短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
学校から帰ってきて カバンだけ置いて出かけようとしたら ママンがいった。 どこに遊びにいくの? カナのとこ。 ああ、カナちゃんはだめよ。 なんで? だって、カナちゃんは、在日だもの。 なに? ザイニチって。 こどもはそんなこと知らなくていいの。 でも、とにかくカナちゃんはだめなのよ、ごめんね。 もう約束したのに。じゃ、麻美のとこにいってくる。 麻美ちゃん? ああ、麻美ちゃんもだめよ。 なんで? だって麻美ちゃんは、私生児だもの。 シセイジって? 大人になったらわかるわよ。 もうかんべんしてよね。 あ、そうだ。じゃ、恵のとこいってくる。 え? だめだめ。恵ちゃんもだめなのよ。 なんでなの? だって部落出身だもの。 ブラク? じゃ、誰と遊べばいいのよ。 私たちとおんなじ火星人に決まってるでしょ!
ニドトコイハシナイ あの誓いを今破るよ …やっぱり君しか見えない なんて矛盾してるの、と きみはいうんだろうね わかってる でもね これは矛盾じゃないのさ 逆説なんだ 恋の逆説 だってそうだろ きみのそのつぶらな眸 まるで北国の湖水みたいじゃないか もう少しどうにかなんないのかね 美の出し惜しみをしなよ 逢いたい 逢いたい 今すぐにでも って おれらいっつもいっつも そんなことばっかりメールしてたよね キミがいなくなってしまうのがわかってたのかな ずっとずっと いっしょって約束したのにね ね、もういっぺん鏡みてみなよ 考えを新たにする筈だから 戦慄もんだぜ 卒倒もんだぜ キミの眸には 太陽も嫉妬する お月様も眩暈する いまさ、いっしょにいった スキーの写真を見てるんだ そっちも 雪は降るのかな? 愛するひとよ キミがすべてだったんだ ときが経てば経つほど キミが大きくなってゆくなんて信じられる? おれだけ残してどこに消えたんだよ ね 天国ってどこにあるのさ どうして、キミの笑顔が見られないんだよ あの最高の笑顔をもう一度見せてくれよ もうあの笑顔はみれないの どこにいけばキミに逢えるの ねえ おれに手を差し伸べてくれよ そっちに 連れてってくれよ もう二度と逢えないなんて あまりにもひどすぎるよ 助けてくれよ 胸が張り裂けそうなんだ
彼女から赤ちゃんが出来たと聞かされたとき、マジ、ヤッベーと思って一瞬目 の前が真っ白になった。 彼女には失礼だけど、ホントに相手はボクなのかなって少し思った。 パパの言ってた通りのことになっちゃった。パパは怒るだろうなぁ。 ボクはたぶん病気なんだ。街角で可愛い子を見つけると自分でもわけわかんないうちに、またがっちゃってんだもん。 前にテレビで見たっけ。こういうのはホンノウっていうらしい。ホンノウってなんだろう? 病気の名前かな? ママもがっかりするだろうな、てか、逆ギレするかも。 「うちのジュンちゃんに限ってそんなハシタナイまね絶対するはずがありません! お宅の不良娘に誘惑されたにきまってます。まったく泥棒猫みたいなマネして!」 ママごめんね。ママはボクが可哀相だからって、シュジュツというのをしないようにしてくれたんだよね。でも、今度ばかりはパパの言ってたことが正しかったんだね。 「男の子って、そういうもんなんだよ。