中野さんはカフカなどの翻訳者。 以前に「ハラスのいた日々」という本を出されて それがテレビドラマになったときに見て、 それから翻訳ではないものを読むようになったのだ。 ハラスの時は、ハラスが可愛くて、犬のことにのみ気を取られて読んだし、見たものである。 この「犬のいる暮らし」は、もちろんハラスから始まって マホ、ハンナ、ナナという芝犬を飼っての思いが書かれているのだが、 人と犬のかかわり、特に、 「老後」といわれる世代の人にとっての犬との関係が、 実生活を通してつづられている。 ヘッセやゲーテやカフカを愛してやまなかった氏が77歳の今 心(しん)から思うこと。 「人にあるのはいま生きてここに在るという時だけで、 未来とか過去という時があるわけではない 人にできるのは、生きてここに在ると言う時を 力いっぱい押してゆくことだけだ そこにおのずから未来が生じ、過去が生まれるに過ぎない」 時間を「過去から未来に向かって延びる棒」と思うことを止めた と書かれている そういう世代にとって、必要とされること その喜びを最大限に与えてくれるもの。 それが、氏にとっては犬たちなのだ。
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