薔薇園コアラの秘密日記

2002年12月16日(月) 大嘘

 朝っぱらからポーランド人に大嘘を付いてやった。

 毎日OCSから新聞が配達されるのだが、届くのが遅い。いつも夕飯を食べ終わるころ。うーむ・・・そんなに遅くに持ってこられてもねぇ。
 そこで耐えかねて朝一番にOCSに早く配達してくれるように依頼の電話をした。そして最後にポーランド語で言い放った大嘘。
「私はジャーナリストです。毎日、新聞を読んで仕事をしないといけないのです。新聞が遅いと困ります」
だって。ククク、よく言うよ・・・。すると、
「ハイ、わかりました。それではこれから毎日一番にスタッフに届けさせます」
先方は、少し慌てた様子。今までも、何度も配達をすっぽかされたり、遅かったりして、OCSに苦情の電話を入れてきたが、この大嘘は絶対に効くであろう。嘘も方便。

 私は基本的に、嘘はつかない。つかないというより、単細胞だから、何か指摘をされるとつじつまが合わなくなってすぐに嘘がばれてしまう。だからはじめから嘘はつかない。
 日本人同士で、嘘を介する付き合いは息苦しいが、外国人相手になら案外平気でもある。マンションの上に住む大家さんとお手伝いさんには、私は作家の卵だ。と言っておいた。これで一日中パソに張り付いていても、ボーっとしていても、朝グーグー寝ていても何の不思議もないであろう。テニスのコーチには、今は左膝を痛めているから速く走れない、と言っておいた。ただ単に太りすぎで走れないだけなのに。ポーランド語の先生には、ドイツ語だったら全く支障なくしゃべれるんだけど、と言っておいた。これは年とともに脳の働きが退化して、語学が上達しないだけ。ドイツ人たちには、いつも実年齢より少なくとも6歳はさばを読んで、年齢を白状したものだ。この程度の嘘なら許してもらえるだろう。でも、なんだか私の嘘は、法螺に近いかも。

 日本人特有の嘘に、虚栄と謙遜がある。
 虚栄は論外だが、日本人の間では謙遜は美徳だと思っている人が多いかもしれない。でも私は決してそうは思わない。なぜに日本人はうまくできることでもあえて「私にはできません」や「下手で恥ずかしいのですが・・・」などと見え透いたことを言うのだろう。私はこうこうこういう事ができます。皆さんにどうぞごらんいただきます。ときっぱり言い切ることができる人のほうが、絶対に潔いし、自己主張ができていて個性があっていいと思う。
 
 などと、自分の法螺を正当化するわけではないが、ただ、自分がこのように自己主張するに至るまでに、こんな私にも長いドイツ滞在生活をとおして、いろいろ紆余曲折もあったのだ。

 ドイツで学生みたいなことをしていた頃、初めて知り合った人には必ず、職業か趣味について「あなたは何をする人か?」「大学で何を専攻したか?」または「あなたは何が得意か?」と単刀直入に聞かれた。正直なところ、返答に困ってしまった。当の私といえば、無趣味、無資格、無職(専業主婦とも言う)。学歴も遊びほうけてきた自分の学生時代を振り返ると、人に何を専攻したか口が裂けても言えたものではない。これは謙遜以前の問題で、これでは全くの無知無能な人間ではないか? 
 
 こういう会話を何度も交わすうち、このままではいけない、自分は変わらないといけない、と自然に思うようになった。いつかは何か堂々と自分の特技や趣味を言えるようにならねばと。 
 
 それからの私は一念発起して、マールブルグ大学で学生の資格を取得して、ドイツ語学を専攻するために邁進(ちょっと大げさだけど)した。ただの一海外駐在員の家族がそこまで我武者羅にドイツ語を勉強する気になれたのも、周りの仲間たちの熱心に勉学にいそしむ姿に大きく影響を受けたからであった。
 彼らは、誰もが先の将来の目標を定め、そのための準備として、勉強したり、学校に通ったりして、青年期を送っている。行き当たりばったり的に、私のように狭く限られた選択肢の中で自分の身の振りかたを決めるのではなく、先のビジョンを明確に持って生きているということである。

 私のほうは、ドイツ語学を専攻して二学期目に入った頃、長男の妊娠とともに、結局すべてを投げ出してしまった。育児と学業を両立させている人もいるし、みんなも産後また頑張ったら、と励ましてくれたりもしたけど、やはりどこかに「語学留学の友達とは違って、私は駐在員の家族だから、何もそこまでしなくても…」という甘えが心の隅のどこかにあったのだと思う。今から思えば、ドイツ語学を専攻する目標もあやふやだったかもしれない。

 あれから十数年。今の自分はどうだろう・・・。
今は住んでいる国も環境も目指しているものも違う。でも相変わらず、自分を前面に出してるかも。
 まだ、自分の目標をここで語るには及ばないけれども、その目標に向けての努力は常日頃怠ってはいない。現在進行形。あとは飛翔へのチャンスとタイミングと神の手を待つのみ。

 それよりも、今日ついた嘘、やがて実現しないかな…。おもしろいじゃない、ジャーナリストだなんて。やっぱ無理かな、新聞ちゃんと読まないもん。アハハ、私って、ほんとに大嘘つき!


 < 過去  INDEX  未来 >


祐子 [MAIL]

My追加