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『最後の息子』(再読) 吉田修一 文春文庫 - 2003年12月27日(土)

吉田修一の作品は忘れていた何かを思い起こさせてくれる。
本当に不思議な魅力を持った作家だ。
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吉田さんのデビュー作となる本作はエンターテイメント的要素の強くなってきた近作と比較するととっても純文学的である。
史上初の芥川賞&山本周五郎賞のダブル受賞者としては進むべき道を模索してる状況なのだろうか?

本作は3編からなる中編集ですが、作品間に差がかなりあるように思えた。
表題作はゲイの話なんだがラストの閻魔ちゃんの手紙はせつないんだけどやはり題材的にはちょっと受け入れにくかったかな。
2編目の「破片」は吉田さんの出身地長崎を舞台とした帰省物語である。
私のイチオシはなんといっても「Water」だ。
この作品も舞台も長崎であろう。近作『東京湾景』や『日曜日たち』が東京を舞台とした話が中心となっているので、読者のみならず吉田さんも思い入れの強い作品じゃないだろうか?
書かれた時期なども考慮すると、吉田さんの原点的な作品だと言えるのでしょうね。
こんな青春をビビッドに描き出してる作品ってなかなかお目にかかれない。
他の吉田さんの作品では味わえない躍動感が伝わってくる。

どの作品もタッチが全然違ってそれが魅力的なのだが、逆にどの作品にも共通して言えることは、“どの主人公も真っ直ぐ一途に生きている”ということである。
きっと吉田さんの作品の基本コンセプトなんでしょうね。


近作に比べたら全体的には物足りない感は否めないが、読み終えて少しでもひたむきさを感じ取れたあなたはやはり吉田さんのファンに一歩近づいたと言えるんじゃないかなあと思ったりする。

評価7点。




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『眠れるラプンツェル』 山本文緒 幻冬舎文庫 - 2003年12月26日(金)

生きがいを失った28才の専業主婦が隣の13才の少年に恋をする物語。
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並の作家が書けばその設定の無理さから駄作になるのだろうが、山本文緒が描けば見事に料理される。

読者は自分の生活に置き換えて山本さんの作品を楽しむのだが、平凡なように見えても決して現実はそうじゃないんだということを教えてくれる。
気軽に読もうと思ってもふと、のめり込んで読んでしまってる自分に気が付く山本文緒の恋愛小説=“共感小説”と定義づけたく思う。

山本文緒の小説は決してその作品に甘く酔いしれることを許さない。
逆に、大勢の読者が感じている現実を突きつけてくれる。
それもストレートに・・・

本作では特に主婦の日常生活における付き合い方とか、あるいは誰もが持っている空虚感が巧く描かれている。

主人公が過去を回想するシーンを引用したい。
読んでてドキリとする描写にいつも出くわすのは山本作品を読む楽しみのひとつである。
『当時、確かに私は今よりずっときれいだったと思う。コマーシャルに出た時も結婚式の時の写真も、私ではないように輝いている。けれど二十代の前半という年齢で、目の前に好きな男性がいて、輝かない方がおかしいのだ。どんな人間にも旬というものがある。私はまさに、夫と知り合って結婚するまでの数年間が旬だった。そして今ではもう、萎びたセロリのようになってしまった。』



ただ、本作は他の山本文緒の作品より夢があるような気がする。
男性読者の推測ですが(笑)
他の作品は読者の持つ一部分を大きく描いているような気がするが、本作は主人公に誰もがなりえるような気がする。
女性読者が読めば結構“私に似てるなあ”と思ったりするんじゃないかな。
タイトル名からして、汐美とルフィオの将来の幸せが示唆されてるように受け取った方が多いような気がした。
そういう意味において読者にとってその心地よさが受け入れれれば、現実の恋愛や結婚生活において幸せを追い求めることが出来るのでしょうね。

評価8点。


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今年のベスト10総括! - 2003年12月25日(木)

今年のベスト10は何と言っても私にとって読書傾向が明確にされた年だと思う。
『図書館の神様』 瀬尾まいこ
デビュー作の『卵の緒』もベスト10にランクインしてもおかしくない作品。
文体にもプロットにもあざとさがなく、作者の誠実さが読者にも伝わってくる作家だと言えそうです。
微力ながら購入することによって専業作家にジャンプしてほしい気持ちも含めて1位抜擢しました。

『武家用心集』 乙川優三郎
現役最高の時代小説家の貫禄を示した作品集です。
人生の苦楽を語ればこの人の右に出る人はいないと信じて疑いません。
これからも地道に創作活動を続けて行ってほしいと思います。

