高校のときの恩師である部活顧問の先生は毎年、 卒業式に部の卒業生に白いキャンバスを贈ってくれる。 それは今でも続いているのかもう知る由もないけれど、 当時、わたしも白いキャンバスをいただいた。
「贈呈 H9.3.1 To 正山小種(仮)」
キャンバスの裏側には先生の字でそう記載されている。
これからの人生、進むべき道は一人ひとり違う。 今はまだ真っ白なキャンバスに等しいけれども、 この先それぞれがそれぞれの色を重ねてゆく。
白いキャンバスにはそういう意味が込められていて、 時折眺めては「あの頃描いた理想の自分に近づけただろうか」と 想いを馳せる事がある。
今はまだ真っ白なままだけれど。 歳を重ねておばあちゃんになった頃、 人生を振り返りながら想うものを描きたいなあ。
そうして、先生が書いてくれたわたしの名前を眺めながら、 もうすぐこの名前でなくなることの重大さに ようやく気づいた気がする。 名前が変わったからといって 「わたし」が「わたし」でなくなるわけではないけれど、 それでもやっぱり変わるものはあるんだろう。
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