そこには髭の生えた不気味な男が立っていた。 懸命に鏡の中を覗いている。 右手を顔の方にやる。髭を触ってみる。 ジャリッとした手触りが気持ち悪くてすぐに手を離した。 髪は立ってあちらこちらに跳ね上がっている。 目は腫れ上がって、半分しか開かない。 口は乾いて、言葉は何も発せない。昨晩の酒のせいで匂いすらする。 歯は煙草で黒ずんでいる。 不気味としか言いようがなく、またこんな人間を『どうしようもない』 と言うのだろう。 懸命に鏡に向かって水をかけてみた。けれどそこには不気味でどうしようもない男がいる。 蛇口をいくらひねっても、いくら水をかけても・・・。 鏡を壊すしかなかった。
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