『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫

ご存知、直木賞撤退宣言をした横山さんの今年出た4作のうちではダントツの作品。
ノンフィクションとフィクションを融合したような作品であるがその力強さは読者に明日への勇気を与えてくれる。

『あやめ横丁の人々』 宇江佐真理
宇江佐さんも今年はなんと5冊出版されました。どれもがはずれがなくって読者を楽しませてくれるあたりはさすがのひとこと。
その中でも本作が一番作者の魅力が凝縮された作品と言えそうです。

『手紙』 東野圭吾
名作、『白夜行』に勝るとも劣らずの社会派作品。サクサク読める文体と話作りの巧さがうまく融合された作品と言えそうです。
東野さんらしくない(?)、身につまされる話でした。

『送り火』 重松清
“新重松清元年”とも言えそうなほど変化がみられた今年の重松さんであった。初期の作品を愛する方には少なからずジレンマを感じたかもしれない。
全5作品のうち、一番従来の重松さんらしい作品がランクインしたことは少し皮肉な結果となりました。

『いま、会いにゆきます』 市川拓司
ネット界から彗星の如く登場した市川さんの作品です。とにかく文章が美しい。
恋愛小説の原点である“相手に対する思いやり”を強く標榜してる点は称賛したく思う。

『FINE DAYS』 本多孝好
寡作なのが残念な作家さんだ。この人の紡ぎ出す文章は独自の世界を形成していて端正だ。
読後感の心地よさはまさに“本多ワールド”と言えそうですね。

『繋がれた明日』 真保裕一
東野さんの『手紙』とよく似た題材の作品である。主人公の心の動きが素晴らしく表現されている。
題材的にとっても好きなジャンルと言えそうです。

『東京湾景』 吉田修一
書くごとに筆力がアップされてる印象が強い。読者と同じ視線で世の中を見据えている点は自然と共感を呼ぶ。
今後さらに飛躍が期待されそうですね。


今年読んだ本は約150冊、上記は新刊のベスト10ですがそれ以外に旧作ではやはり歴史・時代小説の素晴らしさが目につきました。
やはり“風化されにくい”のでしょうね。

とりわけ大御所的存在の“司馬遼太郎さん・藤沢周平さん・隆慶一郎さん”の3人の作品はそれ以外の作品と一線を画するような気がした。

なかなか時間がとれないが、今後年齢を重ねるごとに歴史・時代小説を読む比率が高くなるような気がする。

来年はどんな本にめぐり合えるのでしょうか。
これがあるから読書はやめられない・・・



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『愛妻日記』 重松清 講談社 - 2003年12月23日(火)

もはや“スピード違反”的な作品である。
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刊行ラッシュだった今年後半の重松さん、そのラストを飾った本作は、初の官能小説(R−18指定作品)である。
帯を読めば出版社の依頼で雑誌に掲載されてそのあとは自分の意志で書いたとある(直木三十六名義)。
女性が読むのは少し辛いかもしれない。

内容的には娯楽作品に徹している。
もちろん、本年度重松さん最大の話題作だった『疾走』を読んだ時のインパクトはない。
『疾走』の時に度肝を抜かれたような感覚を持った読者の大半が、本作ではそれを通り越してもはや開いた口が塞がらない状態だと思う。

少し残念な気がしたのは本作に収められてるどの短篇も出だしがいつもの“重松節”なのである点であろう。
話をなにも官能作品に転化させる必要があったのだろうか?
その点が惜しまれる。

重松さんの作品は読者の“従来の読書観”を変える。
単なる趣味・娯楽の世界から現代社会におけるエッセンスを教授してくれる場へと・・・
本作は内容に関してはインパクトは強かったが、あとに残る何かが足りない点は否めない。

重松さんは言うまでもなく“ものがたり作りの名人”だ。
図書館の充実と不況とが相まって、本当に新刊が売れない時代だと言うのも分かる。
正直、出版社の“苦肉の策”的な作品かもしれない。
ただ、本作のような作品を多くのファンが望んでるのかと言えばやはりそうじゃないような気がする。
少なくとも私自身がそうだ。

重松作品の大ファンとしてせめてペンネームを変えて刊行してほしかったという気持ちが強いのも事実だ。
といいつつも、重松全作品読破を目指されてる方には是非お読みいただきたい作品なことには異論はないんだけど(笑)

重松さんご自身は世の中を厳しくも暖かく見守っている。
ファンの一人として私も重松さんを暖かく見守りたい。
きっと本作での経験が今後他の作品で開花することを願ってやまない。

重松清の挑戦はまだまだ続く・・・

評価5点。


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『シルエット』 島本理生 講談社 - 2003年12月22日(月)