もうやりたくて仕方がない時期があるんだ。パパ自身そうだったんだから。可哀相だけど、ここは心を鬼にして…」 パパのいう通りにしとけばよかった。 ボクこれからどうしたらいいんだろう。 彼女は、たしかシュゾクがちがうっていってたけど、アメリカンショートヘアの彼女とチワワのボクのあいだには、どんな赤ちゃんが産まれるのかな? ボク、赤ちゃんにふさわしい、りっぱなパパになれるかな? I appreciate Only you can rock me
風邪をひいてしまい、40度近くの熱でベッドでウンウン唸っていました。 発熱したマグロみたいな感じがしてました。 ぼくは、平熱がフツーの人よりもだいぶ低いので、40度なんていったら、ほんとうに命にかかわわるくらい危ないのです。 変な夢というか、幻の世界をずっと彷徨ってましたっけ。 面白いのは、彼女とぼくが入れ替わっていたときです。 入れ替わっていたというと、語弊があるかもしれません。彼女という個体のなかにぼくがそのまま入っていましたから。 つまり、ぼくという男性性を有しながら、女性性を愉しむことができたのです。 てゆうか、わけわからないのですが、具体的にいうと、ぼくは彼女になっていて ベッドでぼくに責められていました。 彼は、一生懸命がんばっていましたね。それが、妙におかしかった。 でも、そんなことよりも、なんておんなのこって、気持ちいいんだろうってことでした。 おとこは、ほとんど一瞬で終りなのに…。 おんなのこってぜったいイイって、思っちゃいました。
月曜日だというのにびっくりするくらい伝票が少なくて定時に仕事が退けてしまった。 まっすぐ帰宅するやまたびっくり! 妻が犬になっていた。 「おい、風呂!」 「ワンワン」 「おい、めし!」 「ワンワン」 「おい、寝るぞ!」 「ワンワン」 「おい、頼むからそのワンワン・スタイルはやめてくれないか」 「ク〜ン」 Special thanks forセクサロイドは眠らない
その日、マロン林(ばやし)くんは相当荒れているようでした。 3時の休憩時間にぼくがいつものように駐車場のベンチに座っていると マロン林くんが声を荒げているのが聞こえてきました。 「なんで烏賊の塩辛でイイチコ呑んじゃいけないんだよ」 「だからね、そういう飲み方が一番身体を壊すんだって。腎臓やられちゃうよ」 マロン林くんの相手をしているのは、マロン林くんと同期入社の『アルブスの少女』という異名を持つ係長です。 むろん、少女といっても女性ではなく、単なる小太りの禿オヤジにすぎませんが、仕種がちょっとカマっぽいのでした。 ふたりの会話はつづきます。 「ところでさ、プライド見てる?」 「みてるさ、もちろん」 「実はさ、おれアレに出てんだよね」 「マジすか? でもどうせトラでしょ? エキストラ」 「ちがうよ、立派な役付きだぜ」 「マ、マジすか?」 アルブスの少女は、目をシロクロさせて更に聞きます。 「役名は?」 「ハルだけど、なにか?」 「……」
泣きじゃくる おまえの 横っ面を張り倒した なんでまだ わからないのかな おまえのことなんか もう これっぽちも 好きなんかじゃないんだよ さっさと どこかに消えちまえ そして二度と おれのこと 思い出さないように 愛し合っちゃいけないんだよ 兄弟は (えっと…。モーホ?)
