恋文
DiaryINDEX|past|will
日向の匂いがした あなたの髪
いつの ことだったのか
とおくまで みどり色の 草地をわたってゆく
風の行方を 見ている
耳を かたむけると あなたの 鼓動が 聞こえてくる
鳥の声と せせらぎと
永遠のように 風がすぎて
こんなにも 音が 静かなんだ
森の中では ひかりも かげも まじりあって
鳥のさえずりも 木々のざわめきも 忘れる そのとき
ただ ひとり いる わたし 官能に 満たされる
ひとりの夜は どうしているの
あなたの 夢の中に どうやって はいろうか
食器のふれあう 音が 聞こえ
ピアノの 音が 聞こえ
鳥たちの 囀りも 聞こえる
暗くならない 空を 見あげて
まだ なにかを 聞いていたい
花の香りに 満ちた 夜は
胸乳に ふれる 髪
指に からめて もてあそぶ
わたげが ふわふわ ただよっている
みどりが まぶしい
わたしの ゆくさきに
わたげも いっしょに ついてくる
わたしも いっしょに ついてゆく
濡れた緑は 柔らかく 光っている
花も しずくを たたえている
傘など いらない わたしも 濡れてあるく
失いたいと おもった その ときに
きっと 離れていって しまった
あなたが その壁を見ているなら わたしが そこに 映ればいいのに
あなたが 思いを巡らせるあいだ あなたを 依りかからせる わたしの肩が そこに あればいいのに
あのときも いまも、これからも つながる その 思い
わたしは あなたと いるからね
わたしが うけるもので あると おもう その
わたしに はいってくる ものを いれる
暖かい 午後 葉と花の香りに めざめる
なまめかしい からだの 感覚
町は 雨のなか 思い出のように くすんでいる
ここに あるはずもない
思い出は 遠い空のした
鳥たちは 帰ってしまおう
ゆれる草や 花や 木々の こずえ
雲の切れ目から まだ 薄いひかりが さしてくる
なにを 見ていようか そこには なにもない
雨のなかを あるいていよう
木々も 花たちも つややかに 濡れている
わたしも 濡れる
誰にも 見せられない わたしを 抱いて 眠る
あなたが 泣くたびに
ここには 雨がふる
雲の むこうに ひかりが うすく 見えると
抱きあった わたしたちを おもう
夕方 遊んでいた 子供たちの声が 消える
窓の外は あおい 忘れな草の ように
まだ 鳥たちの 声がきこえる 空には 雲がうかんでいる
どこの窓にも あかりが ともっている
たち止まる あるく
まがる もどる
わたしの 背中を
みている わたし
どこから 生れたのか
どこに 帰そうか
ちいさな 綿毛のようなもの
風が吹いたら いなくなってしまおうか
やわらかな みどり 花たちの いろどり
風が 吹きすぎる 暮れるまえの そのとき
あなたと 分かち合えれば いいのに
暮れてしまうまでの まだ あおいそらに 鳥たちの声が 聞こえる
それぞれに 呼びかわす 彼らは もう 帰ってゆく
みんな声も消えてしまう頃 群青に染まった空に
あなたからの 声に 耳をすまそう
こんなに 花はあふれている 風が 通りすぎる
高い木々の葉のあいだから ひかりが 降りてくる
しばらく たたずみ また あるく
その道にも ひかりが おりてくる
みどりも みずも
あなたが いる そこに
おくろうね あなたに
つながろうね あなたに
忘れな草が 散っている
雨上がりの 夕方
まだ 青いままの はなびらが 濡れて
ひかりが 降りてくる
忘れないよ と あなたにいう
ライラックが ゆれて まぶしい
藤のはなが ずっしりと たれている
線路が くさむらのなかを まがってゆく
草がゆれる 葉っぱもゆれる 鳥のこえも
ゆらいでいるように どこからも きこえる
れもんの花が ちっている かおりは まだ あまい
みどりいろの 実が もうできている 白いはなの あいだに
すっぱい あじを おもいだす みどりいろの 実
まだ しろい花が 咲いている
|