『リトル・バイ・リトル』で史上最年少の芥川賞の候補に上がって話題となった島本さんのデビュー作品集です。
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全3編のうち残りの2編は平凡な気がしたが、表題作「シルエット」はとっても純愛な作品である。
17〜18才ぐらいの時に書かれたみたいだが、文章の完成度は高い。
内容的には『リトル・バイ・リトル』ほど明るくないけど、作者の思い入れは本作の方が伝わってくるような気がする。

とにかくひたむきに恋愛に取り組む女の子の心の動きを丹念に描いている点は好感が持てる。

ただ、ちょっと恋愛を綺麗に捉えすぎてるような気もする。
それは私が作者の年齢と離れすぎてるからかもしれません(笑)
まあ、若い方だから本来はそのぐらいの方がいいのかもしれませんが・・・
そう言った意味においては、若い読者が読まれたら共感出来ること請け合いでしょう。
私小説っぽいところもきっといいのでしょうね。

彼女の作品の特徴は、男性陣(本作においては特に冠)がきっと島本さんの理想像とする男性を凝縮させた人物を登場させてる点であると思う。
今どき珍しいからこそより描きたい衝動に駆られるのでしょう。




誰にでも忘れられない人っていますよね?
多少なりとも思い出させてくれる作品だったってことは付け加えておきたく思う。

評価7点。


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『図書館の神様』 瀬尾まいこ マガジンハウス - 2003年12月21日(日)

まさに、“人生の分岐点となる1冊”なのかもしれません。
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デビュー作の『卵の緒』で独自の瑞々しいタッチでその才能を世間に知らしめた瀬尾さんの第2弾ですが、デビュー作以上にその持ち味を発揮してるような気がする。

過去のトラウマや不倫に悩みつつも地方の高校で講師として働く清(きよ)。
顧問となった文芸部において柿内君と知り合い、文学にも馴染む事によって彼女の人生観は変化していく・・・

瀬尾さんの描く主人公ってしっかり物のようで気弱な人物が主流となっている。
本作は浅見さんとの不倫に悩む姿は少しリアルな面もあって、前作(『卵の緒』)より深い踏み込みを感じた。
あいかわらず食べ物の描写のたとえなんかは絶品で、楽しく読めることは間違いのないところだと思う。
主人公の一年を通して成長して行く姿が私にはいいクリスマスプレゼントとなりました。

瀬尾さんのいいところは他の女性作家にありがちな“現実離れしすぎた描写”じゃなくって、“新鮮な発想によってもたらされる瑞々しい描写”だと思う。
誰もがちょっとした気持ちの持ちようで叶うようなことを読者に教えてくれる点は称賛に値する。
あと、文体が溌剌としていて非常に読みやすい点も歯切れが良く好印象だ。

そう、タイトルに図書館って書いてあるけど決して図書館で借りないでいつも本棚に飾って読み返して欲しい作品だ。
本好きな人のというか小説好きな人の考えを瀬尾さんが代弁してくれてるシーンを引用したく思う。

文学を通せば、何年も前に生きてた人と同じものを見れるんだ。見ず知らずの女の人に恋することだってできる。自分の中のものを切り出してくることだってできる。とにかくそこにいながらにして、たいていのことができてしまう。のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界に飛んでいく。僕は本を開いてそれをする。

今回は驚くべき感動の結末が用意されている。長編ならではのはからいだ。
最後のせつない手紙にジーンと来た人のすべてが、明日からの前向きな生活を迎えられることを願って書かれたと信じてやみません。



愛する女性がいる人は是非プレゼントしたい作品です。自信を持ってオススメします。

評価10点。超オススメ


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『少年計数機 池袋ウエストゲートパーク�供戞\佚聴疥鼻(現嬖幻� - 2003年12月20日(土)

本作は前作『池袋ウエストゲートパーク』同様、暗い題材ながらも爽やかな読後感が味わえる石田さんの代表シリーズ第2弾です。
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前作の時とは違ってストリート雑誌のコラムを書いている設定となっている。
少し成長したマコトが登場する。
前作より周りの信用度が増している感じかな。
彼の魅力はズバリ“人間臭さ”と“平和主義者”である点だと思う。

全4篇からなるが、今回はどの話も脇役が充実している点が目についた。
脇役と言っても、従来のマコトの脇を固める人物(タカシやサルなど)じゃなく、各篇に新たに登場する人物が本当にしっかりと描けている点が一番印象的だ。