「なぁ。乖離ってなんや?」 アキラは奈美のほうを見ずにいう。 返事はない。 しびれをきらしてアキラはもう一度思念を飛ばしてみる。 「おい、こらっ聞いとんのか」 「そんなん知るか、こっちはそれどころじゃないんや。ちょうど佳境に入ったところなんやから…」 集中しているから、心のなかで喋るのももどかしい。 「おい、会話してるときには本読むなゆうたやろ」 「うっさい、ボケ。そういう自分はなんなんや。ゲームボーイすぐはじめるやんか。すっこんどれタコ!」 こうして憎まれ口をききながらも、ふたりはブエノスアイレスと東京という途方もなく離れた遠距離恋愛をつづけるのだった。 ホンマカイナ…。(^^;
空がみえる 工場の煙突がみえる 港がみえる おんながひとり 道端にくずおれて 泣いている ふるえるその肩に かける言葉などなにもない 知らんぷりして 通りすぎる
彼女は、ギグルカフェがお気にいりらしい。 東横線中目黒駅で降りて山手通りから駒沢通りに折れ、恵比寿方面へと左側を上っていって、目黒川を越えて少し行ったところにギグルカフェはあった。 1階は、Milk Crownという美容室。 ぼくら、バンドをやってる連中にとって、ギグるとは、即ち演奏することを指す。 ここでの『giggle』とは少女のくすくす笑いを意味する単語らしい。 入ってすぐにオープンキッチンがあって、手前にデコラテーブル、窓側にソファ、 奥にも長い黒のソファを配したクールな作りで、とにかく大きな窓が印象的だった。 くつろいだアットホームな雰囲気に、オーガニックカフェからの難民ではなくて、すでにギグルカフェ・マニアが多数存在するように感じた。 僕はドキドキしながら、いちばん奥のソファに座る。 ほんとうは、あんまり人には見られたくないので、入り口近くにちょこんと座っていたかったのだけれど、奥のソファしか空いてなかったのだ。 ただでも初めてのところは苦手なのに、あの彼女がよく来ているお店だと思うだけで赤面してしまうほどなのだった。 自分でもどうかしてると思う。 実のところ、ぼくは彼女のことをぜんぜん知らない。 web日記をみたことがあるくらいだ。 お店の可愛いらしいお姉さんに、エスプレッソを頼んだ。 考えてみると、ぼくのやっていることはストーキングではないだろうか。 いや、ちがう。 …と、思いたい。 たぶん、ほんとうに彼女と出逢えたとしても、ぼくは一言も話せはしないだろう。 彼女がどんなコなのか想像しているくらいなのが、イケメンでないぼくには、相応しい。 ぼくは、紫煙を燻らせながら、再び僕だけの彼女に思いを馳せる。
☆おかしなもんで俊には電話でカザルスなんてぜんぜんダサい、ロストロポービッチ聴いたら浮薄に聞こえて仕方ないよって言ったにもかかわらず、アイツはまるっきり反対にカザルスがサイコーだと俺が言ったと言い張ったのだった。 口論になりかけ…いや既に立派な口論となっていたにちがいないが…そこらへんから一気に仲違いしはじめたのだと思う。あたかもそれを契機として関係がよじれていったかのようにも思えるが、むろんそうではなく仲違いの萌芽はずっと以前であったにちがいなく一生つきあってゆく数少ない友だと確信していたにもかかわらず、いともたやすく崩れさってしまった人間関係ってどんなものなのだろう。 ともかく、ぐしゃぐしゃにこんがらがってしまった関係をもとに戻すのは容易ではないどころか、ほぼ不可能に近いことのように思えた。 そんなある日、当の本人である俊から家に電話がかかってきた。青天の霹靂とはこのことである。 それはおかしな電話だった。 「やぁ、元気?本当に久しぶりだね」 「で、きょうはどうしたの?」 「いや、ほら、れいのさ貸してあった阿部薫の本そろそろ返してほしいんだけど」 「え?」 「なにそれ! そんなの借りてないじゃん」 「またまたご冗談を」 「いや、その本てさ俺が俊に、阿部薫のこういった本があるよって教えたやつじゃん。埴谷雄高の『死霊』みたいな黒い装丁のやつだろ? あれ、貸してって言われたけど図書館の本だったから又貸ししたくなくって断ったやつだよね? 覚えてないの?」 「あははは。