短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
![]() 宇宙の彼方で一番星が瞬きはじめ 眠たげな公園のざらついた花崗岩の壁に 陽光の残滓が深紫の光となって密やかに舞い降りてきたとき 不意に背後から自分の名を呼ばれたような気がして振り返った むろん そこには誰もいやしない きみの声で名を呼ばれたはずなのに 気づけばきみの声など知るわけもない きみの名前さえしらないのに どこにもきみはいない 真っ暗闇のなかでぼくはただ 寒さに打ち震える
![]() ヒトを殺してしまった夢をみた。 相手は、男か女かもわからない。 ものすごい後悔の念というか、どうしたらいいんだろうという思いで押し潰されそうだった。 途方に暮れるとは、こういうことをいうんだろうと思った。 でも、それは、 ヒトを殺めてしまったという自責の念ではまったくなく 同時にまた尊い命を奪ってしまったということを悔やんでいるのでもなかった。 ただ殺人を犯してしまった殺人犯である自分に対して、パニックっていたのだ。 だから反省などぜんぜんしていなかった。 ただただマズイことになったと思うばかりで、亡くなってしまったヒトのことなんてどうでもよかった。 そんな夢だった。 明け方近くに起きてしまったぼくは、現実も悪夢のつづきみたいなものだと改めて思った。 それが、間近にいるからこそ、そんな夢を見たのかもしれなかった。 それとは、カヲルのことだ。 ワンルームの部屋は、ケーブルが所狭しとのたくっているし、ギターアンプやらタンノイのスピーカー やら楽器やら機材で部屋の片側は埋め尽くされ、トイレに行くにしても冷蔵庫からビールを取るにしても、それをいつも股がなければならなかった。 いつまで経っても死後硬直も始まらないし、「もしかしたらオマエ死んでないんじゃないのか」なんて冗談で言ってみたりするけど、カヲルの首にピアノ線を巻き付けて絞め殺したのは、確かにぼくなんだから、まちがえようもないんだけれど、だから誰かがぼくのいない間にカヲルに注射したんじゃないかと思うことにしている。小学生の頃にやった昆虫採集のときみたいに、カヲルは緑色した防腐剤を注射針で打たれたんだ、きっと。 二の腕を触っても肌は全然乾燥していないし弾力もあって、まるっきり生きていたときと変わらないほどだ。ただし、シャワーを浴びたとして、以前みたいに水をはじき返すかどうかは大いに疑問だけれども。 ローライズのパンツに薄いピンクのキャミソールを着ているカヲルは、俯せになったまま微動だにしない。 きのうまでは、グレーのプリーツの入ったスカートに白のタンクトップとそのタンクトップがそっくり透けて見えるエスニックな柄の入ったムームーみたいなのを着ていた。でも、たとえ死んでしまっていても、やっぱり女のコだからおしゃれしたいにきまってるわけだし、そうでなくてもずっと同じ格好をさせておくのは忍びなかったので、タンスから適当に選んで替えてあげたのだった。 カヲルは、まだあどけなさが残る美しい顔を左側に向けて永遠の眠りについている。後悔してないといえば嘘になるけれど、なにかすごく透明な気持ちがつづいていて、それを邪魔する別な感情は意識的に押さえ込んでいるのかもしれなかった。 たまにどうしてもカヲルと話がしたいときには、もうずっと以前に解約してしまったカヲルのケータイにメールする。むろんカヲルからの返信があるわけもないけれど、いつかメールがくるような気がしてやめられない。 昨夜は、LIVEだったので久々に深酒してしまい、初電で帰ってきたけれど、カヲルの形のいいお尻を見たら、ムラムラして堪らなかった。 カヲルはそうやって、ぼくに復讐しているんだ。
![]() 今朝、起きたら手が真っ赤でびっくりした。 それも生半可な赤じゃない。 パジャマも下ろしてみたら足まで真っ赤。 で、もしやと思ったら やっぱ、大切なとこもマッカッカ! 急いで鏡を見てみたら 顔も真っ赤! もういやだ こんなの絶対いやだぁ!
![]() 「東京の空にもこんなに星があったなんて知らなかった」 そういってユカは、目をきらめかせ少しでも星に近づきたいみたいに、フェンスの金網に手をかけ背伸びしながら、夜空を見上げた。 ユカのことを世界中でいちばん嫌っているのはこのぼくだと思う。 離れていると一秒でも早く逢いたくなるのに、一緒にいると憎らしくてしかたない。 ケンカしない日なんてないかもしれない。そのたんびにぜったい別れてやると思う。 「あ、ねー見て! 流れ星」 しゃがんでいるぼくにも、ユカの肩越しにすーっと尾をひいて東の空の方へと燃え尽き消え入ってゆく、星の残骸が見えた。
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