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垣間見た『死』 - 2002年10月30日(水) 今日、バイトで掃除をしていた。 雨がすごくて店内が水浸しで酷かった。 枯葉も落ちてくるもんだから掃いていた。しかし、枯葉は水分を吸っていて重い。中々上手く掃けなかった。 入口付近もやろうとして外へ出た。 少しおさまっていたとは言えまだ雨が降っていた。片方のドアは強風の為、という理由で閉めていた。 雨に濡れたドアを拭いていて、ふと、何かが目に入った。 死骸だ。 鳥の死骸だった。 社員に聞いてみたら、袋か何かに包んで捨てた方がいい、と言われた。だから、まず、それを人目につかないように掃いた。 それから事務室に行って紙袋を取り出し、そこに入れた。 ティッシュを三枚ほど掴んで死骸を取り出した。 死骸には外傷が見当たらなかったので、多分寿命か凍死だろう、と他のスタッフが言った。 鳥は思ったよりも、とても軽かった。 死後は体重が重くなるのではなかったのか。それにしても軽い。鳥だから仕方のないことだが、すごく軽く感じた。 その目はうっすらと開いていた。 鳥は最期に何を思ったのだろうか。 もっと生きたかったのだろうか。 もう死にたかったのか。 その鳥にしかわからないことだ。 ただ、自分はその姿に胸を痛めた。 今日がこんなに寒くなく、雨が激しく降っていなければ、鳥は死なずに済んだことであろうか。 鳥は、冷たいコンクリートの上でひっそりと一人で旅立つより、温かい土の上で仲間に看取られながら逝きたかったのだろうか。 うっすらと開いていた目は、最期に、何を映したのだろうか。 土に埋めてあげればよかったのかもしれないが、周りはコンクリート、天候は雨。仕方なかったので、丁寧にくるんでゴミ箱に入れた。 うちの店は飲食店ではないので、生ゴミではなく燃えるゴミに。 その間、自分は何度も、ごめんね、と鳥に対して言っていた。土に埋めてあげたかった。土の上にでも置いておきたかった。けれど、店先でそんなことはできないし、下手すればいじられたり、カラスなんかにおもちゃにでもされそうだった。 ゴミ箱に入れて、手を合わせた。 それから、まだトイレ掃除が終っていなかったので、トイレ掃除をしに行った。 そこで、一人になって。 涙が出そうになった。 あの鳥は、まだ生きたかった。 もっと生きたかった。 そう思うと、胸が、喉が、締め付けられるように痛い。 生きたかったのか、死にたかったのかは鳥にしかわからない事ではあるが、泣きたかった。 自分は、『死』を垣間見た。 『命』なんてものは、簡単に終らせることができるやっかいなものだ。 鳥は生きたかったのに、『命』がそれを許してはくれなかったのだろうか。 寒い、冷たい、寂しい場所でひっそりと息絶えることが、その鳥の『運命』だったのか。 鳥は、自分の人生に満足だったのか――。 この気持ちは、鳥にとっては、同情以外の何ものでもないだろう。泣かれても生き返るはずもない。 そんなことは分かってる。 これは単なるエゴだ。 それでも、泣きたい。 生きたい『命』と、生きたくない『命』。 鳥は、生きたくても生きれなかった。短く儚い『命』 人は、どうだろう。 生きたくなくて、『命』を終らせる人だっている。 生きたくないのに、『命』を続けさせる人だっている。 なんて、わがまま。 鳥には、そんなものは選べないのに。 生きたくても、生きれないのに。 人は、『生』と『死』を自由に選べる事ができて、幸せなのか。 その答えは、人によって様々だ。 『死』によって、幸せになる人もいないとは限らない。 自分は死にたくない。 若い身空でなんか死にたくはない。 『死』が怖い。 それについて考えると、自分が『自分』なのか分からなくなってくる。 この手は『自分』なのか、 今、こう思っている自分は『自分』なのか。 自殺した人、したい人の気持ちや理由はわかる。 つらいことから逃げ出したい気持ちもよくわかる。 ただ、考えて欲しい。 生きたくても、それが出来ないものたちの事を。 短い一生の中で精一杯生きたものたちの事を。 ―自分たちの『生』は、そういうものたちの『死』の上に成り立っている事を― あの鳥には、是非とも天国に行って欲しいものだ。 ...
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