とりわけ、表題作「少年計数機」の少年ヒロキと「銀十字」の老人コンビのキャラ設定は最高。
ラストの中篇「水のなかの目」は一番ハードボイルドなんだがちょっと話が辛かったというか考えさせたられたかな、石田さんらしくなく(笑)


石田衣良が描くと、本当に非行少年も爽やかだ。
その要因として体言止めの多用と場面の切り替わりのテンポ良さがあげられる。
ただ、個人的にはタカシ(Gボーイズ)やサルの活躍が予想外に少なかった点は少し残念だった。
そこはマコトの成長物語だと割り切って読むべきだろうか?
少し評価の分かれる点かもしれないですね。

でも無性に池袋へ行ってみたくなったのは私だけじゃないはずです。
池袋に行った事のない読者も、マコトの好キャラによって上手くイメージ化された点は称賛に値する。
まさに石田マジックなんでしょうね。


評価8点。


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『蛇(上・下)』 柴田よしき 徳間ノベルズ - 2003年12月19日(金)

感想は後日

評価8点。


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『いっぽん桜』 山本一力 新潮社 - 2003年12月18日(木)

『あかね空』で直木賞を受賞した作者ですが、短篇もなかなか読ませてくれます。
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ジャンル的には市井ものの人情小説となるのでしょうか。
山本さんの作品は仕事に疲れて帰って来て読む方には恰好の小説である。
そう、普段お風呂に入って疲れを癒すような読後感が味わえる。

本作は4篇からなる短編集であるが、すべて花の名前が題名につけられている点も見逃せない。
花が出てくるので派手な印象があるが、とんでもない。
それぞれの人生の願いを切実に花に託しているのである。

表題作の「いっぽん桜」がとにかく秀逸。
奉公人を斡旋する口入屋の頭取番頭を務める54歳の長兵衛はある日、主人から身を引くように言い渡される。
暮れには娘の祝言が決っているのだが・・・
現代に置き換えれば“リストラ”を扱っている。
ただ、現代と違う点は“全く予期しなかった”点である。
現代社会で日常茶飯事に起こってることだから読者も他人事ではない。
もちろん、娘への愛情を示した庭に植えているいっぽん桜がより物語に深みを持たせている点はいうまでもない。
まさに哀愁感漂う作品である。
残り3篇も佳作ぞろいである。

山本さんの作品を読むと、人生の苦難を乗り越えて行くには、当人のみならずまわり(主に家族)への心配りの重要性を再認識させてくれる。心憎いほどに・・・
もちろん歴史小説のようにヒーローは出てこない。
いわば、登場人物が読者の分身だ。
ゆえに読者との距離が近い点は身につまされる。
あと、現代に置き換えれば“人づき合いの難しさと言うか重要性”を再認識させていただけた。
作者に感謝したい気持ちでいっぱいだ。

きっと本作は山本さんの文章のように“力強く”読者にも生きてほしいと願って書かれた作品だと思う。
不況の時代にぴったりの小説だと心の底から叫びたい。

評価8点。


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『スポーツドクター』 松樹剛史 集英社 - 2003年12月17日(水)

『ジョッキー』で小説すばる新人賞受賞を受賞した松樹さんの受賞第1作の書き下ろし作品です。
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『ジョッキー』に負けず劣らずのリアルな作品である。
作者の執筆に際しての徹底した取材振りが覗える。
他の作家が題材として選びにくい領域の作品を書けるという点は評価したい。
松樹さんの小説の特徴は必ず“人間ドラマ”が盛り込まれている点である。
今回は少し小振りとなった感は否めないが、バスケットボール大好きな繊細な女子高生夏希を主人公とした、スポーツクリニックを舞台とした成長物語として捉えたく思う。

小説の手法としたら少し新感覚の作品といえるかもしれない。
連作短編集なんだけど、1編目でクリニックの患者だった主人公夏希が2編目以降クリニックでアルバイトを始め事件に出くわす。
子どもに野球を押し付ける親、ドーピング疑惑の女子水泳選手など・・・

圧巻は最後の“ドーピング”がテーマの編だろう。
一流を目指すがゆえに苦労する選手サイドとコーチサイドの軋轢が見事に描かれている。

なんといっても重いテーマながら、2編目から夏希を主人公としたことによって視点が優しくなっている点が評価できる。
若い作家さんだから(26才)、主人公も若い方の方が持ち味出てるのかもしれない。

人間ドラマ的には“スポーツドクター”靫矢と“スポーツライター”小林との過去のいきさつが物語全体を支配している。
ただ、もう少し掘り下げて書いてほしかった気もする。
逆に夏希と義陽との恋愛的要素も盛り込まれてるのだが、こちらは中途半端な印象が拭えなかった。

