたように たじろいでしまう けれど
わたしは そのわたしが好きなので そのまま なりかわってしまいたい
重い身体は しっとり沈む
自分の匂いがする 胸元を開く
捲れてしまった夜着の 脚が冷たい
朝になる前に もうすこしまどろむ
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