恋文
DiaryINDEX|past|will
あなたは いないね
ラジオの おとだけ
かすかに きこえて
わたしの じかんは
もうすぐ くらい
よるの なか
ラジオを聴きながら 台所で ことこと スープを煮ている
ひとしきり 降っていた雪が やんだ
ずっと 続けばいい こんな生活は
きっと 続かないかもしれない
だから ふんわりスープの あたたかい湯気に
いまは くるまっている
とどまって いたいだけなのだと おもう
まだ 雨のおとが 聞こえている
もうすぐ しん と 静まりかえるだろう
空が見えない
街灯の下の 暗がりで
息が白い
茫洋とする 時間も 距離も
吹き寄せられて 雪が くるくる回る
傘のなかに 入り込んで
コートの上で 溶ける
渦になって 漂って
歩道の隅で うずくまる
ひとりで ゲームをする
ひとりで 負けることもある
勝手も 負けても ひとり
空は灰色 道を行けば ところどころ 雪はみぞれになって
ぬかるみも 真っ直ぐ 歩いてゆく
向こうの丘は まだ白い
陽は どこに隠れているのかしら
パプリカの 緑と赤と マッシュルーム たまねぎ ケチャップもいれて
いっこの 甘酸っぱい世界
話せば 話すほどに
遠くなってゆく 自分の姿を
どこからか 見ている
そこに いてもいいと 思いながら
流れてゆく
振り返っても もう いない
毎日が 同じように 過ぎてゆくと
このまま ずっと 続いてゆくような 気がする
失われたことも 忘れてしまいそうになり
からだの重さに 馴染む
肌に触れるものに 馴染む
息のひとつと 同じになる
空の色と 影の色と おなじ
木立は じっと佇む
小さな 雨が 落ちてくる
風と いっしょに 受けている
融けてしまった 雪の下から
思いがけないほどの みどり
梳いて 摘まんで 結んで 留めて
ちんまり 鏡のなかの わたし
雪の下から 道が現れて 濡れたまま 光を携える
今からまだ 続いている いつもの道 行き帰りの
いいこと わるいこと
考えることは 半分半分
まだ来ない あした
街灯の下で 雨粒が 霧のように舞う
泥の混じった 雪道は柔らかい
傘はいらない
誰も踏み入らない ところで 真っ白な雪が 光っている
轍が足元で 崩れる
靴跡も 崩れる
音を 聞きながら 歩いてゆく
さらさら 落ちてくる
雪は こずえで 凍えている
灰色の空
閉じた扉も 向こう側を思う
そっと 叩いてみよう 開くだろうか
耳をすませて 待ってみる
空の色も 屋根の色も 地面の色も おんなじ
音もなく
ことばは いつか なめらかに 聞こえる
すこし 取り残されて ぎこちなく
あげる 声
欠けてゆく月が 空に透ける
溶けないままの雪が ひかっている
いく度もの 始まりを 繰りかえして
近づいているか 知らない
終わりも しらない
ただ 始める
なにもが 変わってゆくだろう
まだ 途中なのだ
明け方に見る 夢のなですら 行方は知らない
まだ 進んでゆく
あ 空が明るくなったら
白い月が そのまま 残っている
凍っているみたい
切った髪が うずくまる
軽くなった だろうか
もう少し 先に 行くため
|