でも松樹さんの難しいテーマに対する挑戦意欲は行間から読み取ることが出来た気がする。

評価7点。


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『パイロットフィッシュ』 大崎善生 角川書店 - 2003年12月15日(月)

大崎さんのフィクションとしてのデビュー作である本作は、第23回吉川英治新人文学賞受賞作品でもある。
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最新作『ロックンロール』と比べるとピュア度においては本作の方が上だろう。

主人公山崎は41歳のエロ雑誌の編集者。
ある晩、19年前に別れた元恋人の由希子から電話がかかってくる・・・

物語は過去(由希子と付き合ってた時代)を回想するシーンと、現在主人公を取り巻く状況を回想するシーンが交互に描かれます。
そのコントラストと少しだけリンクして行く過程が見事に描かれている。
大半の読者は同感だと思うが、どうしても若かりし過去の主人公の方が生き生き描かれていると感じる。
でも、現在でさえ主人公は幸せものだと思える。
それは過去の出会いを大切にしてきたからに他ならない。

誰しも経験している、出会いの喜びと別れの哀しみ。
それは恋愛だけじゃなく、きっと人生において普遍的なものであろうから・・・


過去の恋愛経験の豊富さや年齢によって受け止め方が違ってくるかもしれないが、恋愛経験の少ない方でも人とのめぐりあいという視点で読まれたら共感出来る点は多いのかもしれません。

物語の根幹をなす冒頭の“人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない”というフレーズ、心に響きますよね。
題名にもなっている、パイロットフィッシュとは、海水魚を飼うにあたって、水槽に水と水草を入れ、生態系がうまく出来上がるまで最初に入れる魚のことである。

本作においては、主人公のみならず登場人物のすべてが相互的に“パイロットフィッシュの役割を演じている”

あと、単行本の透明感のある装丁と大崎さんの美しい文章がピッタリだということも付け加えておきたいですね。
少し余談ですが、若い方はわからないでしょうが、大崎さんの小説にポリスの音楽は似合わないような気がしました(笑)

評価8点。


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コラム 作家とその収入について - 2003年12月13日(土)

プロ野球選手の契約更改の季節である。
私たち読者は好きな本を好きなだけ読めばいいが、プロ野球選手は球団が認めなければユニフォームを脱がなければならない。
一部の有力選手は“お金を出してくれる球団をセレクト出来るかもしれないが”大半が“買い手市場”なのが現状だ。
先日、Jリーグ神○ヴィッセルの運営会社の破綻が報じられていた。
負債総額十数億。おそらくネット販売大手の楽○グループがあとを引き継ぐ模様みたいである。

まさに現実は厳しい。

プロ野球選手は常にプレッシャーと戦っている。
それは私たちが愛する作家と同じである。
まだプロ野球選手はいい。通常、入団する時に多額の契約金をもらってるからだ。
一般サラリーマンで言えば退職金を先にもらってる勘定になると考えていい。

作家の馳星周さんの日記を読んだ。
HPを開設するまでは、そんなこと(作家の収入)は全く興味なかったが今は違う。
残念ながら出版業界ってプロスポーツ界以上に“買い手市場”だと思う。

作家の取り巻かれてる環境を考察したく思うので読書をこのうえなく愛する一人の意見として是非お読みいただきたい。

ここで私たちが肝に銘じておかなくてはならないことは、本を読むことをただ単に“娯楽”としてとらえないで“文化”としてとらえることが肝要だと思う。
正直言って、作家の収入ってその才能からして少なすぎると思う。
今以上に本が売れなくなれば当然、作家の年収ももっと減り、作家という職業自体が、魅力的なものでなくなれば当然目指す人間も減ってくる。
当然、私たちもいい本を読む機会を逸してしまう。
いわば、“文化の衰退”ですよね。

ここ数年目につくのは、小さな本屋の閉店である。
いくつかの原因をあげたい。
読書人口の減少・大型書店の出店・中古書店やネット書店の発展・図書館の充実化など・・・
今日は少し図書館のあり方に苦言を呈したい。

はっきり言って現在の図書館は程度の差はあるものの“至れりつくせり状態”である。
図書館が便利になればなるほど作家サイドは頭を抱えているのが現状だ。
馳さんの日記を読んでも分かるとおり、人気作家ほど打撃を受けている。

便利なことは利用者として嬉しい限りであるが、業界全体のことを考慮に入れると限度を超えてるようにも見受けれる。

ツ○ヤがDVDの新作を仕入れるのに“ハリーポッター”とその他の作品の仕入数に差をつけるのは当然だが、図書館が本を仕入するのに宮部さんの本を多く入れる必要があるのだろうか。
ツ○ヤは営利目的で経営されてるが図書館って公共的なものじゃなかったのでしょうか?

