ジョージ北峰の日記
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2006年12月31日(日) 続オーロラの伝説

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 モンスターザメの出現で、海中戦で不利な戦いを強いられたラムダ国は、敵の波状攻撃でかなり逼迫(ひっぱく)した状況に陥っていた。海中戦で多くの戦士を失っていたが、それにもましてパトラの片腕と目されるアレクがモンスターザメとの戦いで、かなり深い傷を負ったことが、この国の戦力、いや”勢い”に著しい影響を与えることになったからだ。
 その上作戦会議で大問題になったのは「敵戦士がラムダ国のドーターランド(Dランド)に上陸し始めた」という報告だった。Dランドには子供たちを育てる最も重要な組織・機関が設置されていたが守りは手薄であった。
 この島が占領されることはラムダ国にとって致命的で、国の敗戦を意味していた。
 私たちの国では、通常大人と子供が一緒に同じ場所・空間で生活しているので、たとえ国の一部が攻撃され、ある地域が全滅するようなことになったとしても、直ちに国全体の壊滅を意味することにはならなかった。しかしラムダ国では、子供達はDランドで一緒に纏まって(まとまって)育てられていたので、この島が占領されると、ラムダ国の未来は失われ、国滅亡の危機に瀕することを意味していた。
 参謀長は「Dランドで敵を迎え撃とう」と深刻な表情を見せた。
 すると参謀の一人が「Dランドは山が多く、作戦が立てやすい。海中戦では確かに、我々は遅れを取っている。しかしDランドでは狼を使って戦う新しい部隊を訓練中である。彼らの助けを借りれば戦況は好転するかもしれない」と発言した。
 パトラは「訓練中の部隊が出撃するのは、私は反対です。私が行きましょう」と断固とした表情で、しかし威厳を含んだ口調で会話に突然割って入った。
 何人かの将軍が反対の意見を述べたが、パトラは決心を変えることはなかった。

 Dランドへの輸送には水中戦闘機が使われていた。戦闘機といっても、陸上で言えば飛行機のような形で陸上戦士を一度に多数輸送するときに使われているようだった。外からの攻撃に対し反撃できる水中銃などの武器も設置されていた。形は大型のエイに似ていて、操縦室はエイの目に当たる部分にあり、主操縦席、副操縦席が設けられていた。情報収集・解析室は司令塔と共に頭の中央部に設けられていた。本土からの司令や周囲からの情報を収集、作戦を立てる、そして海中戦士や他の戦闘機と連絡を取り合えるようになっていた。私は、この水中戦闘機のことを勝手にエイ戦闘機と呼ぶことにしていた。

