『東京湾景』 吉田修一 新潮社 - 2003年10月31日(金) 新しい“恋愛小説のスタンダード的作品”の誕生だと思う。 《bk1へ》 《Amazonへ》 吉田さんの小説の特徴は“平凡で不器用に生きる主人公”に対する共感に尽きると思ってますが、『日曜日たち』よりさらに恋愛と言うステージにあげることによってより持ち味を発揮していると言えそうな作品です。 出会い系サイトを利用して知り合った亮介と涼子。 働く場所も品川の倉庫とお台場の高層ビルと近くであっても対照的。 このコントラストが物語り全体を支配している。 東京の地理に関しては詳しくないのですが(苦笑)、詳しい方が読まれたらもっと実感できそうな作品だと言えそうですね。 どちらかと言えば涼子が主人公と言った方がベターかもしれない。 それだけ、心の動きを明確に捉えて描写している点は見逃せない。 吉田さんの凄い点は男の気持ちも女の気持ちもフィフティ・フィフティに理解してる点であろう。 なかなか出来そうで出来ないけど本書では成功してるように感じる。 知り合った経緯や、過去のトラウマ、三角関係などいろんな悩みを通じて考え成長して行く過程は見事であるが、果たして結末はどうなったのでしょうか? 普段、恋愛小説はという方にもスンナリと受け入れられそうなストーリー展開の作品と言えそうです。 恋愛をきれいごとで済ませてないけれど、決して一番大事な部分は忘れてはならないという吉田さんの主張は支持するに値すると思う。 一見、誰にでも書けそうな文章の中にプロの凄さを見出した1冊と言えそうです。 評価9点。オススメ ... 『まひるの月を追いかけて』 恩田陸 文藝春秋 - 2003年10月29日(水) 恩田さんの作品はその高い才能を認めつつも未読が多いのだが(苦笑)、久々に新しい作品に挑戦してみた。 《bk1へ》 《Amazonへ》 奈良を舞台とした旅行記に近い物語だが、恩田さんの才能が発揮できた作品とはいいがたいような気がする。 恩田さんの既読の作品では『ドミノ』と『ロミオとロミオは永遠に』が大好きで、この2つの作品はまさに恩田さんしか書けない領域の作品だと思っています。 本作はどうしても上記2作と比べてしまい、不満が残りました。 個人的にテンポのいい作品を恩田さんに期待してるのも要因となってるのでしょうね。 ミステリー的要素も多分にあるのですが、読んでて結末が予想できた人も多いはずだと思う。 展開的には死人が出たりでハッとさせられる部分も途中であるのだが、いかんせん登場人物が魅力薄なんで感情移入しにくい点は否めなかったなあ。 特に研吾に関しては、ハッキリしないキャラが目立ってしまって作品自体をトーンダウンさせてる印象が強かったです。 彼は出家するのでしょうかね(笑) 読み進めて行く内に、もっとどんなことが起こるのだろうと期待してたのですが、展開が期待より月並みだったような気がします。 結局、失踪した異母兄を探しに行くストーリーより、旅行記としての印象の方が強いのがとっても残念。 奈良の観光名所の風景描写シーンに関しては、やはりプロの作家の描写は上手です。 遠方の方や旅行好きの方が読まれたら思わず奈良に旅行したくなるのかもしれませんね(笑) 登場人物すべてがもやもやしていて、読後も物足りなさが残った作品でした。 もっと物語りにグイグイ引きこんでいって欲しかったなあ。 こう言った雰囲気が好きな方もいらっしゃると思いますが、万人受けする作品とは言い難いと思います。 次作期待したいですね。 評価6点。 ... 『お父さんエラい! 単身赴任二十人の仲間たち』 重松清 講談社 - 2003年10月28日(火) 『隣人』以来のルポ作品となりました。 《bk1へ》 《Amazonへ》 副タイトルにもあるように単身赴任にスポットを当てて取材されてます。 シリアスな内容の『隣人』とは全然違った和やかな感じのルポ集となっています。 月刊誌『オブラ』に連載されてたものを単行本化したものだが、本書は是非『オブラ』を手にしない主婦層の方、とりわけ単身赴任や転勤族に縁のない家庭の主婦に是非お読みいただきたい作品と言えそうです。 主婦の方だからこそ噛みしめて読めるのだと確信しています。 