f_の日記
f_



 昼下がり

いつもの道を歩いていたら
今まで気がつかなかった建物をみつけた
ビルの谷間にひっそりと
カビ臭そうに佇むそれ

門をくぐると石畳がつづいて
道祖神のような像が簡素に並んでいる


民芸品と工芸品の展示場
入り口の受付に一人の女性が座っていて

仕事をしているのかずっと俯いて
薄いガラス一つ隔てて
こちらに気付く様子もないので

僕はコツコツと二つ
窓を指でたたいた


少し驚いて顔を上げると
にっこりと頬笑み館内へ促してくれる
その静かな所作に好感を覚えながら
会釈を返し引き戸を引いて
中へと足を踏み入れた


館内は静かで誰もいない
自分の足音だけがカツコツと木霊して

漆塗りの器々
竹細工や金物が
放り出されたように
それでも丁寧に並べられていた


丹念に眺めながら
こんなものに囲まれていれば
つつましくも清楚に暮らせるのかなと夢想を抱きつつ

入り組んだ造りの内装
二階、三階、屋上へ雑然と並んだ作品

街の喧騒から離れ
遠野物語の屋敷に迷い込んだかのような錯覚の中で
迷路を抜けていく


忘れ去られたような品々の
ひとつひとつに感動をおぼえながら


誰も来ないガラスケースのなかで
それは美しかった

雅やかでもなく
艶やかでもなく
実直なそれ


また街への門をくぐって
表の張り紙に目をやると


此処は今日までだと知った

2004年11月20日(土)
初日 最新 目次 MAIL