DVDの市場と本の市場は180度違う。
DVDはレンタル店でその大半が売れることを前提として販売されてるが、本は全く逆である。
売れる本ほど図書館の仕入冊数が増えれば書店で売れる冊数が減ってくる。
売れてる作家さんであればあるほど“図書館で大量に仕入られたら困っている”のが現状である。
図書館側は“区別”であっても作家側は“差別”に他ならない。

公立の図書館の場合、本の購入は税金でまかなってるとはいえ、はたして市民の何割ぐらいが利用してるのだろうか?
私は月2〜3冊ぐらい図書館で借りて読んでいる。
恥ずかしながら通常その倍以上(6〜7冊)の本を借りている。
やはり無料であるのでそうなってるのだと思う。
ひどいのは延滞される方が想像以上に多いという実態である。

このコラムを読まれてる方はいないだろうが、図書館利用者の一部の人って“無料で借りれるから本をないがしろにしてないだろうか?”
そこで現実には難しいだろうが、改善案をこの場で提案したい。
まず、図書館の利用を有料化することである。
いくらでもいい。例えば1冊10円でもいいと思う。
あと延滞料金も取ったらいいと思う。
そうすれば利用者のマナー向上にもなる。
その分、減税してくれればいい。

次に複数仕入してる本の2冊目以降の印税率を引き上げてあげればいい。
やはりどこかで今以上に還元してあげなければ苦しいよね、作家さんも(笑)

以上長々と書きましたが、作家という職業を少しでももっと夢のあるものとして、私たちの次の世代の方へ文化を引き継いで行ってもらえたらと願って書かせていただきました。

単なる読書好きから読書をライフワークとしたいと思ってるからと理解してほしく思う。

次回は愛する作家と直木賞というテーマで書きたいと思います。

関連リンク 出版不況と図書館
関連リンク 出版不況と読書のあり方



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『くつしたをかくせ!』 乙一 光文社 - 2003年12月11日(木)

乙一さん作、羽住都さん絵のクリスマス向けストーリーなんだが、出版社の便乗商法が目立った感が否めない。
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内容的には奇抜とまでも言えず、平凡極まりない感じかな。
角川スニーカー文庫での名コンビなんだけど、内容が絵に負けている気がした。

あとがきの面白さに定評がある乙一さんだが、本書ではこの作品を引き受けた過程をシニカルに書いてるのだが、今回は本文よりあとがきが余計に目立ったところにやるせなさがある。
ファンにしたらあとがきでも楽しめるかも知れませんが(苦笑)

絵本なんで、子供向けなのでしょうが、子供にこの絵本を読み聞かせても果たして意味があるのだろうかと思ったりもした。

自分で買った本じゃないのでちょっと言いにくいのですが、乙一さんの熱烈なファン以外はやはり高いなあと思って当然なのかもしれません。

レビューは乙一さんに負けずに締めくくりたい(笑)
この作品はバイリンガルになってます。
普段、英語から遠ざかってる私にしたら、いい勉強になった。
乙一さん、いいクリスマスプレゼントありがとう!

評価4点


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『池袋ウエストゲートパーク』(再読) 石田衣良 文春文庫 - 2003年12月10日(水)

とってもテンポが良く躍動感のある小説だ。
東京の風俗をギュッと圧縮した構成で楽しませてくれる。
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日頃、風俗的な題材を書かせたら、石田さんか吉田修一さんが双璧だと思うのだが、物語の軽快な運びは石田さんの方に軍配があがる。
池袋にて家業の果物屋の手伝いをしている主人公マコトが一人称で語り、テンポよく展開して行く様は見事の一語に尽きる。
マコトはまるで若者の“代弁者”だ。
彼がナイスガイであるがゆえに、年齢が高い読者が読んでも青春の良さをしみじみと思い知らせてくれる。
例えサラリーマンが読んでもネクタイを外してリラックスして読める一冊なのには間違いないところ。


全4篇からなる連作短編集だが、ヤクザの孫娘を探す「エキサイタブルボーイ」が一番良かったかな。
最後のあたりは胸が締めつけられる。
サルが2巻目以降も活躍するみたいなので楽しみだ。
あと、印象的なのはラストの「サンシャイン通り内線」での加奈とのほろずっぱい恋愛が印象的だった。

少しミステリー的には弱い面も否めないが、暗いテーマでありながら(援助交際・殺人事件・不法就労など)、生き生きとした文章で見事にカバーリング、一読の価値があると信じてやまない。