普段、当たり前のようにそばにいる相方に対して“忘れかけてた感謝の気持ち”や“ないがしろになっていた相手への態度”を再確認するいい機会を与えてくれるでしょう。 重松さん自身、単身赴任と違って転勤族の家庭に育ってるので逆に取材するに当たって非常に興味深かったものであると容易に想像できます。 永遠の命題とも言える“家族のために単身赴任をしない”のか“家族のために単身赴任を選んだ”のか重松さんなりに答えを導いてくれてるような気がします。 北は北海道・稚内から南は南極まで・・・ 明るく生き生きと暮らしてる単身赴任者の姿を重松流に描き出しておる本書において、小説における重松さんの厳しい投げかけは皆無と言えるでしょう。 その際たる例として、本書内で自分の事を“シゲマツ”とカタカナ表記されている点をあげたく思う。 ハートウォーミングさを前面に押し出してるところが読者にとって新鮮に感じるのではないだろうか? 本書において単身赴任として取り上げられてる人々誰もが、充実した人生を送ってます。 でも、その充実感は苦労や困難に打ち勝ったからこそ得たものであることは重松さんのルポを読むと読者の誰もが読み取ることが出来ます。 この点が重松さんの小説と変わりない点かもしれませんね。 誰よりもエールを贈ってるのはきっと転勤族の家庭に育った、“ヨミモノ作家”重松さんなのでしょう。 読み終えた率直な感想としては小説よりサラッと読める点につきるでしょう。 重松さんの実際の人柄を垣間見ることが出来た気がしたのは私だけじゃないはずです。 たまにこんな変化球的(チェンジアップ?)作品も楽しめるところが重松さんの大きな持ち味であり魅力であることを再認識しました。 評価8点。 ... 『くらのかみ』 講談社 小野不由美 - 2003年10月23日(木) 小野さんの本は今回初めて読みましたが、ちょっと初回に読む本としては間違えたかなあと思います(苦笑) 《bk1へ》 《Amazonへ》 本作はご存知の方も多いと思うが、講談社の話題レーベル“ミステリーランド”の第1回目の配本にて出された話題作である。 なかなかおとなも子供も楽しめるキャッチフレーズ通りの作品なんだけど、普段単行本や文庫本に読みなれてる人としたら本を開けたら違和感があるかもしれない。 (全13行でルビが漢字にふってます) 逆にファンの方にはまさしく“愛蔵本”となる装丁であろう。 珍しいという方もいらっしゃるかもしれないが、その方はきっとお子さんに読ませたいとか自分が子供の頃から本を読み漁っていたという経緯のある方に限定されるかな。 ただ、村上勉さんの挿絵はとっても効果的であってなかなか楽しませてくれました。 内容的には高度ではないが立派なミステリーとなっていてなかなか練られて書かれた作品である。 なんといっても子供が探偵役として頑張っている姿が微笑ましく感じられる点がいい。 いわば、子供にとったら“未知の大人の世界を垣間見るチャンスを与えられた本”で、逆に大人にとったら“忘れつつあるあの頃を懐かしませてくれる本”だと思います。 そう、ちょうど80年代のポップスを聴く感じといったらいいのでしょうか。 個人的には可もなく不可もなくという作品だと思いますが、買って読むには高価すぎるかもしれません(定価2000円)。 大きな期待を持って読まれた人に限って、物足りなさをもたれるかもしれませんが、ラスト付近の大人感と子供感に関する描写は納得させられる部分が大きかったです。 読後感もいいのですが、財産相続問題に関して毒物殺人を企てたりする内容に関しては子供向けの作品としてはいただけないような気もしましたが、ちょっと深く考えすぎかもしれませんね(苦笑) 古くに書かれた作品でしたら問題ないのですが、最近書かれた書下ろし作品でしたら、小学校高学年ぐらいのお子さんには読ませるにはちょっと早いかなあという気も少しはしました。 割り切って読ませる場合は“人と結束することの素晴らしさ”を感じ取って貰えたらと思ったりしております。 評価7点。 ... 『日曜日たち』 吉田修一 講談社 - 2003年10月19日(日) 吉田修一の小説に東京はよく似合う。 《bk1へ》 《Amazonへ》 彼の描写は意外と鋭い。