やっぱりなぁ、そういうと思いましたよ。それでですね、じゃ後はメモを本にはさんどきましたから、その指示に従ってください」 おかしなことを言う。メモを本に挟んでおいたって? それは土台無理な話しだ。借りてもいない本に挟んであるというメモ書きをみつけるなんて。 翌日。土曜だけれど仕事が入り、秋葉原まで人に会いにいかなくてはならなくなった。 渋谷で山の手線に乗換え、車窓に流れる灰色の街を眺めながら、新年が明けたばかりだというのにもう仕事かよ!と自分に突っ込みをいれてみる。 田町で興味をひく人物が乗ってきた。オージー・オズボーンというミュージシャンを御存じだろうか。 彼女はそのオズボーンにかなり似ていた。 電車に乗り込んできた彼女は、ぼくが座っている向かいのシートのひとつ空いたところに座った。 メタル系ミュージシャンに多い全身黒づくめではなかったけれど、黒のベッチンのジャケットに大きな折り返しのついたバックスキンぽい黒のブーツ、パンツだけは青みの抜けた白ちゃけたジーパンを穿いていた。 黒のジャケットの下にはレースで縁取られたシックな黒のブラウスを着ていて、ちょっぴりはだけた胸元からサファイヤみたいな光を放つ小さな石を付けたネックレスがのぞいていた。 腿の上にのせたちょっと『?』なバッグの上で優雅に組み合わされた白磁のような指の爪にはネイルアートが施されていなかった。 そこにはオージー好みの髑髏といった禍々しさも、亜熱帯の毒々しい色の食虫植物のようなケバケバしさもなかった。 彼女のネイルは、限り無く透明に近いピンクをひとはけサッと刷いただけの極々シンプルなものだった。 そういえば彼女はイヤリングやピアスの類いも一切付けていない。 いや、もしかしたら見えないところ、たとえば…乳首ピアスをしてるんじゃないか、と思った途端 それをきっかけにして、おもむろに空想がはじまってしまった。 ぼくは、シートに座っている彼女の太腿の上に跨っている。 で、もちろん上から胸元を覗き込みはじめる。 ビーチクにピアスがしてあるか否かを確認するのだ。 で、あっという間にするりと胸元から手を滑り込ませた。 見るのではなく、触れて確認するらしい。 彼女は一切拒まない。 凛として涼しげなその眼差しが閉ざされることもない。 驚愕や憤怒によって鳶色の瞳が見開かれることもなく、また蔑みの色を滲ませるのでもない。 彼女は、何もかも受け入れる途方もない大きさを感じさせるのだった。そうなのだ、彼女はすべてを受け入れるに違いなかった。それがはっきりとわかるや、ぼくは逃げ出したくなった。 何をやっても『OK!』なんて怖すぎる。これじゃあ何も出来ないのと一緒だ。それに…。 これは、トラップじゃないのか。 最後までいったら罠が鎌首をもたげて待ち構えているのにちがいない。そんな風に考えたらぼくの手は、彼女の豊かな乳房にまさに触れようとしたその寸前でぴたりと止まってしまった。 空想の世界の出来事であるのに、聖人君子のようなこの倫理感はなんなのだろう。 いや、そんな高尚なもんじゃない。実は単に臆病なだけだろう。 ウッセー! そんなんじゃない! ほほう。 じゃ、咥えさせろよ! 思い切りブチ込んでやれ。 うるせー! 黙れ! 聞こえてくる声はほかならぬ自分にちがいないのだろうけれど、それは、無視することで容易に回避することが出来るだろうが、問題はオージーにくりそつな彼女なのだった。 元凶ともいえる彼女を意識の外に追いやろうとすればするほどに、彼女は髪を振り乱し纏わりついてくるのだった。 御徒町はまだなのかなと考える余裕がまだこのときにはあった。 と、赤ん坊のようにギャ−ギャ−泣き喚きはじめる彼女。あの凛として涼しげな眼差しはどうしたんだろう。仕方ないのでまた腿の上に跨った。 すると、背景であった車内はすーっと後方に一気に退いてしまい、気づくとぼくは冬枯れの木立もまばらな見晴らしのいい大きな公園のようなところに独りぽつねんと佇んでいるのだった。 地形に合わせなだらかな曲線を描いて上り下りをたおやかに繰り返す枯れた芝生を踏みしめ、丘陵のように一等うずたかくなっている小さな頂きをめざして、ぼくは歩いた。 