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少し前。 桜の花が風で舞い落ち地面はピンクのじゅうたんで美しく彩られていた日のこと。 歩いている私の横を一台の黒っぽい車が通り過ぎて、そして止まった。 見るともなしに見ていると中から30代くらいの女性が出てきて小走りに家に入っていく。 戻ってきた女性の手には数珠が握られている。 車の中に目をやると同じくらいの女性がコンパクトを覗いて化粧している。 その光景は、本当は悲しみに包まれているはずなのになにかしら華やいだムードがある。 亡くなった人はきっと、彼女らの身内ではなくご近所のそれも天寿を全うするくらいの年齢の人に違いない。 ぼんやりとそんなことを考えている私を尻目にその車は発進し、角を曲がって遠ざかっていった。 その黒っぽい車体には、通ってきたばかりの道路から舞い上がった、ピンクの花びらがまとわりついていて タイヤにもまるで吸い付くようにピンクが舞っていた。 悲しみの中にある、微妙に華やいだ雰囲気。 今はまだ若い彼女たちにもその日がいつか来るだろう。 その前に私もその日が来るだろう。 そのときは、同じように誰かが、忘れた数珠を取りに家に走りこみ、そして化粧を直すんだろうな。 ![]() 柔らかい日差しに映える八重桜
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