ちょっと引用しますね。 『読み終わりだった小説は、四十代の男性作家が書いた恋愛小説で、面白いというよりも、どうして主人公の女性がこんな自意識過剰な男に惚れるのかが気になって、ついつい読み続けていたのだが、残り数ページとなった今もその理由は書かれておらず、もしも主人公が、最終的にこの男をきっぱりと捨てなければ、自分が代わりにこの本をゴミ箱にきっぱりと捨ててやろうと思っていた。』 本作も5人の男女を通して、大都会東京で生きることの辛さを語ってくれる。 彼の主人公はいたって不器用だ。 全員が過去をひきずって生きている。 不器用だからこそ同じ目線で読者も読むことが出来共感も強く出来るのだろう。 なんと言っても、2人の家出した幼い兄弟の話には泣かされる。 どの話においても、途中で登場してきて少しづつ露わになってくるのだがそれぞれの物語の主人公の心を癒す役割をはたしているのが伝わってくる。 母親を探す切ない気持ちの2人と、結構淡々と生きている各編の主人公とのコントラストが見事だ。 吉田さんの作品って“現代人の不安”を浮き彫りにして読者に提示してくれる。 特に本作は後半に行けば行くほど深みが出てきたような気がする。 1編1編は特に感動的ではないが、読み終えて良かったという読後感をもたらせてくれる作品といえよう。 特に最終章の素晴らしさは特筆ものだ。 成長した兄弟が読者にとっても“一服の清涼剤”となることがきっと吉田さんの希望なのでしょうね。 評価8点。 ... 『雨の匂い』 樋口有介 中央公論新社 - 2003年10月17日(金) 樋口有介さん、初挑戦したのですがちょっと受け入れにくかったというのが正直な感想です。 文体的にはどちらかと言えば純文学的、でも内容はサスペンスというかミステリーというか・・・でも中途半端な感じが拭えませんでした。 《bk1へ》 《Amazonへ》 主人公の柊一が苦労している姿(介護と家事をこなしてます)は特に前半部分共感できたのですが、久子(母親)や志万の身勝手さがどうしても納得いかないというかエンディングに繋がらなかった気がします。 周りの人間の変人ぶりが目立って、決して読後感のいいものじゃなかった点も残念でした。 私の読み込み不足かもしれませんが・・・ インパクトが弱かったのが残念です。 本って合う合わないのが大きいのでしょうね。 機会があれば代表作の『ぼくと,ぼくらの夏』は読んでみますね。 久々に短い感想で終ります(苦笑) 評価5点 ... 『恋ほおずき』 諸田玲子 中央公論新社 - 2003年10月15日(水) いろんな読み方が出来る作品である。 《bk1へ》 《Amazonへ》 諸田さん著作リストは《こちら》 ジャンル的には恋愛+社会派+人情物といった感じでしょうかね。(もちろん時代物ですが・・・) 現代と違った当時(江戸時代)の世相を上手く反映させて作られているが、相変わらず女性の奥底に潜む気持ちの描写は凄い。 諸田さんの作品の中では小ぢんまりとした作品かもしれないがその内容の奥の深さはまるで山椒のようにピリリと引き締まっている。 自分の過去を引きずりつつも信念を持って中条流の医者(堕胎医)を営んで生きている主人公江与。 今は簡単に出来る(?)中絶も当時はご法度的なものであった。 さまざまな宿命を背負って生きる女性たちがもの悲しいけど健気である点が強調されてるような気がする。 それは江与がその女性たちの悲しさを一人で背負って生きているような気がするからだ。 北町奉行所の定廻り同心で初めは敵対する関係にある清之助との恋模様も注目に値する。 まさに運命の出会いと言えよう。 叶わぬと思う恋ほど熱くなるものである、たった一夜の恋であっても・・・ 運命の出会いを手助けした(?)かっぱらいの平吉少年が徐々に成長して行く姿は微笑ましく物語全体を明るいものとしている点も見逃せない。 気がかりでページをめくる手が離せない一冊であるが、めくるごとに江与に対しての共感を深めることが出来る。 悩みに悩みぬいて中条流の医者(堕胎医)を始めた過去が露わになってくるからだ。 結論的には主人公も堕胎に賛成してるわけではないし反対してるわけでもない。 