てっぺんまで上がってみると、向こう側にも小高く盛り上がっている箱庭のようなミニチュアの山があって、彼女はそこにいた。 地形が綾なす自然の美しいカーブと競うような、優雅な曲線美を有する一糸纏わぬ姿の彼女が、捨てられた子猫みたいに丸くなって横たわっている。 ぼくは、その異様ともいえる光景を見下ろしながら、なんかこれによく似たシチュエーションを想い出していた。 あのときは、わけのわからないオバハンだった。それに透け透けのピンクのネグリジェだった。獣のように快楽を貪るオバハンが怖かった。 お陰でそれ以降、オバハンの胸元がはだけていたり、髪を直しながらシナを作るオバハンを見ると蕁麻疹というアレルギー反応を示す体質となってしまった。 だが、今回はまったくちがう。オージーに似てはいるけれども、うら若き女性なのだ。グルーピーなんて言葉もあるけれども、案外メタル命のコの方が真面目だったりする。 こんなときに、自分でもなにを考えているのかよくわからなかったけれど、もしかしたならヴァージンじゃないかと期待している自分をそこに発見して愕然とする。 そして、この文章を書いている作者に猛烈に腹が立った。そいつはぼくにどうしても彼女とHさせるつもりなのが手にとるようにわかったからだ。本当にいけすかない野郎だ。 小心者の作者は自分ではやりたくとも出来ないことを、ぼくにやらせて独りほくそ笑んでいるにちがいない。 そうやってヤツはいつも自分の欲望を満たし、カタルシスを覚えてきたのだ。ぼくは、そんなヤツの為にオバハンとおぞましいセックスまでやらさせられ、発疹まで出るようになってしまった。 そのクソ馬鹿野郎に一泡ふかせてやりたいもんだが、まだその方法がみつからない。 と、そこでオージー似の彼女が全然ぴくりともしないことに気がついた。丸裸でこの寒空に眠れるものなのだろうか。背景の設定は間違いなく真冬なのだから、永遠の眠りについてでもいないと、いや、ただ気絶しているということなのか。 ぼくは、駆け出した。くだらないことをうだうだ言っている場合ではないのだ。事は一刻を争うかもしれない。 彼女はホコラがちょうど入るような、自然な窪みにすっぽりと繭にくるまれるようにして植物のように、ひっそりと横たわっていた。 ぼくは、かがんでそっとオージー嬢の様子を窺ってみる。 身体が微かに上下しているのがわかる。やはり眠っているのだ。 そして驚いたことに彼女は、丸裸にはちがいないのだけれど、全身が薄い被膜に覆われているのだった。 だから寒さにも凍えることなく安らかに眠っていられるのだろう。 とりあえずぼくは一安心した。でも、ただ彼女を眺めているのにもだんだん飽きてきた。 で、ぼくはいよいよ次の段階に進むべきときが来たのだと悟る。 それはつまり、どういうことかというと、どうやったら彼女を起こすことが出来るか、ということだ。 実は、うすうすそのことには気づいているのだが、作者の意のままにすらすらと事が運んでしまうのがムカツクのだった。 それでもぼくは、大人だからこういう場面で切れまくったりなどしない。 Let it be ! 『眠れる森の美女』や『白雪姫』のように、彼女の唇にKissした。 彼女は目覚め、かわいく伸びをした。 ぼくは、彼女の全身を覆っている薄いベールのようなものをゆっくりと剥いでゆく。 そして、ふたりで生まれたときのままの姿になって愛しあった。 彼女と交わったその瞬間に脳天から爪先まで電撃に貫かれた。 と同時に、確かに俊に阿部薫の本を借りていたことを思い出した。 なんでまたこんなときに、そんなことを思い出したのか、わけがわからぬまま、ぼくはめくるめく快感に身を委ねた。 けれど、まるで生身の人間でなく、虚無を抱いているようだった。 彼女が、何もかも受け入れる途方もない大きさを感じさせたのは、これだったのだ。 たぶん、世界のもの一切がなにも映じていないであろうその美しい眸は、たとえようもないほどの虚無を湛えていた。 やがてぼくらはぼりつめ、一緒に空高く舞い上がった…。
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