恋文
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髪を解くと まだ ほのかに 残っていた
朝 まとった マグノリアの香り
あなたと分かち合った 同じかおり
いつになっても いったりきたり
まるで檻の中の 動物みたい
じっとしたままでは いられない
そうして なんとか バランスをとっている
むすぼれた いくつも とけないものが
そのまま からだに はいってしまったのだろうか
ときどき ためらっているみたい
たどってゆくと いくつも 欠けている 過去
たぐり寄せるうちに こんがらかってしまう 未来
そのあいだを かろうじて つないでいる 今
雲の切れ目から 朝焼けの空が のぞいていた
川は 灰色に流れて 橋には クリスマスの飾りが 光って 揺れていた
一日が始まる まだ 寡黙なままに
からだが おもくて ぬぎすてて しまいたいけれど
そうもいかないので よこたわっている
最初は なんだか 自分がかわいそうで
それから じくじくとしたのを 見ているのが嫌で
少し ピンク色になった
かわいいと思う
ほんとうは 半分なんて ないものと 知っている
車内が そのまま 宙に放り出されたみたいに 寄り添っている
その中に 街灯のひかりが 浮かんでは 消えてゆくのだった
その続きの つながりの向こう
帰るところがある
いちにちが 過ぎる
ちいさな 痛み ちいさな 喜び
なにもなかった わけではない
けれども 眠りにつくまえに
なにも 特別ではなかった と おもう
暗い町のなかに ぽっかりと 窓の灯がうかぶ
うかんでは 消える
その窓からも 通り過ぎる 光を 見ている
さざなみのように 揺れ動き
湧き立つ泡のように とめどない
どこにも行けずに いつもともにある
午後だけれど まだ 霜が真っ白でした
すれ違っても みんな 無言で 歩いてゆきました
湿った 落ち葉を 踏んで
傾いた 光を 見ていました
まっすぐ 向こうに まだ みどり色の 丘です
そういえば 見慣れた 海が もう 見えないのだ
思い出す その ときどきの
すぐそばに あったのに
からだが 裏切っているのか 気持ちが 裏切っているのか
裏切るのも 裏切られるのも わたし自身なのだ と
なにを 言ってみても せんないこと
あたふたと 日常に 戻ってゆく
ふとんの中の じぶんの かたちに あたたまっている
いつのまにか こんなに 暗かったなんて
きょうは 星もない空で
窓のあかりだけ 町を 照らしている
お祭りが終わって まだ 片付けの途中の広場は もとどおりの静けさに もどってしまう 石畳の通りも 人影がまばらになって 夜更けのように
間違いと気づくのが 遅すぎたのかもしれないし
それほど 間違いではなかったのかもしれない
ただ いまだに 抜けない棘のようにとどまっている
幻を見るように 垣間見る わたしのすがた
だれも いなくていい なにも 聞こえなくていい
空が 近くなるくらい 重いから
川も おんなじ色で 透きとおっている
落ち葉が いっぱい ふさふさ
なんにも 考えない
あそこが どこかなんて 考えない
行きどころのない 落ち葉が くるくる まわっている
雲が 遠ざかりながら 湧き出てくるみたい
空と おなじ色の 地面に また 落ち葉が ふってくる
川を 渡し舟が 渡ってゆく
川は なにも 映さない
空と おなじ色
窓の あかりを 見つめている
そこから 間違いだったのかも しれない
後戻りは できない
どうやって ゆこうか
どこにも 行きつかないのだと
立ちどまる 足元は
空よりも くらい
積もった 落ち葉が
灯りのように 浮かんだ
いつか かわってゆく かたちは そうなりたい かたちでは ないと
それでも そんな かたちを ほっしている
落ち葉が しめって ふわふわする
木の葉は すっかり 色づいているのに
雨が 濡らしているから なんだか ぼんやりしている
遠くを 見ると やっぱり
ぼんやりと けむっているみたい
きんもくせいの香りを おもう
思い出のなかにしかない いま
いちにち と いちにちの あいだ
木々のかたちを いろどって
消えさってゆく
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