恋文
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ここでは いつも 風が荒れる
髪が ばらばらと 顔を ところかまわず 打ちつける
歩みだす それすら
とどめて
風凪ぐ 夢に誘う 日溜り
風に抗い
風に 押し戻され
真っ直ぐではない それでも
歩くこと
幻のように 夢のように
光と影のあいだ いつも 咲く花
昨日よりも 少したくさん
花開く
台所しごとをしながら 聞いている
アイロンをかけながら 聞いている
なんにもしないときも
音がする と
なんだか 安心する
春キャベツを 刻む
罪のような 柔らかさ
つつじの 花が咲く
夕日のなか
一日を 終わらせること
そうして 眠ること
明日が やってくる
冷たくなった 足先をあわせ
眠りに落ちる 前の
ひとときを 迎える
なにものにも おびやかされずに 過ごしたい
ときに 影にも怯えながらも
たやすいことばかりでは ないとしても
穏やかに 過ごせないわけではない
鏡のなかの 自分を見る
待ち待ちて ことし咲きけり 桃の花 白と聞きつつ 花は紅なり
と、太宰は歌い
この葉桜を 見上げる
空のあお
いつも どこかを 探しているなら
どこに 住処があるだろうと 思えば
今が いつも わたしの住処
眠るあいだ 少し 離れていたい
それでも いつか 現の はざま
ただ 過ぎてゆくことを 願うあいだ
過ぎてゆく 日々も 確かな毎日
風を 知らないままに 過ぎる 長い一日
窓に 隔てられた
帰る場所
袋小路の 曲がり角
何度も 行き来する
風のなかに 雨のなかに 花は
散ってゆくだろう この 夜に
菜の花 木蓮 辛夷 連翹
川沿い 歩く道筋
さくら 桜
故郷にいる
雨が 風に舞い散って
気づくと 桜は 花開き
雨と 一緒に
舞い散って
いつか 開いている 花のなか
揺れる 風のなか
根付くには どれほど かかるだろう
その前に 漂い 流されて
行ってしまうかも しれない
また 風が 激しい
夢に 迷走する
少しづつ 侵食される
日常の 裏返し
いま 過ごすこと
耐えること
楽しむこと
また 明日がくる
なにも 真っ直ぐには ゆかない
行きつ 戻りつ
ときどき 迷う
ずっと 静かな 穏やかな 日々であったら いいのに
明日のことが 見えなくても
朝の光は 射してくる
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