個人的には直木賞を受賞した『4TEEN』のような瑞々しさはないが、伸び伸びとした筆で書かれた内容は石田さんの代表作と呼ぶにふさわしいような気がする。

マコトの“友情を大切にする気性”が物語をより厚みのあるものにしているに違いない。
読み終えた後、青春時代の友達を思い起こさせてくれただけでも本書を読んで良かったと素直に思うし、石田さんにも感謝をしたい。

若い方にとったらリアルに感じるに違いない。
バイブル的な作品と言えそうだ。

きっと若者の活字離れに歯止めをかけるのには恰好の一冊なんだと思う。

シリーズ最新刊(第4巻)が出たばかり、2巻目以降マコトがいかに成長して行くかが読書の楽しみを倍増させてくれそうですね。

評価8点


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コラム 出版不況と読書のあり方 - 2003年12月06日(土)

前回に引き続き“出版不況と読書のあり方”という題材を取り上げたいと思います。

野球を例として取り上げたら、例えば阪神タイガース、ファンのほとんどがテレビで見て甲子園に行かなくなった状況を考えてください。
横浜スタジアムや神宮球場で阪神ファンの方が多くても経済的収入には全く関係ありません。
パリーグの球団が1リーグ性を標榜してるのも巨人や阪神という人気球団と対戦して入場料収入を上げようとしている以外には考えられません。
あとFA宣言して移籍する選手。
それだけ、“背に腹は変えられない”ということなんでしょうね。
作家の方も同様でいくら評判よかろうが、大多数の方が図書館で借りられたらかなり逼迫して来ますよね。
そこで面白い例えというか自分への戒めでもありますが、“携帯電話代を1500円節約して本を月に1冊余分に買おう”というのも面白いかもね(笑)
きっとあなたの好きな作家さんも喜びはりますよ(笑)

上記の野球選手の華やかな一面、凄い厳しい実態が毎年自由契約になる選手です。
当たり前なんですが、新人選手が入ってくる人数分だけ自由契約(クビ)になる選手が発生します。
TBS系のドキュメンタリー番組『ZONE』で取り上げられていたのを見たのですが、本当に“生存競争”の激しい世界だと思います。

作家についてもよく似た傾向だと思います。
というのは消費者(読者ですね)の消費出来る分量っていうか冊数ってせいぜい年間100〜200冊ぐらいでしょう。
とりわけ、フィクション作品はランキングを見ても苦しくなってるのが実態だと思います。
読者人口というか、パイは決ってるという事ですよね。
その中でいかに新刊を売っていかなければならないかということです。
マイナーな作家にとって、大手出版社から本を刊行することは至難の技だと言えるでしょう。
読者にとっても“今まではAという作家の本は必ず出版される都度読んでたが、Cという新人作家が面白いので優先順位を変えよう”ということが多々あるような気がします。
よくベテラン作家が、時代小説を書き始めるのはやはり“若者の活字離れと若手作家の台頭”を懸念してだと思います。

出版社の苦しみが如実に現れてると思える現象が、最近、賛否両論あると思いますが、文庫化のサイクルがとっても早くなっている点だと思います。
特に映画化やドラマ化の際に顕著に現れてます。
それ以外にも特定の出版社が意図的に全体的に早くしてる点も見逃せません。
不況のあおりで、今までは文庫派だった方が図書館派に移項されてる場合が多くなってる点も原因のひとつにあげられるでしょうね。
あるいはブック○フを中心とした古本市場の充実も脅威的だと思います。
逆に考えれば、文庫化されても売れない作品は絶版になるサイクルも早くなって行くだろうと容易に想像出来ます。
あと、世間一般的にマイナーな文庫で出たものがメジャーな文庫で出るケースも非常に多くなってるような気がします。
小さな書店ではメジャーな文庫しか置いてませんものね。
これも弱肉強食的なものの一貫だと思っています。

そこで少し読書について考えたく思います。
趣味として考えた場合、いちばん手っ取り早くて身近な趣味だと思います。
通勤電車や待ち時間、風呂の中、あるいは寝る前・・・
どんな姿勢でも読めますよね(苦笑)

私はHPを趣味で行ってますが、いわば“読書”が第1の趣味で“HPの作成&公開”は2番目の趣味と言えるべきものなので2年あまり続けて来れたのだと思ってます。
“共通の趣味を持つ事によって全国の方と本音で語り合える”って本当に有意義な事だと思います。
実際、情報をすぐに入手出来るネットによって自分の読書ジャンルが大幅に変わりました。
年齢を重ねるにつれ、そのとき読んで楽しいミステリー調のものから、グッとくる感動話や身につまされる話、どちらかと言えば社会勉強となりえそうな話、あるいは歴史・時代小説の方に重点を置くようになりました。

