今日の目覚めはやや複雑な気持ちだった。 まさか、昨日の悪夢の続きが見られるとは思わなかったので。 夢の中で僕は、奇妙な展開に苦笑いをしていて 起きてからもその感情に引き摺られたような感じだ。
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仕事の合間、一息つこうかとコーヒーを買いに出たときのこと。 リフレッシュコーナーに置いてあった雑誌を何気なく手に取ってみていると、 表紙に笑顔を飾っていたのは地元の劇団の劇団員だった。
とは言っても、別に同じ劇団でも、 それどころか顔見知りというわけでもないのだが、 恐らく共通の知り合いが何人もいるはず、と思うと 親近感が沸くから不思議なものだ。
それほどまでに、嘗て僕がいた演劇の世界は狭い。
特に裏方は本当に重宝されていた。 少ない報酬、時にはノーギャラで、しかも学校や会社を休んで、 自分が登場せずチケットも売れない芝居を支えるのは、 本当に裏方が好きか本当に物好きしかいない。
10年前、僕は後者の方でその世界へ足を踏み入れた。 隠れ家のような劇場のオペレーションルームで、 僕らは何度も舞台を作り上げ、そして壊していった。
その後僕は裏方から引き摺られるように表舞台へと立った。 役者になって最初の公演は、小屋自体が隠れ家のようだった。 正面に大きな鏡のあり、楽屋からハシゴで舞台に降りるという 不思議な構造のその小屋は、隠れ家というより秘密基地に近かった。
そして、その公演は生涯忘れられない体験へと代わり、 その後何度芝居を打っても、最後までそれを超えることは無かった。
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後にそこは、同時期に筧利夫がレッスン場として使っていたと知った。 ブラウン管の先に見た懐かしい小屋の風景の中に、 僕が超えられなかった壁が残っているように思えた。
そして、僕はまた裏方へと戻る。 次のステージは演劇ではないけれども、 きっと忘れられない体験になる。
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