登録していない電話番号から、携帯にメールが届いた。 迷惑メールにしては手が込んでるな、と本文を見ると、 かなり有名な芝居に出るから見に来てくれ、という内容だった。
相手はメールの中で名乗っておらず、登録してないから 当然誰かわからない。 仕方が無いので、ネットでその芝居について調べてみると、 そうそうたるメンバーの中に、オーディションで受かったという 彼女の名前があった。
昔ちょっとだけ関わったことのある芝居の役者だ。
彼女は地味ながらも本気で役者で食うことを目指していた、 小林聡美のような雰囲気をまとったいい役者だった。 何度か彼女の芝居に音響として参加したことがある。
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前に君達が泊まったホテルの裏には図書館があって、 その先の坂を上がったところに公民館のような、 貧乏劇団には使い勝手のいい建物があった。 僕らはそこで、毎週のように芝居の稽古をしていた。 彼女も芝居の練習のために片道2時間通っていた。
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今週はかなり忙しいのできっと彼女の芝居も 見に行くことはない。 でも、そうやって夢を一つ叶えた彼女に、 僕は遠くからエールを送る。 そして、今度彼女の芝居があったら見に行こう。 そして目下気になっていることは 君はあと何日で部屋の掃除が終わるのか、である。
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