でも掲載雑誌が女性誌だった点をも考慮に入れると、現代に相通じる問題を通して現代の自由さを認識させつつも命の大切さを投げかけているのだと思います。 女性の苦しみと幸せは表裏一体だということを強く感じずにいられない。 我々現代人が忘れがちな倫理観を思い起こさせてくれる点はこの作品の価値をより高いものとしている。 女性の読まれた意見を聞きたいと強く感じた。 タイトルにも使われてるほおずきは堕胎に薬としても使え、その180度違う用途ゆえ平吉少年に根をとらさない江与の気配りがとっても印象的だった。 評価8点。 ... 『真夜中のマーチ』 奥田英朗 集英社 - 2003年10月12日(日) 奥田さんの新刊は『イン・ザ・プール』に似た感じの作品と言えるかな。 《bk1へ》 《Amazonへ》 違いは本作の方がスピード感が溢れている事。あと、逆にキャラクター的には伊良部先生みたいな絶対的な(ボブ・サップのような)人物は出てきません。 どちらかと言えば等身大に近い感じでしょうかね。 スピード感溢れる展開とウィットに富んでてユーモラスな会話が魅力の作品となってる本作は、同じ犯罪に焦点を当てた『最悪』とは全然内容が違う。 登場人物の深刻感というか悲壮感が全くなく、楽観的なキャラクターの代名詞のような登場人物(いや、犬もいます)が活躍するので気軽に読めること間違いなし。 読者の周りにもいそうな人物が登場するのが本作を身近に楽しめるものとしている。 きっと奥田さんにしたらとは180度違った軽い犯罪小説を書きたかったのでしょうね。 あと、読んでて気づいたのは車や音楽の趣味なんかに関しても奥田さんのきめの細かい心配りが生かされ、よりストーリーを洒落たものとしている点も見逃せない点である。 構成的には3章に分かれていて、各章とも主人公と言うか話が3人の登場人物がバトンタッチで語られている。 知らずのうちに3人が打ちとけあって連帯感が芽生える点は見事ですね。 ちょっとそれぞれの過去の生い立ち等のエピソードが少ないのが残念ですが、この手の小説にはあんまり必要ないのかもしれませんね(笑) 読み始めは馴染みにくかったヨコケンとミタゾウ。次第に応援する立場と変わるあたりは読んでてビックリ。 ヨコケンとクロチェの恋模様も気になりましたがもうちょっと書いて欲しかったけど、これもこの手の小説には必要ないかな。 ちょっと評価の分かれる点かもしれませんね。 でも、適度にギャグをまじえてるあたりは師匠(?)の浅田次郎さんのお笑い系に通じるものが十分に感じられた。 引用しますね。 『向こうの若い衆が出てくるさ。こっちは支持してりゃあいい。それよりタケシ、床屋へ行ってこいって言っただろう』 『だって、もう少し伸ばしてベッカムみたいにしたいんだもん』 『誰だそれは。競馬のジョッキーか』 果たして完全犯罪はなるのでしょうか? 読んでのお楽しみと言う事で・・・ でも映画を観てるような感覚にされる作品なんで居眠りは厳禁ですよ。 一気に読んでくださいね。 (レビューもウィットに富ませました) 評価8点 ... 秋の連ドラ ちょこっと感想� �10/6〜10/11) - 2003年10月11日(土) 一時のトレンディドラマが大流行した時期が嘘のように、現在連続ドラマの視聴率が低迷している。 時代とともに視聴者層のテレビ離れと主演俳優のマンネリ化等が考えられる。 あと、1回見落としたら次を見るのを諦めてしまうというのもあるのでしょうかね。 2時間ドラマが高視聴率をあげているのも1回1回スカッと終るのが要因だと思う。 不景気でかなりイライラする毎日を過ごしてる日本人の世相を反映してるのでしょうか。 ちょっと前置きが長くなりましたが(苦笑)、秋の連ドラで見た分の率直な感想を最低週1回(日〜土)書いていこうと思います。 先週は3本見ました。 ちなみに1週目の視聴率はこちらです。 『ビギナー』 ご存知、フジテレビの看板枠である“月9”の作品であるが、今回主演のミムラさんが公募で選ばれた。 確かに初々しくてまるでNHKの連続テレビ小説にでも出れそうである(笑) 内容としたら、いろんな人生を経験してきた司法研修生の世界を描いている。 法律用語がたくさん出てくるのでいい勉強になる。 