あたろーの日記
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2003年05月21日(水) 「感じることば」

 昨日、今なんていう本を読んでいるのか問われたんだけど、ほんとは正直に答えるのがとても勿体ないような本を読んでいる。
 誰にも教えたくないような、秘密にしておきたいような本。
 読み終えるのを少しでも遅らせたくて、言葉のひとつひとつをかみしめながら読み進めている本。
 たぶんまた本棚から取り出しては、時々ページをめくるであろう本。

 黒川伊保子という方の「感じることば 情緒をめぐる思考の実験」(2003年筑摩書房)という随筆集。
 私も本屋で書名に惹かれて手に取るまでこの方のことを知らなかったのですが、略歴を転記します。
 「1959年生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、コンピュータメーカーでAI研究に携わり、ロボットの情緒を追究。ことばの不思議や、情緒の謎をビジネスに活かすコンサルタントとして活躍中。音相システム研究所主任研究員」
 このような経歴・興味の持ち主の書かれる随筆ってどんな感じなんだろう、と思ったのですが、店頭でちょっと読んでみたら、一気にその文章の魅力に引き込まれてしまったのです。
 染色家である志村ふくみさんの書かれる随筆がとても好きなのですが、黒川伊保子という方の書かれる文章も、志村ふくみさんの文章を読むときと同じくらいに、独特の世界と言葉の美しさを感じさせてくれます。志村ふくみさんとはまた違った雰囲気なのですが、文章を以ってして人を酔わしめることが出来る書き手はなかなかいないのではないかと思いますが、その数少ない中の1人ではないかと思うのです。私の思い浮かぶ限りでは、作家の古井由吉、川端康成、この方々も、言葉に対する感覚がとても繊細で滑らかであるような気がします。そういう感覚って意図してできるものではなく、言葉を発する前、文章を書く以前の、その人固有のものの感じ方から来るものだから、他人が真似しようとしても、それっぽいのは出来るけどほんとのところは近づけないんじゃないかなあ。羨ましいなあ。。

 「感じることば」で黒川さんは、やはりご自分の研究テーマである言葉のもつ「音相」についていろいろ示唆的なことを書かれている。どれもはっとさせられ、深く納得できる。こんな切り口もあったのだ、と驚かされる。文章を読み、言葉のひとつひとつを追っていくそのさなかに、他の書き手の文章では刺激されない脳のある部分が開化していくようで、心地よい。
 うーん、もしかしたら、この本の与えてくれる本当の快楽を享受できるのは、男性ではなく圧倒的に女性かもしれないです。
 「愛」と「ことば」とのとても密接な関係について、非常に示唆的。
 で、彼女の愛する男性と彼女のやりとりがとても静謐で、それでいて情感がこもっていて、いいなあと思う。
 でも、言葉に対して敏感な男性なら、同じく、いいなあ、と思うかも。。
 
 ほんとは人に教えたくないんだけどこっそり耳打ちしたい本、でしたー。
 


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