窓のそと(Diary by 久野那美)
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なぜかガスが止まってしまって・・・、ガス屋さんに電話したらすぐ担当のひとがきてなおしてくれた。引越しのときも来て説明してくれたひとなんだけど、ものすごく親切。ガス屋さんが来るのはちょっと嬉しい。わからないことをいろいろ聞けるから。電気屋さんは町中にあるけどガス屋さんは少ないので、ガス製品についての正確な知識を仕入れる場所がなかなかないのだ。このひとは何を聞いてももほんとうに丁寧に教えてくれる。しかも、ガス屋さんのつなぎが猛烈によく似合っている。 昔、国際結婚した友達の家に遊びに行って、ガスオーブンで焼いたグラタンをご馳走になって以来、いつの日かガスオーブンを買おう!と思っていたので、この機会に根掘り葉掘り聞いてみた。 「オーブンのことについて教えてほしいんですけど・・」 というと、その場で資料を出してきていろいろ教えてくれた。 きれいなカタログもくれた。 「オーブンにはガスのと電気のとがありますが、ガスの方のいいところと悪いところを教えてください。」と言うと、 「みなさん、ガスは危険だと思っておられるんですけど、そんなことないんですよ。今日、僕がこうやってここへ来ているように、ちょっと何かあったらすぐ止まるようにできていますし・・・。電気代よりも安くつきますしね。何と言っても火力が違いますから、炊飯器なんか特に差がでます。ガスで炊いたご飯はおいしいです。火力が強いと言うことは、調理時間が短いということでもあるんです。だいたい、電気の半分の時間で済みます。」 ガス屋さんはものすごく、電気屋さんにライバル意識・・・というかコンプレックスをもっているようだった。無理もないか。あれだけ、情報量が違うんだから・・。 「あの、よいところはわかりました。火力と光熱費ですね。では、電気のオーブンの方がいいとしたら、どんなところですか?ガスではなく電気の製品を選ぶひとたちは、何を理由にガスを敬遠するんですか?」 ガス屋さんは、悔しそうに、しかし、明瞭に教えてくれた。 「・・・・・・まず、価格が違います。」 「ガスのオーブンの方が、高いんですね。」 「そうです。でも・・・!」 ガス屋さんはさっきくれたカタログを開いて説明してくれた。 「カタログをごらんになって、ここのところの値段を見て、<こんなに高いなら無理ね>とか思わないでほしいんです!」 「・・・はい。」 「定価で売ることは、まず絶対といっていいほど、ありません。」 「そうですか・・・。」 「値段を見てみなさんひいてしまうんですが・・・(電卓を出し、すばやく計算)、大体2割から3割引きが普通だと思って頂いていいです。春にはセールもありますし・・・。」 だったらその値段を定価にすればいいのにと思うんだけど、そういうわけにはいかないんだろうか・・・。 「じゃあ、電気のよりちょっと高いくらいですね。それで、光熱費が安くて時間も半分なんですね。だったらみんなガスにしそうなのに・・・」 ガス屋さんは、とても悔しそうに言った。 「そうなんですよ・・・でも、みなさん、電気の方が使いやすいんでしょうね。」 「どうしてですか?」 「まず、さっきも言いましたように、ガスは危険だ、というイメージがあるからです。僕たちから言わせると、電気だってじゅうぶん危険なんですけどね。」 「止まりませんしね。」 「そうです。」 「じゃあ、電気製品のほうがメジャーなのは、ガスが誤解されているからなんですか?」 「いえ・・・・・その・・・電気のコンセントの口は各部屋にだいたいありますけど、ガスは少ないでしょう?たいてい台所だけだし、しかも2つくらいしかない・・・これでは電気製品の方が使いやすい、と思われても仕方がありません。」 「なるほど。」 これはとても納得のいく理由だった。 現代の日本家屋そのものが、ガスを拒絶するようにできているのだ。
ガス屋さんは、とても丁寧に、かつ嬉しそうにガスの説明をしてくれたあと、「春のセールの案内、また持ってきますからね・・」といって帰っていった。
私は面倒なのが嫌いなので、早く済むなら早いほうがいいと思ってしまう。 ガスだと半分の時間で済むとは知らなかった。 いったいどうして、日本でいちばんメジャーなガス製品がガスコンロなのだろう? 煮たりあたためたりするのはむしろ電子レンジの方が早かったりするのに・・・。 家庭料理において、「早く済ませるためにガスを使う」という発想はあんまりないような気がした。たいへん、勉強になりました。やっぱり餅は餅屋、ガスはガス屋。
それにしても。最近はお風呂も直接焚けるのは少ないし、ガスはどんどん不要になっているような気がする。そういえば、学生時代にはじめて一人ぐらししたときも、ガスをひくのを忘れたまま引越してしまった。電気ポットと電気なべがあればそんなに困らなかった。電気がなかったら大変だっただろうと思う。
なんか、ガス屋さんの宣伝みたいになってしまったけど・・・自分の扱ってるものをプライドを持って薦められて、ひとに「それっていいかも。」と思わせる力があるというのはやはり素敵なことだと思う。営業マンの言葉より、職人さんの言葉のほうが気持ちがいい。そういう職人さんに会うと世界が豊かになって、なんか得した気持ちになる。 以前、料金を聞いて簡単に断ってしまった私にクーラーの分解掃除の必要を必死で説得して、暑い中猛烈にスピーディ処理してくれて、作業の間中、クーラーについていっぱいいろんなことをおしえてくれた電気屋のお兄さんがいたけれど、そのときも得した気持ちがした。 「これであと10年はいい状態で使えます。いいクーラーですから、大事に使ってくださいね。」と言われて、素直に「はい。」と思った。高いなあとか思わなかった。 あのときは電気屋さんの勝利。 今回はガス屋さんの勝利。
わたしもそんな職人さんになりたいと思う。
というわけで。 オーブンはやっぱりガスにしよかな。 でも、春のセールは無理。まだずいぶん先のことだけど。
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