きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
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るてしいあるてしいあ あのあめゆきのあまいひと匙あげるやくそく 村上きわみ
なにもないようといいながら犬のようなひとが駆けてきた。 私にだってなにもないから、ないものをあたえることはできない。 でも、雪が降っている。 雪はつめたいので、やはりなにかをあたえなければならない。 そうして全身を確かめていたら、ジャズカルテットが出てきた。 ラッパのひとをあげたら、犬のようなひとは犬のようによろこんだ。
まだからだにはピアノと、太鼓と、コントラバスのひとが残っている。 私は生きてゆかねばならないので、大切にからだに残しておいたのだが、 犬のようなひとも生きてゆかねばならない。
どうしよう。
あたたかいものをあげると約束したのだった。 犬のようなひとは、犬のようではあるが、決して犬ではない。 かなしそうにラッパのひとがラッパを吹く。 私の内で、ピアノがつづく。 太鼓もつづく。 コントラバスには指があてられる。 ラッパのひとだけでは足りない。 からだはすぐにひえてしまうから、私は太鼓のひともやった。 これで半分半分。
あとは演奏が途切れないように、おたがいによくしなければならない。 私は犬のようなひとを愛し、犬のようなひとは私を愛した。
楽器が、鳴り響いた。
約束は、約束のまま。 季節だけがかたん、とかたむいて。
もうひとひ眠れば初夏になりそうな陽射しを束にして持ってゆく 笹井宏之
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