あと、脇役陣がバラエティに富んでるのでなんとかミムラを助けて欲しい。 松雪泰子がとってもはまり役かな? 展開的には男性陣のオダギリジョーと堤真一、女性陣のミムラ、松雪泰子、奥菜恵あたりが恋愛に絡んできそうで 来そうな気配が濃厚。 女性ファンはオダギリジョー目当てが多いと思うがなかなか3枚目役もいいかな。 でも男性として彼のヘアースタイルはちょっとどうかなあって思った。 公式サイトはこちら 初回視聴率15.6% オススメ度7点。 『恋文』 TBSの水曜10時枠である。直木賞受賞作の『恋文』のドラマ化だが、実は原作は50ページ弱である。 どう言った脚色がなされるかが見物である。 原作は読み終えたが違った展開を期待したいものだ。 “究極の三角関係”が描かれそうだが、演技派俳優渡部篤朗は幸せものだ(笑) 水野美紀と和久井映見にはさまれるなんて・・・ 和久井映見も年を取った感は否めないが、私生活が吹っ切れたように見受けれるのは私だけかな? 登場人物が少なそうなので、脚本と演技力で魅了して欲しいと思うが終わりまで見れるかな? 毎週ハラハラさせてくれることを期待しているが、来週日テレで『共犯者』が始まるのでちょっと苦しいかな。 公式サイトはこちら 初回視聴率15.6% オススメ度8点。 『マンハッタン・ラブ・ストーリー』 TBSの木曜10時枠である。フジが今回、大作『白い巨搭』で対抗したので初回から苦戦を強いられている。 だが内容というか面白さは本当に負けてない。 宮藤官九郎脚本でとってもユーモラスで楽しいドラマである。 先日『蝉しぐれ』のドラマにも出ていたが、どうやらマルチタレントらしい。 でも、俳優より脚本家としての資質が高いのは一目瞭然である。 ひとりひとりの出演者の持ち味を十分に引き出している。 特に、キョンキョンとミッチーは最高のキャスティングと言えそうです。 あとは店長の松岡(トキオ)がどう絡んでくるかだが、ほろずっぱさと胸キュンさを両方味わえるのは嬉しい限りであった。 新しい時代のドラマだなと思わずにいられないし、ドラマでは久々にテレビに釘付け状態となった(笑) 朗報として来週に再放送があります。 騙されたと思って一度見てください。 変なたとえですが(苦笑)奥田英朗の小説『イン・ザ・プール』と同じぐらい面白かったです。 どうしても『白い巨搭』を見られたい方はどちらかを録画して見て欲しいなあ。 今週見た3本のなかではダントツのオススメです。 公式サイトはこちら 初回視聴率10.0% オススメ度9点。 ... 『13階段』 高野和明 講談社 - 2003年10月10日(金) ご存知江戸川乱歩賞受賞作の作品であるが、なかなか読めなかったのだけど映画化もされたので手にとって見た。 社会派ミステリー大作としてとっても良く出来た作品だと思う。 《bk1へ》 《Amazonへ》 “死刑”制度に冤罪という最もあるまじき事についてとにかく読ませてくれる。 問題が問題だけに、どうしても新聞を読んだりした時に同じような題材の記事に目が行ってしまうのはいい勉強となったことの証しかな。 展開的にも途中でハッとさせられる場面も出てきてスリリングである。 犯罪者に対する前向き度においてもよく似た題材の 『手紙』や『繋がれた明日』と比べて、より前向きな気もしたが全体的には物悲しさがつきまとった作品である。 出来栄えとしては前2作とほぼ互角かな? トップクラスの2人と互角に渡り合えるというのは並々ならぬ才能を感じられたことは言うまでもない。 こちらの作品の方が暗部まで描いてるので奥が深いとも取れるかもしれませんね。 あと、ミステリー要素は誰がやったのかという興味は最後のあたりまで尽きませんので高いです。 逆に主人公の心の葛藤面は比較するとドライだったような気もします。 仮釈放中の青年(三上)と、絶望した刑務官(南郷)の2人が主人公といった作品と言えそうですがこれも新しい趣向の作品として受け入れられたと思う。 2人が同じぐらい重要な役割を演じてる事は最後まで読めばわかります。 個人的には南郷の過去の苦悩(死刑執行)にスポットを当てた描写には舌を巻かざるを得なかった。 男として南郷の生き方にはとっても共感できた方は多かったのじゃないかな。 