2010年11月02日(火)  右へ左へ。
 
病名はヒルシュスプルング病疑い。私が看護学校で学んだ時は結腸が風船のように膨らむことから「巨大結腸症」と呼ばれていた。
 
なぜ風船のように膨らむかというと、直腸に便とガスが停留するからで、なぜ停留するかというと肛門から数〜数十センチの腸壁の神経節細胞が欠落しているためで、要するに便やガスを出したいとサインを出しても、それを受け取る部分が先天的にないため、便もガスも出すことができなくて、結果、カエルのようにお腹が膨らむのである。
 
約5000人に1人発症し、女児より男児が3〜8倍ほど多いといわれているため、御ココは結局何万分の1の確率なんだと思ってしまうが、まあ何にしたって何万分の1に選ばれるなど生きていてそうそうないことである。こんな時こそ思考はポジティブにねと妻に言うと、あなたはどんな時でもポジティブでしょと笑っている。
 
神経節細胞が欠落している長さによって、人工肛門を作ったのち開腹手術を行ったりするものから、腹腔鏡という外科的浸襲を最小に抑える方法まで治療法は実に様々で、何センチ欠落しているかは大学病院で精密検査をしてみなくてはわからないとのこと。
 
「大学病院ねぇ・・・・・・」
 
御ココの肛門にカテーテルを入れながら呟く。退院して2日目。すでに浣腸やガス抜き処置は日常に溶け込もうとしていた。
 
ここから大学病院まで2時間。しかも鹿児島の半島から半島をまたぐため、フェリーに乗らなければいけない。御ココは入院となるが、家族は実家と病院を行き来しなければいけない。往復4時間の毎日。産後間もない妻のことを考えるとその負担は計り知れない。
 
「大学病院ねぇ・・・・・・」
 
今度は妻が呟く。自力では排ガスも排便もできないが、浣腸とガス抜きさえすれば他の乳児と何も変わらない。お腹が空けば大泣きするし、おっぱいだっていっぱい飲む。
 
どちらにも似ているその顔は、生後間もないのに実に表情豊かで、いつも私たちの会話を聞いているように視線を右に左に動かしている。
 
今後進むべき方向はニ択。右へ左へ。左へ右へ。御ココの視線のごとく、私たちは静かに迷っていた。
 

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