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あ 鳥の声
わたしは それを 聴いている
失われないように
まっすぐな陽射しが まぶしくて 目そらす
誰もの顔が 影と光のあいだ
連翹の色が まぶしい
雲の切れ間から まっすぐ 降りてくる光
雨のなかにいる
草や木と 同じようになる
風も静か
指を 切ってしまった
ただ 痛いだけ
ちゃんと 生きている
揺れながら 触れながら
漂いながら なぞりながら
深い 広い
こんな世界を
夢でないような 夢をみて 寝付けなくなる
眠りのあいだで 考えることも 夢のようなもの
鳥の声を 聞きながら 朝の陽射しのなか
わたしは わたしのままで 立っている
夢をみているあいだ そのまま とどまっていられたら どこにもいない わたしを 見ていられる
夢ではない けれども 暖かい きょうを 過ごした だから まだ 今いる わたしを 見ていられる
いつか こんなに 眩しくなっている
草地にも 花が咲いて
少し ゆっくり 歩こう
過ぎる日 過ぎた日 過ぎていった日
どこから どうやって 明日に 繋がってゆくのか 知らない
雲の切れ目 雨の切れ目 空のすきま
光が きらきらする
傘のなか 雨も 暖かかった
このまま 残っていたい
風が ふんわり あたたかい
ちょこんと 乗れたら
向こうのほうまで 運んでくれそうね
晴れたり 曇ったり 雨が降ったり
それだけで 揺れる
風が吹けば 崩れそうに 傾くだろう
それでも ゆっくり 揺れながら
特別ではない日 少しだけ 陽射しは 暖かい
まだ とどまっていたい
風が吹けば 揺らぐだろう
雨が降れば 濡れるだろう
まだ 続く 道のりの なかば
まだ残った 雪のあいだから
小さな花が のぞく
梢の芽が ほころびる
片隅から 春になる
やわらかな 夢のなかに いたかった
誰か 知らない わたしになって
覚めないまま
空に向かって
きらきら 光っている
森のてっぺん
雪が とけてゆく
屋根も 木々も 雪をかぶって
向こうに 夢の中のように 霞んだ森
静まり返ったような 空から はらはら まだ 落ちてくる
風の音を 聞き続ける 夜のあいだ
思うことも 風といっしょに 飛びまわる
夢の入れ子のなかを さまよう
いつまでも 夢のなかかしら
窓から 午後のひかりが 射し込んでくる
影が くっきりと 浮かぶ
日々が移る
足跡が 凍っている
森の小道で 聞こえるのは
足元が ぱりぱりと 砕ける音
小鳥の声
木の葉が 揺れる音
もう 地面から のぞいていた つぼみを 被っていった
花吹雪のように
空は 明るい
風が 吹いて
手が かじかむ
春を 待っている
すれ違う人も まばらな 石畳の町角
少しづつ 沁みてくる 空気の つめたさ
雲の切れ目から わずかに 日が射してくる
何もかも どんなにも 変わってゆく
まだ ちゃんとある わたし
ふと 過ごす ずっと 変わらない ひととき
雨が 止んだ
けれど まだ 頬にあたる 湿った風
ぱらん ぱらん ただ 葉っぱが 揺れる音
これまで 歩んできた
これから 歩んでゆく
わたしの 一歩
いい と言う
まだ
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