あのまま執行されてたらどうなってたのかという憤りに近い気持ちを持ちつつ読み耽り、それがラストの数行で一転します。 こんな事あってはいけないという気持ちが強くなられて本を閉じた方が大半じゃなかったでしょうか。 敢えて、少し気になった点も書きますね。 それは、三上がラストで南郷に宛てた手紙の内容(10年前のいきさつ)なんですが出来すぎというかちょっとイメージが損なわれた気もします。 その辺が読み終えるにあたって評価の分岐点となるのかもしれませんね。 三上を正当化したような気もしたが、スッキリ出来ない点も芽生えたかなと思いますが読み込み不足かな? エンターテイメント作品としても楽しめ、最後に読者に問題も提議してくれる本作は、普段第三者的に捉えてる読者に多少なりとも当事者の気持ちに入り込めさせた点はその読み応え度の高さを示している。 死刑制度というむずかしいテーマに真正面からぶつかって行った高野氏に拍手を送りたいと思う。 評価8点。 ... コラム 乙川さんと宇江佐さん - 2003年10月09日(木) 乙川優三郎さんと宇江佐真理さん、結構私のサイトに遊びに来てくれてる方はご存知な方が増えてると思いますが、おふたりとも現在の時代小説界で人気実力ともにトップの地位を固めてる方だと思います。 今日は2人の作風の違いについて(結構違うのですよ)語りたいと思います。 まず、乙川さんですが、(乙川優三郎著作リストへ) 作風的に山本周五郎や藤沢周平に似ていて古くからの伝統的な時代小説のスタイルを継承している。 登場人物は真面目だが不器用で世渡り下手な人物が多い。 文章も一語一語丹念に書かれていてその完成度の高さは読者を“乙川ワールド”に引きずり込んでくれるのである。 彼のどの作品を読んでも“人生の岐路”に立った人の喜びや悲しみを納得の行く筋書きで語ってくれ、読者に読後の感銘と読書の奥の深さを教えてくれる。 どちらかと言えば、代表作である『霧の橋』のような長編小説が得意とされていたが、直木賞受賞作の『生きる』や最新作の『武家用心集』での中短篇にも力量をいかんなく発揮できるようになり、最近では文芸雑誌に初の連作短篇を掲載し始めている。 少し健康面に心配な点があるらしいが、寡作でもいいので書き続けて行って欲しいと思う。 個人的にとっても資質の高い方だと思います。 受賞すべくして受賞した直木賞、これからは、10年20年後語り継がれる作家となって欲しいと思ったりしています。 逆に宇江佐さんは、(宇江佐真理著作リストへ)古くからのスタイルに新しい要素を取り入れて上手く作品に融合させている。 文章は乙川さんより自由奔放というか現代的で読みやすい。 登場人物も気風が良くって人情味溢れ、喜怒哀楽の激しい人物が多い。 人の感情をセリフにさせたら天下一品で、人間の光り輝いている部分をビビッドに描写しているのでとっても登場人物に共感出来、幸せな気分に浸れるのである。 代表作である髪結い伊三次シリーズも『黒く塗れ』で5巻目を迎えた。 彼女のライフワーク的作品とも言えそうで、ヒロイン“お文”の幸せはきっと宇江佐さんの幸せに違いない。 最近は歴史小説の方にも活躍の場を広げようとされてる。 髪結い伊三次シリーズ以外にも数多くのクオリティ高い作品を書き続けている点は読者の期待を裏切らない。 (個人的に『あやめ横丁の人々』と『斬られ権佐』は特に完成度が高いと思います。) 直木賞に6回もノミネートされながらいまだに受賞出来ないのは不運の一語に尽きる。 いわば、乙川さんの作品を読めば“時代小説ってこんなにも良かったのか!”と感じ、一方、宇江佐さんの作品を読めば“時代小説ってこんなに読みやすかったのか!”と感じるはずだ。 ちょっと言いたいことが半分位しか語れなかったが、この2人の作家の作品をリアルタイムに読める喜びを噛みしめたいと思う。 乙川さんからは“人生の奥の深さ”を、宇江佐さんからは“人を愛することの素晴らしさ”を学び取ることが出来たから・・・ ... コラム 出版不況と図書館 - 2003年10月05日(日) 私はブックオフによく行きますが、文芸のところにはほとんど人がいませんよね。 