最近、『クライマーズ・ハイ』に関しての否定的意見を掲示板に書きこみしていただきました。
読書の受け取り方は本当に十人十色でいいと思います。
“たかが小説、されど小説!”って感じかな。
例えば、事故が群馬県側か長野県側かで一喜一憂するシーンがあります。
これも事故に遭った方の身内が読んだら、激怒することかもしれません。

嬉しかったのは、内容に関する意見(是非)じゃなくって、男の生き方(というか仕事に対する姿勢)に対する意見だったことです。
この点に関しては読まれる方の性別や年齢あるいは職業によって様々な捉え方が出来ると思いますのでここでは論じないでおきますね(笑)

それだけ影響力のあるリアルな小説であったという証にもなってるかなあと思います。

個人的なひとつの結論として、少なくとも自分のこづかいの範囲内で買えて、家でじっくり『クライマーズ・ハイ』を堪能出来る幸せを噛み締めれる自分を幸せだと思いたいということです。

関連リンクコラム 出版不況と図書館

次回は作家とその収入について書きたいと思ってます。


...

『三都物語』 船戸与一 新潮社 - 2003年12月05日(金)

横浜・台中(台湾)・光州(韓国)の三都市を舞台としたプロ野球界の裏側を描く連作短編集です。
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登場人物もそれぞれ有機的に繋がっていて、興味深く読めます。
プロ野球に関して基本的な知識(ドラフト制度やFA制度、あるいはポスティング制度など)がなければ理解し辛いかもしれませんが、船戸さんの豊かな人生経験と確かな洞察力に基づいたハードボイルドな文体は息をもつかせぬ展開となって読者を魅了します。

全5編中、3編目のベテランスカウトマンを描いた「落ちた柿の実」がもっともリアルで味わい深かったかな。

球団名や選手名は実名じゃないが、実在する選手に当てはめて読めるという点に、作者の確かな筆捌きを感じました。

華やかな世界の舞台裏を垣間見させてくれますが、あまり知りすぎてもゾッとしちゃうものですよね。
少し不満点は、やはりここまで政治や暗黒社会とスポーツを絡ませて欲しくなかったような気もしますが・・・

ただ、男の生き様として考えたら共感出来る点は多かったと作品だと言えそうです。
異国で働くことの凄まじさを深く学びとれました。
三つの国の民族性と言うか国民性も露わに描写されてる点も嬉しい限りであった。

でも現実は厳しくてほろずっぱいのかもしれないけど、夢とロマンを持ち続けることの大切さを教えてくれた1冊だと思っております。

評価8点。


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『ロックンロール』 大崎善生 マガジンハウス - 2003年12月02日(火)

やはり、大崎善生には大人の恋がよく似合う・・・
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内容的には半分私小説に近いのかもしれません。
熱帯魚専門雑誌の編集長を辞めて、作家に転身した主人公がなかなか書けない2作目をパリで書くことに・・・

過去に対して追憶の念が絶えないのが彼の小説の特徴であるが、本作も登場人物3人ともとってももどかしい点が共通している。
いわば、3人のもどかしさと言うか、童心のような心を作中の『ロックンロール』という小説の主人公に委ねているのでしょう。

パリで繰り広げられる恋模様に関しては少し期待はずれの感は否めないが、人と一緒にいることの喜びを強く思い起こさせてくれる点は一読の価値がある作品だといえよう。
ただ、若い方でタイトル名ともなったレッド・ツェッペリンや作中で出てくるジェフ・ベックの音楽に関して、ある程度の予備知識があるかどうかによって大崎さんの世界に入り込めるかどうかはかなり違ってくるような気がした。

あと、他の作品より少しユーモラスな描写も増えたような気もします。例えば、恋愛相手の名前をしりとりに例えたり、あるいは恋人を“ジャパネットた○た”にたとえたり・・・

読後に“小さな石がポケットの中に入り込んだ気分になれた”だけでも幸せを噛みしめれたことではないだろうか。

『なぜ人はこんなにも苦しみ、悶えるような思いで、石ころとなり坂を転がり続けなくてはならないのだろう。転がっていった先にはいったい何が待っているというのだろう。僕にはわからない。』(本文より)

ロマンティックな恋愛小説を期待された方は少し肩透かしをくらうかもしれません。
ただ、大崎さんの作風の幅が広がったのは間違いないと思われます。
きっと、読者にとってポパイのほうれん草のように“小さな石”がなってくれればという願いを込めて書かれたのでしょう。

評価7点。


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