恋文
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連翹が 雨に ぬれそぼる
みんな 同じというわけではないけれど
また ひとつ 思い出に つながる
ブラインドの隙間から 消えてゆく ひかりを 見ている
どんどん 孤立してゆく ここに
まだ ひとりでいる
川の流れを 聞いています
小鳥が さえずっています
音と いえば それだけで
ひかりが かわってゆくのを 見ています
忘れても 忘れなくても
そこに あった
思い出したくて 思い出したくなくても
よみがえる
遅い雪が降った あとに
やっと 青空が見えました
木蓮の蕾が ちじこまっていたけれど
もうすぐ おおきく ふくらみそうです
夜が更けてきました いちにち 雨でした
そちらでは もうすぐ 夜明けですね
まだ 暗い部屋のなかで あなたは ぐっすり 眠っているでしょうか
もう 桜は咲いたでしょうか
あなたの 窓から 花が 見えるかしら
ゆらゆら 同じところを 漂っている
交わりながら すれ違いながら
水槽のなかに いるように
時が ゆっくりと 過ぎてゆく
その どの瞬間にも もどれない
ひとしきり 降っていた 雪が 止んでいる
黒い鳥が 地面に 踊るように しきりに なにか ついばんでいる
だんだんと 白く なってゆく
色がなくなると 音も しなくなる
空が 暗くなる
通る人を 追いかけるように
雨になる
花びらのように 降ってくる
雪の ひらひら
名残惜しいのね
もう 春なのに
それで いい
見知っている そのひとが
通って いった
ここは 真ん中 なのかしら
見知らぬ人が 追っている
川の 向こうのほうに 浮かんでいるのは 水鳥たち
橋の下 目の前には 岩の上を 音を立ててゆく 流れ
空は 灰色
歩いている
ありがとう と 言ったら よかったのに
うん と 言った
ことばが つまって しまったから
忘れているあいだも わたしは わたし自身なのだった
誰もが知っていても
わたしだけ 知らない
連翹が ほのおのよう
夕日が うしろから 照らしている
通りすぎるたび 花が香る
触れてくれる みたい
いつのまにか 取り残されて しまった ような
夕暮れは 雨の色
風がはこんでくる しぶきが ひたひたと
からだを 濡らしている
しんと静かな 家の中に
ときおり 聞こえてくる
誰もいない 道を
過ぎてゆく 風の音
うちの中から見る 空は 灰色
誰もいない ひとりでいると
うちのなかも 灰色になる
まっすぐに 立っている 木々を 見ながら 通り過ぎてゆきましょう
鳥の声は あちらからも こちらからも 聞こえています
寒いとは 思いません
一歩一歩 わたしが歩いています
しかたがない と 思いますが わたしは ひとつの 性です
鏡に 映して もうひとつの 性に なりたいと思います
ときどき 入り混じって しまいます
鏡のなかにも また もう一人の わたしが ありました
また その夢を見る
一歩のために 足を あげるのが 重い
もう 脚から くずれて
しまいそうに なりながら
歩いている
いつも どこかに
行かないと
いけないのだ と
そのとき どこか わたしの 真ん中に 沈んでいる
じぶんを 取り返したように おもった
からだに しみこむように 風が吹く
わたしのいない町にも 風は吹いているだろう
ここから 繋がってゆかない その風を 想う
いつしか空は 暗くなり
風が木の枝を 揺らす
咲いたばかりの花が ふるえる
誰が 知るわけでもない わたしを
わたしが 抱いていたい わたしを
かりかりと 引っかくように
呼び覚ましながら
知らないところにいる わたしは
いまここにいる わたしに なりたい
わたしが いなくても
おなじ
毎日が くるよね
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