 上陸作戦は夜に実行することになった。と言うのも昼間はモンスターザメの攻撃が激烈で水中戦闘機と雖も(いえども)、必ずしも安全とは言えなかった。それに、我方の防衛部隊、サメ部隊はほとんど壊滅状態でシャチ部隊は健全であったがその数は少なく、昼間の輸送は味方に甚大な被害を与えることになると考えたからだった。
 私は、陸上戦士として戦闘に参加することになった。
 地下の出撃基地からは陸上戦士達が、順序良く粛々と潜水艦に乗り込んでいた。私はベンと一緒の潜水艦に乗り込むことになった。潜水艇(以前見たことがあったが、それ自身が外界に出撃するための乗り物ではなく、地下都市に設置されたエレベーターのように人を運搬する設備に過ぎなかった)は円周上を滑るように静かにトンネル内を旋回しているだけだった。途中トンネル内に2箇所の出撃口があり、一方は海中戦士のための出撃口(E-�機砲任△蝓�他方は陸上戦士が水中戦闘機に乗り込むための出撃口(E-�供砲任△辰拭�
 E-�兇砲牢�に水中戦闘機が待機していた。潜水艦と水中戦闘機は、トンネル上の連絡路でつながり、戦士はこの通路から戦闘機に乗り込んだ。
 戦闘機内には水中銃を発射するための座席が、左右に、それぞれ2箇所設置されていた。各座席の前にはゲーム機のようなモニターが設置されており、敵の攻撃に反撃できるようになっていた。4箇所のモニターは360度、どの角度から攻撃を受けても対応できるように設置されていた。監視塔はエイの頭の部分と尾の部分にあり周囲を360度監視できるようになっていた。一機の水中戦闘機で30人余りの陸上戦士を輸送することが出来た。
ベンは私を司令室に案内してくれた。外界は想像以上に不気味に真っ黒だった。私には何も見ることが出来なかった。しかし、ベンが貸してくれた特殊メガネで海中の様子がすっきり遠くまで観察可能になった。
 周囲に魚の泳ぐ姿は見られなかったが、もう既に出撃・待機しているエイ戦闘機数機が上方を緩やかに旋回しているのが見えた。
 そして私たちのエイ戦闘機が出撃口から離れ、旋回している戦闘機群に加わると、他の戦闘機達は、空中で戦闘機がするようにベンの戦闘機を先頭に15機が1機、2機、4機、8機と三角形の形に配列した。ベンの指令で青い光が翼の先端部分から発せられるとそれに呼応するように列機も一斉に青い光を発する。ベンはそれを確認すると直ちに出撃命令を発した。
 司令室から眺めていると、我が軍はベンの部隊を先頭に左右に三角形状、上下に段々畑のように段差をつけ緩やかに進んでいる。その進軍の姿は勇壮・壮観で、この部隊がDランドに上陸すれば、オメガ国との戦いは、互角の勝負に持ち込めるのではないか、いや我が軍の勝利さえ可能ではないかと思えるほど頼もしく見えた。しかし不安がないわけでは決してなかった。
この夜の出撃はあくまでモンスターザメの攻撃を避けるのが目的だった。エイ戦闘機は大型で防御体制も整備されていたが、あくまで陸上戦士運搬が目的で機敏な動作が出来ない欠点があった。
 静かな航行が続いていたが、ベンは安全を確認すると、浮上するように命令をだした。やがて司令室は海面から顔を出した。運行速度を上げるためには浅いほうが有利なためだ。
 満天下の空に星が降るように見えた。新月の夜だった。波の動きも穏やかで、まるで砂漠を進軍しているような錯覚に私は陥った。
 私は本来科学者として北極の博物学を遺伝子工学的な手法を使って研究するのが夢でこの世界に入ってきたはずだった。ところが、いつの間にかとんでもない世界に引きずり込まれようとしていた。
 「なぜ?」
 「パトラやベン、それにアレクに出会って、私の人生観が狂い始めたのか?」
 「この国には、高度の技術を備えた技術者、十分な実験施設、科学者として、生活するに足る魅力が十分にあったから?」
 「彼らは、私の能力を高く評価し、暖かく、大切に待遇してくれているではないか?」
 「科学者冥利に尽きる、と考えたはずではなかったのか?」
 「それがどう言う訳で、戦士として命がけで、この国のために戦おうとしているのか?」
 「それは美しい女王パトラ、そして子供のような女性戦士が勇敢に戦う姿に私の男としての闘争本能が触発されたためか?」
 「いやそれもあるだろうが、しかしそれだけ?」
 「本当はこの国が進めている遺伝子工学を利用した人づくり、社会づくり、国づくりに科学者として興味が沸いたからではなかったのか?」
 「だとしたら、もう少し冷静に観察者であるべきではなかったのか?」等と、直ちに答えが出そうもない質問を何度も何度も心の中で呟いていた。
 「私は戦争が怖いのか?」「いやそうじゃない!」
 そして最後に「科学者は実験する、考えることだけが能ではない。実践者であることも必要なんだ!」と、自分の行動を正当化・鼓舞することで気持ちを抑えようとしていた。
 その時だった。ベンが突然私の肩をたたいた。「前方から、何か大群が押し寄せて来ているらしい、敵かもしれない」と囁いた。
 と、間髪をいれず、パトラから「前方に敵あり、戦闘準備!」との連絡が入った。
 「この時刻に、一体誰が攻めてくるんだ!」と叫ぶと、ベンは直ちにシートベルトを装着するよう、そして急速潜航するよう命令を出した。


 
 


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