コミックの立ち読みされてる方がほとんどなのが現状です。 ということは私みたいに漫画を全然読まない人間は、普段あんまり意識しないのですが、作家(文芸)はもちろんのこと漫画作家はもっと痛手を受けてるといえるでしょうね。 逆に言えば、ブック○フなんかはコミックがなければ成り立たないような気がします。 本屋さんの店員が作家の名前を知らないのも本当に頷ける話かもしれませんね。 それより雑誌の発売日(曜日)なんかを覚えるほうが役に立つのでしょう。 世間一般の方は直木賞が誰が取ろうが本当に関係ないというか興味のない方が大半ですよね(笑) 私もかつて全然知りませんでした。 その人の生活に読書がかなり密着しなければ興味と言うのが沸かないのだと思います。 横山秀夫さんの“直木賞訣別宣言”をご存知な方ってはたしてどれだけいるでしょうか? 私自身も、恥ずかしながら単行本を月に五冊以上買ったことがありません。(文庫本はありますが) たまに毎月かなり単行本新刊を買われてるような方がいらっしゃいますが、本当に羨ましいです。 作家にとっては図書館で借りようがブック○フで買おうが印税には全然関係ありませんので、申し訳ないとは思ってますが・・・ でもやはり庶民は“この新刊を買わなかったら煙草6箱買えるのに”って思っちゃうのだよね(苦笑) だから私のレビューの採点も買った本は自然と両極端に評価してますね。(高いか低いって事です。) メジャーな方は少々辛辣に評価しても読んでみようかなあって気になると思います。 ただ、マイナーな方(どこでマイナーとメジャーの線引きをするかが問題だと思いますが)はネットでもあんまり高く評価されなかったら本当に気の毒な気がするのですね(笑) “言論の自由”って言うけど、“明日は我が身”って言葉もあるしね。 かつて“ダイ○ーが出来たので個人商店がつぶれた”という話がありましたが、今はその“ダイ○ーが危ない”からね。 プロ野球選手と一緒で2軍の選手の方が苦労してると思います。 だから、結果としてあんまり面白くなかった作家さんの本は1冊にとどめておく事にしてます。 これって主義になるのでしょうかね。 横山秀夫や石田衣良さんの本は面白くなかったと書いてもどれどれ読んでみようかなあって思うけど、知らない作家さんの本って影響力が大きい気がするよね。 でも買った本は違います。というか、マイナーな方の本は買いません、基本的に・・・ 映画を観るのと同じぐらいの値段がしますのでやっぱり“元を取ろう”っていう気構えで読んでますよ。 根っからの貧乏性なのかな(爆) でも確かに本って高すぎると思います。 あと、昨晩のチャットでも少し話題に上がったのですが“ネット予約”出来る図書館が増えてきてると言う事です。 これは本当に便利だと思います。 特にインターネットが生活の一部に密着している私たちHPを持ってる人間にはリアルタイムで予約できるのでまるで“棚から牡丹餅”状態です。 しかしながらある意味において、マイナー作家さんにしたらますます厳しい状況に追い込まれてきたのも事実だと思います。 図書館の予算も削られて、次からはこの作家の本は要らないって感じになるのでしょうね。 私のよく行く図書館では月刊の雑誌の入荷が削られてますね。 はっきり“予算の都合”でって書かれてます。 あとネット予約できる図書館の近くの書店なんかも“今まで以上に売れにくくなる環境となった”のは事実だと思います。 読者にしても読みたい本が多ければ多いほど、直面する問題だからやっかいなものですね。 続く ... 『九月の四分の一』 大崎善生 新潮社 - 2003年10月04日(土) 大崎さんの作品は初めて読んだが噂どおりとっても美しい文章を書く方である。 4篇からなる短篇集であるがいずれも男性が主人公。 自分の青年時代を中年になって振り返っていますが、女性が読めば好感を持てることはまず間違いないでしょう。 とっても、繊細だからどの主人公も・・・ 《bk1へ》 《Amazonへ》 この作品を読めば、誰もが経験したような青春のほろずっぱさが活字となって甦ってくる。 読者は自分の過去の体験と照らし合わせて読み進め感慨にふけるのであろう。 