幼いとき、たぶん小学校に入る前の時だと思う。多分山梨県の方だと思うが、 親に連れられて山の中にある比較的大きな美術館に行った事がある。
今思うと間違いなくゴッホ展なのだが、 当時の俺はその美術館がとてもつまらなかった。
まわりの大人の真似して遠くで眺めたり近寄ったり腕組みしたりしてたと思う。
ま〜でも要するにつまらなくて、親から離れ、うろちょろしてた時
今でもはっきり覚えている事がある。
高さ1メートルくらいの2本の銀色の柱から吊るされている赤いロープを ごく普通にまたいで、俺は人さし指を伸ばした。
その人さし指の行き先はデコボコ。
目の前の大きい絵の表面のデコボコをその人さし指でなぞりたくなって、 なぞり始めた。
「なんで絵なのにこんなデコボコしてんだろう?なんだこれ?いろんな色が 混じってんな〜。」と思いながら人さし指でなぞっていた。
妙にかたかったのを覚えている。どれくらい時間が過ぎた事だろう。 おそらく一瞬の出来事だったと思うが、えらく長く感じたのを覚えている。
でも俺はそれ以上に覚えているのがその時の異様な雰囲気だ。
まずパッと目があったのが制服姿の美術館の係りの女性。 そのあと徐々に赤いロープの外側にいる人々の視線。
みんな時が止まったように俺を見てた。
なにがなんだか解らなかったが、「きっとやっちゃいけない事を、誰もやる わけないと思われてる事を、目の前の幼い子が何ごとも無いかのように指で こすっているんだ。早くこするのをやめなくちゃ。やっちゃいけない事を やっているんだ。」
とても恐かったが、何故かとても楽しかった。
でもその事は親にバレちゃいけない事だと思ってずっとその美術館では 親のそばに戻らず、誰とも顔を合わせたくなく、 入り口のロビーで親が出て来るのをずっと待ってた。
今思うとあの時、もう少しこすっていたら俺は爪を立てて あの油絵を間違いなくけずっていた。
そうなれば一大事だったが、何が言いたいかというと・・・あん時の・・・ 人指し指を・・今でも・・・・・・愛している。
でも今はもう出来ない。
それにしてもあの時、俺がさわった絵は何だったんだろうか? まさか「ひまわり」じゃないとは思うが、 今度ゴッホ展が開かれる時その絵に会えるかな。
もちろん俺は覚えてないけど奴が覚えていてくれてるかも知れないと思うと ワクワクする。
何が言いたいかっていうと、今、上野美術館でピカソ展が開かれているが 初期の頃の絵しか展示されていない事を知って 少しがっかりしているところなのさ。
チャンチャン。
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