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■ 魂のありか
ほぼ脳死状態のAちゃんの、血行動態が急に不安定になった。
昇圧剤を持続点滴していても、上の血圧が50ぐらいしかない。
ということもありモロモロの理由で、ベテランの先輩がその子をマンツーで看て、私はいつもより多い患者さんを受け持って準夜帯でリーダーをしていた。 しかも完全電子カルテに移行途中だから、細かく記録をしなければいけないこの部署での重症記録を紙媒体と電子カルテ媒体に完全に二重記録しなければいけない。 要するに、記録も二度手間でえらい時間がかかる。 私は正直要領が悪いので、頭の中は軽くパニックで自分が何をしてるかわからないくらい忙しかった。 この仕事って、経験の浅いスタッフは(いや、それのみならず)、目隠しで綱渡りしてるようなもんだなといつも思う。 下が何百メートルもあって、落ちたら即死の空に綱があるなんて知らずに、 無我夢中で綱渡りをしてるんだ。 落ちないからいいけど、落ちたらアウトなのにね。 どれだけアウトなのかよくわからないけど、とにかく危ない綱渡りをしてるんだっていうそわそわした感じはわかるんだ。
そんなわけで目の回るような夜勤を終えて、ようやくぼうっとしたのは、 ロッカーで着替えて地下から階段をのぼるころ。 青白い検査室の案内灯を見ながら、ぼうっとAちゃんに想いを馳せた。
ひとは亡くなるとき、4日前に魂が抜けるんだってどこかで聞いた。
脈は安定していて酸素の値も保たれていて(でも肺にたまった二酸化炭素はたぶんちゃんと外に出てない)、 ただ血圧だけが低い状態。ボスミンいってて上の血圧50台っていうアレだけど。
Aちゃんの魂は、いまどこにいるのかな。 まだAちゃんの中に、いるのかな。
夜中に駆けつけてきてくれたお母さんには、ちゃんと会えたかな。
看護師である友達の、学校かどこかで働いてる友達が、
「子どもたちが成長していくのを見るのはほんとに楽しい。
ねぇ、看護師って何が楽しくてやってるの?
やっぱ、人が死ぬのとかにも慣れるの?」
って、聞いたらしい。
それを聞いて、なんともいえない怒りを覚えた。
別に私達は見返りを求めて仕事してるんじゃない。
人が死ぬのに、慣れるとか慣れないとかってあるの?
毎回嘆き悲しんで、芝居がかったそぶりをするのが慣れないって事だとでも言いたいの?
…人の生死を、あんたは何だと思ってるの?
誰が本当につらいのか、何が本当につらいのか、 どう考えるべきなのか、どう行動するべきなのか、 何がほんとうに大事なのか、
よく感じて考えるべきだと思うけど。
私は未熟だから、まだわからないし結論なんて無いけど、 うまく説明できないけど、 そんな簡単に言い表せるものごとなんて、 考えれば考えるほど、無いと思う。
2010年04月07日(水)
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