きりんの脱臼
DiaryINDEX|past|will
[きりん脱臼商会BBS][きりんむすび][短詩型のページ μ][キメラ・キマイラ]
ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
コラボレーションサイトです。(ゲスト有り)
BBSもあります。ご意見・ご感想など気軽にお寄せくださいね。
メールマガジン「きりんむすび」もどうぞよろしく。
母さんが処女だったころつけた名に嫉妬していた覗くスプーン 日菜清司
*
月子は 小声でなにか囁きながら ねっしんに銀の匙をみがいている ふかみどりのスカートの裾から頼りない踝がのぞく かあさまの言いつけどおり 下着はつけていない ピアスも指輪もはずして 腰までとどく髪は麻のひもでたばねてある
けっしてからだをあまくしてはいけない と 何度も念をおされたのに 「さあのきゆ」 くりかえす呪文がたちまちからだをあまくする 「ちたしたわらなうよさ」 匙はにぶく曇ったままひかりをはじく気配もない みがけばみがくほど 月子の腕のほうがしだいに透き通ってゆく 指先からちからが抜ける 匙はどんどん重くなる 「しいるかひ」 だめなのかもしれない 月子は考える 今はいつの今だろう 「りとるちおにみう」
やがて月子はねむってしまう ねむりながら溶けはじめ 溶けながら小さなものになって
匙のくぼみに
*
るてしいあるてしいあ あのあめゆきのあまいひと匙あげるやくそく 村上きわみ
|