目覚めは思ったよりも早かった。小学生の頃を思い出す。 土曜の朝は何も用事はないのに、何故か早く起きてしまう。親たちはまだ寝ているのに自分だけが朝を支配しているように思える優越感に浸っていた。 そして今日と明日の休みをどうするか考えるだけでワクワクしていた。 と、言っても子供の頃と違ってそこまで早く起きたわけではない。いつもより3時間の寝坊だ。朝の10時、カーテンの隙間から光が漏れている。外はイイ天気に違いない。近くにある公園から子供の声がする。笑い声がココまで聞こえてくる。親子でキャッチボールでも楽しんでいるのだろう。 私にはない世界だ。羨ましむこともなく、自己弁護するわけでもなく、ただ、私にとっては今は、感じることの出来ない世界なのだ。・・・今は。
今でも本棚の上に飾ってある写真がある。普通の写真だ。犬の形をした写真立ての中に笑顔で男女が寄り添って写っている写真。・・・5年前の。 社会人になってすぐに同棲を始めた。ある女性と。上手くいっていた。ものすごく。一緒に暮らしてから2年目の夏に子供が出来た。彼女は嬉しそうに僕に言った。彼女も、当然僕も産むことを望んだ。本当に幸せだった。これからの家族の為に色んなモノを用意して待っていた。週末になるとベビー用品売場に何か買いに行くことが習慣となった。その時間が凄く嬉しくて、幸せだった。自分もようやく一人の大人になれるのではないかと思った。 しかし、神はそんな2人に微笑んではくれなかった。私は1度に2人の大事な命を失ってしまった。私だけがこの世の中に生き残ってしまった。世界で何よりも大切な二人を神は私から離した。恨んだ、自分の運命を、憎んだ、神を。 −あれから5年の月日が流れた−
誰よりも愛していた二人を失った傷は未だ癒えてない。寂しい独り言が部屋に積もった。時々窓を開けなければ積もってしまって開かなくなる。悲しみと共に外に出さないと涙が溢れて仕方なくなってしまう。その前に窓を開ける必要がある。土曜日に開けるのは気が重い。楽しそうな声が聞こえてしまうから。
5年前から一歩でも前に進んでいるのだろうか? あの日から立ち止まったままだ。沸き起こる感情を一つ一つ処理するための時間を独りで過ごしてきた。 −もう少し前へ行ってみようか− 開け放った窓の外には雲がいくつか並んでいた。土曜日の親子を象徴するように楽しそうに泳いでいる。穏やかに。 −もう少し前へ−
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