恋文
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拒めまれてしまえば どこにも ゆけない
うろうろと 足踏みを しているでけではないか
空は うろこのような 雲に覆われている
すぐ 雨に なるのだろうか
蔦の葉は もう 赤くなりました
いちょうの葉も 黄色いです
風もないのに ひんやりと
鳥たちが さえずっています
幾たびの 雨の日を 思い出す
草も 木も 家も
みんな濡れて それで じっと 立っていた
わたしも 立っていよう
地面も 空も 湿っていて
雲のなかを ふわふわ 漂っているみたい
一日の終わりの 帰り道
いちにち また いちにちが 過ぎてゆく
待つ日々でもあり 越えなければならない日々でもある
そうして 季節が また 移ろうとする
ゆく方が見えないと 戦き 立ち止まり
見えるものしか 見えないのだと
進めば いずれ 行く先も 見えてくるだろう
前を見てみる
光は 木の影を 壁に 映しだして
いつか見たような 風景なのに
記憶の奥底を さぐっているあいだに
迷子になる
蔦が すっかり 赤くなって
夕日が 木立を 影にする
手のひらを 透かしていた
その頃にも ふと 冷たい風が 吹いていた
わたしに なるだろう
だれの ためでもなく
だれかの ためなどといえば そんな 不遜なことはない
わたしでいるために
わたしに なろう
朝につけた バラのコロンの 香りが する
思い出も こうして 失ったと 思ったころに よみがえるのかも しれない
雨の音が 聞こえる それが 夢ではないことを 知っている
まだ 目覚めない 雨のおとが 続いている
いつの間に 降ったのか
草花も 木の葉も 光っている
石畳の小道から 見上げると
青い空
ひかりだけ ひろっておこう
風は ほんのしずかに
いってしまい
だから ひかりだけが 残ってしまう
今から 始まるのだと 朝は 空気が 冷たくて
動いているあいだに するする 緩んできて
なんだか 億劫になって
夜は わたし すっかり くったり
真っ暗な なかが いいな
覚えている 夢を たどってみる
たどりながら どこに行ってみようか
まるで ゲームを 繰り返しているみたいに
ここで こっちにいったら どうなったかな と
いつのまにか 夢のなかを さまよっている
そろそろと 歩みだして みよう
手探りで わずかな 形をなぞり
ゆきつくところへ
眠れないままに 時を数える
靄のなかに 小道を探すように
気づかないうちに 過ぎてしまう
灰色の空のしたで 建物の壁は くすんで 木々の色も 色あせて
一日のおわりに なにもかも 忘れて 眠ってしまおうとしている
季節が 移るといい
早すぎた 夏の終わりは いつだったのか
だからと なにも かわらない
また 今日がすぎてゆく
今日の 空は 青かった
とうもろこし畑で かくれんぼうをしている
だあれも いない
鐘の音を 聞いている
丘の上は ミルク色の霧に 隠れている
通りには 誰もいない
窓を 開ける前に まだ しばらく
空を 見ている
空の色が 部屋の中に 入り込んでくる
窓の外 木の枝が 揺れると
何かが 通り過ぎたみたい
なにか 待っているみたいに
窓を 見やる
風がいっしょに ついてくる
もうすぐ 暗くなる道
すぐそこの 灯りまで
夢のつづきのように ほの暗い 朝は 湿った匂いがする
木の実が落ちて 形のない染みになった 歩道を歩く
夏は 思い出せないほど 遠くに 過ぎてしまった
暗い空は 北からの風を 思い起こさせる
ひとりで 取り残されてしまったような 気分で
窓から外を 眺めている
どんなに 遠かっただろう
辿りついてみれば
わたしの国は とても 遠かった
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