自分の過去の日記を読んでるような感覚で楽しめるかどうかがこの作品の評価に繋がってくるのではないでしょうか。 言い方を変えれば、読者の過去の恋愛の経験度数によって共感度が変わってくるとも言えるでしょうね。 どの主人公も報われなかったけど過去の恋愛を通して成長したという事実を噛みしめたい。 過去を後悔してるんじゃなくって、踏み台にしている点は本当に見習いたいです。ハイ。 どちらかと言えば既婚者向けの作品だと思う。 と言っても不倫の本じゃないですよ。 回想してるのは青春(独身)時代の恋愛ばかりですから。 ただ、独身で現在進行形で深く恋愛してる方には市川拓司さんの作品の方が合ってるかも知れません。 基本的に中年男性の視点で書かれてますのでどの作品も・・・ あと、いずれも恋愛が終ったと言う結果がわかってから書いてますので現在深く恋愛されてる方には辛いかもね。 普通の恋愛が出来ない(世間一般的に)方が、本の世界ではあるけど究極の恋愛を楽しめる本と言ったら良いのでしょう。 まるで読者が小説内のヒーロー・ヒロインになれる(体験できる)かのように。 4篇ともとってもクオリティの高い作品集ですが、タイトル名にもなっている「九月の四分の一」が一番ロマンティックでいいかな。 この短篇は個人的には今年のベスト1かもしれませんね。 読み終えてふとヨーロッパに行きたいと強く感じた方も多いはずです。 女性にプレゼントするのには恰好の本かもしれませんね。 そうそう、それぞれの篇に“ストーンズ・ビートルズ・アバ・レッドツェッペリン”の音楽が効果的に挿入されてます。 きっと本作を読まれて懐かしい曲を楽しまれたかたも多いんじゃないかな。 でも、基本的にはじっくりクラシックでも聞きながら読むのにいい作品だと思います。 私的には大崎さん、本多孝好さん、市川たくじさんの3人が文章が綺麗なベスト3となりました。 重松清さんの書評も是非お読みください。 評価8点。 ... 『4TEEN』 石田衣良 新潮社 - 2003年10月02日(木) 最新作『LAST』に引き続き直木賞受賞作を読んでみた。 《bk1へ》 《Amazonへ》 『LAST』とは一転してこの作品には瑞々しいという言葉が最もよく似合う。 内容はともあれ14歳と言う設定がピッタシだ。 本当に“好奇心のかたまり”の象徴の年代として読者に訴えかけてくるのである。 どちらかと言えば学生・独身向けの作品だと思う。 独身向けと言うか、若い方が読まれたほうが感動度はより深いと言った方が適切かな。 若い方が読めば登場人物の4人(テツロー、ナオト、ダイ、ジュン)を自分の周りの身近な人間に置きかえれるだろう。 既婚者が読めば自分の過去を懐かしく思うだけでなく読み手によっては自分の子供の事を心配するかもしれないなとちょっと懸念した。 あと、時代変化にちょっと苦しむかもしれませんね。 でも、いろんなことを考慮しても石田さんのいいところが凝縮された作品であることは間違いない。 4人の仲間たちの悪銭苦闘振りの毎日が描かれてるが、誰もが体験した友情の素晴らしさを思い起こさせてくれる。 もっとも平凡なテツローを主人公に持ってきたのが本作の成功の一番の要因だと思う。 いわば読み手の視線によって物語を進行できるのは読者にとって本当にありがたい。 そこが石田作品の特徴である“読者との距離感の近さ”だと思う。 たとえ悲しい話でも4人が集まれば前向きな明るい話に変わって行く過程が素晴らしい。 人生ってやり直せないからいいのでしょうね。 でもやり直せたらと強い気持ちになった1冊です。 胸をしめつけられつつも、読後前向きな気持ちになるのは確かだと思う。 4人が体験したひとつひとつのエピソード、若いがゆえに貴重な財産となったことでしょう。 それが若さの特権と言うものだと思う。 一読者として、少しでも若かりし頃の純真無垢なひたむきな気持ちを思い起こすことが出来た喜びを噛みしめたいと思う。 ちょっと余談ですが、直木賞を取ったことに関する是非についてはこの場では語らないでおきたい。 この作品が素晴らしい作品であることには異論はありませんので・・・ 評価8点。 ...
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